【コロナで脱資本主義】エピソード11 本当にサラリーマンは不幸なのか?Ⅱ
マルクんの講義の翌日、仕事を終えたアタシは長澤(ながさわ)という女性と食事をしていた。
アタシは、自動車の部品メーカーの東京本社で社長秘書をしている。長澤は私の前任者であったが、夫の地方転勤に伴って会社を辞めたために、アタシがその後釜に座った。
その日、長澤は所用で上京し、挨拶に立ち寄った古巣の社長室でアタシと対面し、アタシをレストランに誘い出した。
互いに面識はなかったが、仕事をバトンタッチした者同士という連帯感、それにワインの助けもあってか、すぐに意気投合し、話は大いに弾んだ。
「エリカさん。会社のほうは、相変わらず薄給なの?」と長澤。
「ええ。相変わらずというよりも、この不況じゃないですか。年収ベースでは長澤さんのときより下がっていると思います」
「でも、生活に事欠くほどじゃないでしょう?」
「それはそうですけど……。でも、アタシは今の自分の境遇、いえ、工場で働いている人も含めて、ついため息が出てしまうのが本音です。だって、自分たちで自動車の部品を作っていながら、その自動車を買うこともできないなんて……」
「……」
「それなのに、社長はアタシたちのボーナスを削っていながら、自分はその部品でできた高級車で優雅に出勤だなんて、不公平過ぎると思います」
すると、長澤が相好を崩した。
「フフフ。社長は創業者よ。すなわち、会社から見たら資本家。そのくらいの贅沢は当然じゃなくて? エリカさん、ちなみに、趣味はなに?」
「趣味は……。いろいろありますよ。年に一度はボーイフレンドと海外旅行に行ってますし、映画や舞台鑑賞も大好きです。あと、最近はゴルフを少しかじり始めました」
「そう。それだけ多趣味で、なにが不満なの? 仕事?」
アタシは、食後のコーヒーに手を伸ばし、それから答えた。
「いえ。今の仕事は大好きです。でも、さっきも言いましたけど、どうしても不公平感を抱いてしまうんです。同じように仕事をしているのに、社長とアタシの給料の違いはなに、って。
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エピソード4までは無料でお読みいただけます。 「資本主義はもっとも優れた経済制度」と子どもの頃から刷り込まれ、それを疑うこともしない日本…
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