見出し画像

県内から関係人口を増やし、子ども達の経験格差の是正に挑戦 -株式会社エートス代表取締役 永井 高幸-

「コロナ収束後に何かチャレンジしてみたい。」「地方に何らかの手段で関わりを持ちたい。」―そんな熱い思いを胸に秘めながら、新たな日常を送っている方もいるのではないしょうか。

今回お話を伺ったのは、鳥取県・境港市出身で県内の出版社に勤める傍ら、自身でも地方の教育格差解決のために事業を立ち上げている永井さん。

都会と比べて地方はスポーツ少年団の遠征費などの負担が大きい、美術館や博物館といった施設が少ないなど、子どもたちが経験できることが限定的であるという ”格差” を危惧し、それを解決すべく「サポスタ」という事業を立ち上げました。

地域課題を民間ビジネスの立場から解決しようとする永井さんに、地方創生において大切なものや、どのように関係人口を増やし、課題の解決に向かっておられるのかについてお話を伺いました。

県外在住の大学時代にわかった地元鳥取の良さ

9月22日6

山陰地方の魅力を発信する出版社に勤めながら、地域コミュニティのプロデュースや自身のビジネスを鳥取県で立ち上げるなど、地域と根強い関わりを持ち続ける永井さん。

しかしずっと地元に残っていたわけではなく、大学時代は一度大阪に出て社会人になって鳥取県に戻ってきたと言います。

永井: 「私は境港市出身で、高校までは鳥取県で過ごしました。その後大阪の大学に入学し、学生時代は県外で暮らしました。

大学時代は古文書の復元に関する研究などをするほか、出版関係のアルバイトで文章を書いた経験もあったため、就職先の選択肢の一つとして出版社を考えていたんです。

今思えば大阪での暮らしや環境などが、地元鳥取の良さを再認識するきっかけになりましたね。」

大阪や東京ではなく、鳥取に戻った理由は何だったのでしょうか。

永井: 「色々ありますが、一番大きかったのは当時付き合っていた彼女がいたからですね(笑)今は奥さんですが。

地元での就職を決意し、出版に携わる会社はどこかと考えたときに、現在勤務している出版社に勤めることとなりました。」

仕事をしながら感じた「まちおこしのコア」

境港妖怪画報


出版社では、取材をはじめ、編集、広告・プロモーション、ローカル本の執筆など、山陰地方にまつわる仕事を長年行ってきたという永井さん。あるとき、地元・境港市の魅力を紹介する仕事を引き受けることとなります。

永井: 「ちょうど水木しげるロードが全国的に有名になっている頃、水木しげるロードについて本を出版する企画をしました。

当時はNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』が始まる前でしたが、徐々に知名度が増し来場者は年間200万〜300万人くらいという状況だったと思います。

もともと水木しげるロードが作られたのは、地元にお金が落ちて地域経済が潤い、住民の人たちも幸せになるためなんですよね。しかし当時実際に訪れた人は、日帰りの観光客が大半。

ちょっとお昼ご飯を食べて、お土産物を買うぐらいしかお金が落ちる要素がなかったんです。

本当は少し裏路地に入るだけで、水木しげる先生の世界観に浸れるレトロな喫茶店やおいしいお店があるのにもかかわらず、知られていない現状。 地元民からすると『ちょっと悲しいな』 という思いでした。

こうしたことを背景に『一本路地に入るだけで、良い場所がある』というまちの魅力を観光客の方々に知ってもらうため、『陽快画報』という本を出版しました。」

出版のための取材を通じて、まちづくりで大切にすべきなのは 「無理するのではなく、まちの本当の魅力を活かすこと」 だと実感したと続けます。

永井: 「水木しげるロードは数年前にリニューアルされたのですが、かつてブロンズ像が置かれ、周辺に鬼太郎グッズのお土産店があるだけのまちとは少し違っています。

先生の世界観や、先生が生きていた時代に寄せたデザインに変化したんです。まちの本当の魅力を発掘し、ブランディングができた結果だと個人的には思っています。

例えば水木しげる先生の漫画によく描かれる昭和の様子に雰囲気を近づけるため、あえておしゃれな照明器具を導入するのではなく、当時一般的に使われていたような昔の街灯風な照明を採用しています。

単純に言えばレトロな雰囲気に変わったということですが、作品の世界観とまちの景観が溶け込むようになったんです。

つまり、まちづくりって斬新で新しいことをすればいいのかというとそうではなくて。 本当に大切なことは、人を呼び込むために無理につくり替えるのではなく、まちの歴史を残しながら整備していくこと だと実感しました。

地方の課題=子どもが多様なコンテンツに触れる機会の少なさ

画像3

「陽快画報」の出版などを筆頭に、様々な地域に関わる仕事を行ってきた永井さん。活動はそれだけにとどまらず、ご自身の子育てを通じて鳥取の課題に気づき、新たな事業を立ち上げるに至りました。

永井: 「上の子どもが小学生の頃剣道の全国大会に出場し、家族で東京まで応援に行く機会があったんです。

でもそれって現実的にお金がかかるんですよね。時間的には東京と米子は飛行機で約1時間で行けますが、金銭的には例えば子どもと両親の3人で行く場合、少なくとも5万円くらいはかかる。

そもそも地方は豊かな自然に囲まれた住環境は素晴らしいものの、 多様なコンテンツに触れる機会は都会に比べて圧倒的に少ないと思います。

例えば、上野美術館で開催されているような展覧会も、山陰地方にまでまわってくることはほぼありません。」

永井さんは、 「たとえ子どもが興味を持たなかったとしても、本物に触れさせることさえできれば親としては納得できる」 と続けます。

永井: 「やはり ”本物に触れる” というのは大切で、将来の夢につながったり、自分より上の相手を知って努力する糧になったり。才能が開花するきっかけになるんですね。

例えば水族館に子どもを連れて行って、全員が興味を持つとは限りません。じっと水槽の中を見る子もいれば、水槽を無視して館内を走り回っている子もいるでしょう。

でも、親としてはどっちの様子を見ても子どもの成長として『良かったな』と思えるんです。ただ水族館に行くという選択肢が、経済的な理由で選べない場合はどうか。

実際に触れさせみて興味がないというのは親として納得できますが、 そもそも触れさせることすらできないというのは、納得できないものです。そこで、自分がいる鳥取で解決する策を考え始めました。

「サポスタ」で地域の子どもに多様な経験をさせたい

サポスター

                           出典:サポスタ

こうした地方と都会の経験格差の問題を解決する一つの方法として生まれたのが、永井さんが運営する「 サポスタ 」事業です。サポスタの具体的なサービス内容について伺いました。

永井: 「経済的な理由などを背景とした、子どもたちの『やりたいことができない』をなくし、 本物に触れさせる機会を与えてあげるため に立ち上げたのがサポスタです。

具体的には民間企業からスポンサーを募り、地域のスポーツ少年団への寄付を通して、地域のスポーツ少年団を資金面から支援する仕組みです。

民間企業は広告費という形でチームを支援し、チームの保護者は自家用車にスポンサー企業のステッカーなどを貼りつけて企業の広報に一役買う。つまりプロのスポーツチームと同じ形での企業プロモーションをスポーツ少年団でもしてみようというものです。

経済格差という問題を家庭で解決するのはなかなか難しいもの。「サポスタ」が地域貢献をしたい企業と資金調達が十分ではないスポーツ少年団とをつなぐことで、少しでも多くの地域のスポーツ少年団が遠征や練習試合で県外の方々と触れ合う機会が増えればと考えています。

現在はスポーツ少年団が寄付の対象ですが、今後美術部や書道部といったスポーツ以外の分野も広げていければ良いなと思っています。

テスト運用段階にもかかわらず、20件ほど 既に お問合せをいただいています。正式ローンチは令和3年1月頃を予定しています。」

既に地域からの反響があるというサポスタは、スポンサー事業だけではなく、カーシェアリングサービスの取組も計画中のようです。

永井: 「子どもに習い事をさせている共働き家庭では、『急な残業で習い事に送迎できない。でも子どもにレッスンは行かせたい。』 といった場面があったりします。

そういった際に近所で同じ習い事に通う親同士で『今日うちの子も一緒に習い事に送迎してもらえませんか?』と、気軽にお願いできるようなサービスを提供できればと考えてます。

今立ち上げている事業の形だけにこだわらず、 ”子どものために何が本当に役立つのか” を常に考えながら、一歩ずつでも子どもの経験が増えるような環境を作っていきたい。

地方の経験値の格差がサポスタを通して少しでも是正できたら本望です。」

関わりが深くない都会の人こそ、地方で活躍できるチャンス

最後に地域課題と向き合い続ける永井さんに、地方で活躍できる人材とはどういった人なのかについて伺いました。

永井: 「地方で活躍するプレイヤーの形はさまざまです。私のように起業するケースもありますし、移住せずに関係人口として応援者として存在するケースや、複業的な形で趣味の延長線上で取り組む人もいます。

ただ私はプレイヤー人材だけでなく、 プロデューサーやディレクターといったような一歩引いた目線で地方に関わる人材が増えればもっと地方が活性化するのではないかと考えています。

そこに適任なのが 都会の人だと思うんです。都会の人々は深く地方に関わっていないからこそ、一歩引いた視点で地方の良さが分かる。まだ鳥取にはそういう視点から物事を見ることができる人が必要ではないかと思うし、解決すべき課題も多いので、都会の人が活躍できるチャンスも多いと思います。

先ほども言ったように、地域活性化には必ずしも斬新で革新的なことが必要かと言われればそうでもない。むしろそんな難しいことをしなくても、 ちょっとアップデートしただけで魅力が伝わることもたくさんある 。

移住までしなくても、できることからでいいんです。今後地方に興味をもって、共に課題を解決していける仲間が増えることを期待しています!」

自身が当事者として感じた、「経験格差」という地域の課題を解決するため自分の事業を立ち上げ、まずは県内の関係人口を増やしながら活動する永井さんの力強い言葉。

この機会に何か地方と関わりたいと考える方々には、あなたを必要としている、地方のためにビジネスをしたり、応援者として関わりを持ってみるのも一つの選択肢になるかもしれません。

株式会社エートス代表取締役 永井 高幸
山陰の地方の魅力を紹介する雑誌LAZUDAなどを運営する株式会社メリット企画開発事業部シニアプロデューサーとして出版会社に勤務するかたわら、株式会社エートスを創業。地域の子どもたちが金銭的な理由からスポーツを辞めてしまう現状を打破しようとマッチングサービスの”サポスタ”事業を立ち上げる。子ども達のやりたいが実現できるような世界を目指している。

サポスタ https://www.saposta.com/

「おもしろがろう、鳥取」はFacebookでも鳥取の魅力や取り組みに関して、情報発信をしております。もし、鳥取に興味をお持ちの方は、ぜひ「おもしろがろう、鳥取」のFacebookページを"いいね!"もしくは、"フォロー"していただき、定期的に鳥取県の情報に触れてみてください。​

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?