篤があつしに変わるまで 8 『意味不明な30万円の支払請求』
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「え! 30万円!?」
「はい、そうです。ただ、これは前受け金ではありませんので、成功しても成果報酬を別途いただく、ということはありませんのでご安心ください」
「ちょ、ちょっと待ってください。おっしゃる意味がさっぱりわかりません。これって自費出版なんですか?」
「いえいえ、まさか。たった30万円で自費出版はできませんよ、ハハハ。自費で出すと、最低でもその10倍、300万円はかかります。もちろん、しかるべきところから、しかるべき形で出版されると思います。当然、大村さんのもとには印税も入ります。無事出版されればですが」
しかるべきところ?
なにを言ってるんだ、この人?
品川出版が出版してくるんだろう?
無事出版されれば?
原稿が完成すれば出版してくれるんじゃなかったのか?
実は、ボクはこのあとのやり取りを正確には記憶していない。80%の落胆と20%の混乱の中で、かなり取り乱していたことは想像に難くないが・・・。
そして、訳もわからぬまま30万円を支払うことには同意し、6桁しか桁幅のない預金通帳の中から、翌日には指定の口座にとりあえず振り込みを済ませたのであった。
さて、ここまで連載をお読みの方は、ボクが詐欺にでもあったかとお思いだろう。もちろん、詐欺まがいであることは間違いないが、厳密には詐欺ではない。ボクの無知と福島社長の「お調子者」な性格が巻き起こした「悲劇」と言ったほうが正確だろう。
そう、やはりそう簡単に本など出版できるはずは、最初からなかったのだ。
一体、福島社長なる人物は何者なのか。
実は、これまでのボク達のやり取りの中にも、そのヒントは随所に隠されている。
ただ、無知なボクがそれに気付かなかっただけのこと。
では、その謎解きはまたのお話。