篤があつしに変わるまで 15 『山形さんの提案』
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電話の主は山形さんだった。
ボクは、それはそれは多くの専門学校に相談を持ちかけていたのだが、すべてがすべて、ボクに邪険に接したわけではなかった。
中には、親身になって話を聞いてくれるところもあった。
フジロク専門学校の山形さんもその一人であった。
「昨日、書店で本を探していたときにふと思ったんですが、大村さんの本を一番出版したいのは、もちろんほかならぬ大村さんですが、エクセル VBAの本が発売されたら、大村さん同様に喜ぶところがほかにもあると思いませんか?」
「私同様に喜ぶところですか? さぁ、皆目見当がつきませんが・・・」
「エクセル VBAの本を出すって、言い換えれば、大村さんがエクセルユーザーのサポートをする。もしくは、エクセルを宣伝する行為にほかなりませんよね」
言われてみれば、確かにそのとおりである。
だが、咄嗟に浮かんだアイデアに身震いしながらボクは尋ねた。
「山形さん。ボクの本が出版されたら喜ぶ。言い換えれば、ボクと利害が一致するところって・・・」
「気付いたみたいですね。そうです。マイクロソフトです」
やはり、そうか。
要するに、マイクロソフトに事情を説明して協力を仰ぎ、もし、750万円の資金提供を受けることができれば、ボクは一度は断った東新宿出版から本を出版できるわけだ。
マイクロソフト・・・。
あのビル・ゲイツが率いるコンピュータ界の巨人。
いや、巨人だからこそ、750万円ははした金ではないのか?
それに、ビル・ゲイツ一人で何兆円の個人資産を持っている?
もしかしたら、ボクはとんでもなく無礼なことをしようとしているのかもしれない。
しかし、エクセル VBAの本を出すということは、マイクロソフトにとって悪い話ではないことだけは確かだ。
実際、Macでこそエクセルは寡占状況だが、ことWindowsの世界では、まだまだLotus1-2-3のほうがシェアは大きい。
ボクの本が微力ながらもExcelを宣伝し、困っているユーザーのサポートになる。
これも事実だ。
問題は、この効果に対して、マイクロソフトが750万円の価値を見出すかどうかだ。
しかし、その費用対効果をボクが考えてもしかたがない。
決めるのはマイクロソフトだ。
ボクは、深呼吸をすると、吐き出す二酸化炭素に載せて言った。
「山形さん。ありがとうございます! 早速、マイクロソフトに電話をしてお願いしてみます!」