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篤があつしに変わるまで 10 『福島社長との最後の会話』

このエピソードからお読みの方は、 『篤があつしに変わるまで 0 プロローグ』 からお読みください。
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 前回ボクは、「神にもすがる気持ちで福島社長からの報告を待つ日々を送ることになる」と書いた。
 さて、この場合の「日々」とは、社会通念上、どれくらいのスパンを指すものだろう? 2週間? それとも1ヵ月?
 しかし、福島社長からは3日後に連絡が来た。

 結果は「全滅」。どこの出版社もボクの原稿を本にはしてくれない、ということだ。念のために、どの出版社にボクの原稿を持ち込んでくれたのか聞いてみたが、挙がった名前は3社。

 1社は、日本人なら誰もが知っている大手出版社。少年漫画の週刊誌からファッションの月刊誌まで幅広く手がけている、素人考えでもコンピュータの専門書など出版するとは到底思えない出版社。
 あとの2社にいたっては、聞いたこともない出版社であった。

「ひょっとして、まさかこれで終わりじゃありませんよね。まだ、ほかの出版社にも営業していただけるんですよね」
「いえ、これでおしまいです。ボクの経験では、3社回って駄目な場合、どうやっても本にはなりませんよ」

 そんな馬鹿な・・・。
 ボクの本を出版してくれるんじゃなかったのか・・・。
 3社回ったって言うが、どのような営業をしたのか・・・。

 待てよ。考えてみると、福島社長には企画書は渡していないはずだ。
 ひょっとすると、膨大な僕の原稿を持って、
「この原稿を読んでください」
 そんな営業をしたのではないか・・・。

 いくらなんでもそれはない。
 素人考えだが、まずは企画書なり、その原稿を書いた人物のプロフィールを紹介するのが「売り込み」というものではないのか・・・。

「この原稿を読んでください」
 そんな営業で本が出版できるわけがない。

「福島社長。お手数ですが、原稿の内容をコンパクトにまとめた企画書と、私のプロフィールをすぐに作ってお送りしますので、もう一度アタックしてみていただけますか」
「いや、それはできません。いただいた30万円分の営業はもうしましたので、ボクの仕事はこれでおしまいです。それに、さっきも言いましたけど、3社回って駄目なものは駄目。潔くあきらめてください」

 30万円で3社。成功しようが、しなかろうが、1社10万円。
 なんてぼろい商売だ・・・。
 これじゃ・・・詐欺じゃないか・・・。

 脳天をハンマーで殴られたような衝撃、とはまさしくこのようなショック状態を指して言うものだろう。ボクは、このとき自分が八方ふさがりの状況に追い込まれたことを痛感した。

 終わった。
 すべてが終わった。
 この数ヵ月の努力も、自分の本が出版されるという「ささやかな夢」も、すべてが砕け散った。

 ボクは、放心状態のまま受話器を置いた。

 この日の電話が、福島社長との最後の会話となった。

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大村あつし@作家、ITライター
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