地球の裏側に最も速く行き着く方法
庭に穴を掘って、地球の裏側まで貫通させる。そして自由落下すると、さて、どれくらいの時間で地球の裏側まで行けるか? まじめに計算してみました。
それは実は「地球の裏側に最も速く行き着く方法」であると同時に「地球上で安全確実に無重力体験する唯一の方法」でもあるのです。
地球の裏側に最も速く行き着く方法
これまでの科学のイメージは、何度も試行錯誤を繰り返して、たった一つのことを発見する、そんなものだったでしょう。ロケットを飛ばすにも、理屈や計算だけではまともに飛ばない。だから何度も実験を繰り返す。
けれども、今は違います。なぜかというと、デジタルで処理する部分が大きくなってきたからです。デジタルの世界では、メイン・フレームすなわち考え方の部分で科学・数学の理論がそのまま使えるのです。実験もへったくれもない。理屈が通ればOKです。その際に必要なのは、アイデアです。良いアイデアはすぐに実装されます。
さて、そんな時代にどういう態度で科学・数学を学べばいいか。「どこでどのように使われているかを意識しながら、他に使える場所はないかとイメージを膨らませながら、間違ってもいいから何はともあれ当てはめてみる」、そんな態度が望ましいのではないかと私は考えています。そこで、一つ【問題】を作ってみました。
理科の先生に怒られそうな問題かもしれませんが、高校レベルで計算するには上の方法が精一杯ですし、正確ではないにせよおおよその時間は分かるはずです。せっかく物理の時間に習ったのですから、試してみるのも悪くはないでしょう。
何はともあれやってみましょう。公式に数値を当てはめると「6,400,000=10×(時間tの2乗)÷2」となり、これを解くと「t=800√2≒1131秒≒19分」。つまり、約19分で地球の中心に到達します。
その先は重力が反対向きになって減速し、ちょうど速度がゼロになったときに地球の裏側に到着します。よって、地球の裏側に到着するのに要する時間は、これを2倍して、答えは「38分」です。はやっ。
ちなみに、このときの最高速度は「v=gt」を使って「10×1,131=秒速11,310m≒時速40,000㎞」。はやっ。
以上、高校生にもできる、ちょっと雑な思考実験でした。(こんな姿勢が実は大事なんじゃないかと、私は本気で考えているんですが)
アース・ダイビングしてみよう
先ほどは重力加速度を「地球の中心に到達するまでは −10m毎秒・毎秒で、中心を過ぎてからは +10m毎秒・毎秒」として計算しました。けれどもその計算は雑すぎるという意見もありますので、もう少し精度の高い計算をしてみます。
重力加速度が −9.8 から +9.8 への変化をなめらかに変化するように、三角関数を使ってみます。前の記事の式より近似式になっているはずです。そうすると、
となります。ここで k は地球の半径 6,400km=6,400,000m です。ωは角速度です。また、kω^2 が地表での重力加速度 9.8 となればよい。さらに、地球の裏側に到達する時間 t は、地球半周分すなわち πラジアン だけ回ったときです。以上を式で表すと、
さぁて準備は整いました。ここから一気に t ならびに v を求めましょう。
前に出した数値38分とそれほど大きな差があるわけではありませんね。でもだいぶ精度が上がったはずです。理論値はこれくらいです。
アース・ダイバーになろう
ここまでで「地面に垂直に穴を掘って地球の裏側まで貫通させて、そこに飛び込んで自由落下すると、38〜42 分で地球の裏側に到着する」ことが分かりました。運動方程式を立てて計算したから、およそ合ってるはずです。我ながら、考えれば考えるほど、楽しそうなイベントですね。
以下では「地球の裏側に到達するまでの時間を40分」として話を続けます。穴に飛び込んで始めの20分間は地球の中心に向かって重力に引っ張られて、どんどん加速します。中心を超えると逆方向に重力が働いて、後半の20分間は減速して、速度がちょうどゼロになったときに地球の裏側に到着します。
さて、その記述は地球上の人が自由落下する人を見たときのものですが、自由落下する人の視点で見るとちょっと様相が違います。その人は40分間、無重力体験をしているのです。その間にトンネルの壁が移動していく。壁の移動速度は最高時速数万㎞(先程の計算によると、時速 28,800〜40,000 km)。彼にとってはそうなのです。
トンネル内部が真っ暗であれば、彼はトンネルの壁が移動することにも気付かないでしょう。その場合、真っ暗な中で無重力遊泳を楽しんで、40分経過したときに突然ポッと陽の光が見えると、そこが地球の裏側。なんとも楽しい経験ではありませんか。
地球上で無重力体験をする唯一の方法は、自由落下することです。他に方法はありません。NASAの宇宙飛行士養成プログラムの宇宙遊泳トレーニングは、無重力もどきにすぎません。つまり、ニセモノ。ちょっと考えてみてほしいのですが、地上10,000mの高さからスカイ・ダイビングしても、無重力体験できるのは1分未満。しかも極めて危険です。
それに比べて、先ほどの方法ははるかに長時間の無重力体験ができて、しかも安全確実。「アース・ダイビング」と名付けましょう。地球の裏側まで貫通する穴を掘って、そこに飛び込みます。穴に飛び込んだ瞬間から無重力体験が始まります。始めは穴の壁がどんどん加速しながら移動して、途中から壁の移動速度がだんだん遅くなって、壁が止まった瞬間に地球の裏側に到着します。時間にして40分間。ほら、安全確実でしょ。しかも地球の裏側に到達する最短の方法だから、実用的でもあります。
ただし、快適にアース・ダイビングするためには1つだけ条件があります。それは、穴の内部を真空にしておくこと。そうじゃないと、最大で時速40,000㎞の風を受けて、無重力というより風に吹き飛ばされる体験をすることになります。
それだけではありません。真空にしておかないと、他にも困ったことが起きます。空気抵抗によって減速すれば、地球の裏側に到着する前に速度がゼロになって、そこからトンネルの壁をよじ登らなければならないことになります。
ところで、ボーっとしているとまた地球の中心に向かって引き戻されます。そのまんまずっといると、減衰振動を繰り返して、最後には地球の中心に取り残されます。そこにとどまる限りは無重力が続くのですが、地上に出るためには重力に逆らって6,400㎞のロック・クライミングをしなければならないことになります。
だから、やっぱり穴の内部を真空にした方がよさそうですね。そういうわけで、快適なアース・ダイビングのためにはフタが2つ必需品です。フタの取っ手から手を離してスタートして、地球の裏側のフタの取っ手をつかんでゴール。もう一つ、40分間も息しないわけにいかないから、酸素ボンベ背負ってくださいね。
そのうちきっと誰かやるでしょうね。やるなら早い者勝ちですよ。グッド・ラック!
◇ ◇ ◇
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