あと100回来て欲しい
埼玉県にある写真館での話です。
あれは、まだセミの大合唱が聞こえる残暑厳しい夏の日でした。
50代くらいの男性客が一人で写真館にお越しになられました。
普段は、お子様連れや女性のお友達同士での利用が多く、男性1名でのご利用は珍しいケースです。
アミーゴは冷房の効いた店内に男性客をご案内しました。すると…
「今日はあるものを持ってきたんです。」
と言って、お持ちの大きな手提げカバンから立派な額縁に入った写真を取り出しました。
そこには、目が覚めるような鮮やかな赤に、可憐な花が散りばめられた着物を着た年配の女性が1人で写っていました。
写真館で撮ったようなとても綺麗な写真でした。
「これと一緒に写して欲しいんです。」とリクエストがありました。
その瞬間、色々な考えが、アミーゴの頭の中をよぎりました。
「この方のお母様だろうか…」
「一緒に、ここに来る予定だったのだろうか……」
「写真に写られている女性は、今も元気なのだろうか………」
ここまで考えてお客様の方を見ると、男性はそれ以上のことを話される雰囲気ではなかった為、すぐに気持ちを切り替えて、お客様のリクエストに最大限お応えしようと思いました。
額縁に入った写真を一緒に撮影する時は、ストロボ光の角度によってガラス面が反射します。
また、フレーミングによってうまく映らなかったりする可能性もある為、写真を持つ位置・角度も調整します。
そして、何より不自然にならないように「写真の中の女性と一緒に写っている」イメージを膨らませて撮影を行いました。
撮影後、お客様に画像を確認いただきます。ドキドキしながらお客様の反応を待つ2秒くらいの時間が、非常に長く感じました。
「よく撮れてるねぇ!」と言った顔は満足そうな表情で、一気に緊張感がほぐれてホッとしました。
そして何度も、何度も、お礼の言葉をいただきました。
最後に写真を台紙に入れてお渡する際に、アミーゴが気になっていた写真の中の女性について、男性が話し始めました。
「この女性は私の母親なんだけど、事情があって一緒に来ることができなかったんだ。でもいい記念になりました。ありがとう」
と言って写真館を後にされました。アミーゴはそれ以上のことを聞くことが出来ず、複雑な心境でしたが、去り行く背中に感謝の気持ちを送りながらお客様を見送りました。
それからもしばらくは、その男性のことが気になっていました。
夏の暑さも少し薄れて秋の訪れを感じるような陽気になった頃の昼下がり、その男性が、写真館にお越しになられました。
写真に写られていたお母様と一緒にです。
お母様は写真に写っていた通り、元気そうでした。
そして男性もお母様も幸せそうな表情を浮かべていました。
「この間はとっても綺麗に撮ってくれてありがとう。母が、元気になったので一緒に来ました。私の事、覚えてる?」
と男性が言いました。
「もちろんです。一緒にお越しいただいたのですね。」と最高の笑顔でお応えしました。
そして、あらためて二人の想い出を創らせていただきました。
アミーゴよりずっと年上の楽しそうな親子を撮影していると、今まで心に引っかかっていた事も全て晴れていきました。
「今があるから二人はとても幸せだ」と……
撮影が終わる間際のタイミングでお母様が、「もう二度と来れないかもしれないわ」と仰いました。
アミーゴは、熱くなる想いを隠しながら、先ほどを上回る最高の笑顔で
「あと100回来てください」とお伝えしました。
きっとまた会えると信じています。