23年目のバトン
とあるレストラン船でのお話です。
澄み渡った秋晴れの高い空。心地良い潮風が鼻をくすぐる爽やかな陽気。
こんな日は、何か良いことが起こりそうな予感がしますね。
時間は正午。出航の時を迎えたレストラン船は、お客様を乗せてゆっくりと岸を離れます。
仕事の配置についた私はいつものように、記念撮影のご案内のため、お客様にお声かけをしていきました。
そんな折、4名のご家族にお声かけをした時の出来事です。
「わーっ!!嬉しい!!」
と、突然、歓喜の声を上げられました。
何がそんなにも嬉しかったのかは分かりません。とにかく私は、予想もしていなかったお客様のリアクションにただただ驚いておりました。
改めてご家族を見ると、50代のご夫婦と20代のお嬢さまが2人。4人の視線は私に向けられており、どうやら「私に声をかけられたこと」を喜んでいるようなご様子です。
まだ状況をつかめない私の動揺を悟ったかのように、お嬢さまの1人が手のひらを見せながら
「ちょっと待ってくださいね!」
と嬉しそうな表情でカバンの中から何かを探し始めます。
そして、カバンから取り出されたのは1枚の写真でした。
少し黄ばんだ古い写真。写真台紙に収まっていますが、その台紙自体からも年季がうかがえます。
「なんの写真かな?」と私は目を凝らしました。
見覚えのないテーブル、机、背景。その中心に立っている30代くらいの男女。2人の前に座るのは3~5歳くらいの幼児が2人。満面の笑みでピースサインを送っています。
幸せそうな4人家族の写真でした。そして私の目の前にも4人家族。そういえばこのご家族、どこかしら面影が…。
「あっ!!!」
ようやくピンと来た私に微笑みかけながら、奥様が優しく答えを教えてくれました。
「ここで撮ってもらった写真です。今から22年前に」
その古い写真は、22年前にご家族が、このレストラン船のまさにこの場所で撮影された貴重な想い出でした。
パッと見でそれと分からなかったのは、いま私が撮影している写真とは背景も台紙も違っていて、だいぶ昔のものだったからです。テーブルや椅子なども今はもう置いていないもので、まるで別の場所のように様変わりしていました。
当時の様子を伺うと、実は22年前のご家族にも、文教スタヂオのアミーゴが同じようにお声かけをしていたそうです。
つまり「22年前のアミーゴがしたお声かけ」がこの写真の想い出を創り、「22年後のいま私がしたお声かけ」はご家族の新しい想い出の扉を開ける。
先ほど私がしたお声かけにあれほど喜んでいただけたのには、そういう理由があったようです。
我を忘れて興味深げにまじまじと写真に見入っていた私に、奥様が仰いました。
「この写真と同じ感じで撮って欲しいんですが、いいですか?」
22年の時を経て、写真からまた写真へ。想い出がつながっていく音を聞いたような感覚がありました。
「もちろんです」
私は即答しました。
その後、ご家族には撮影場所へと移動していただき、昔の写真と同じような位置取りをしていただきました。
ご夫婦の前に姉妹2人が座ります。そして満面の笑みとピースサイン。22年前の写真と全く同じポーズです。私は気合を入れてシャッターを切りました。
パシャッ!
写真が仕上がりました。
仕上がった写真を見るなり、ワッ!とご家族から歓声があがります。
「私たち背のびたねー!」
「お父さん、髪薄くなったんじゃないの~?」
奥様は震える唇を両手で覆って、声を詰まらせています。きっと涙ぐんでいるのでしょう。ご家族にはとても喜んでいただけ、写真もお買い求めいただくことができました。
その後も乗船中のご家族はとてもハイテンション。このレストラン船がご家族にとって、とても大切な想い出の場所なんだということが痛いほど伝わってきました。
ご家族が帰られた後も、私の胸には熱くこみ上げるものがありました。
今まで考えもしなかったけど、22年前もこの船で文教スタヂオのアミーゴがお客様にお声かけをし、私と同じように写真を撮影していたこと。
そこで生まれた想い出をお客様が大切に大切に、22年もの間ずっと、今でも大切にしてくださっていたこと。だからこそ22年前のバトンを私がいま受け取り、ご家族の想い出創りを引き継いで撮影できたこと。お客様のご期待に応えられたこと。23年目も寄り添っていけること。そんな仕事に就いていることも嬉しくて、深く感動しました。
このように私たちがお客様から気づかせてもらうこと、教えていただくこと、与えてもらっていることはとても大きくかけがえなく、感謝の毎日です。
こうして頂いたものを記念写真を通して少しでもお客様に恩返ししていけるよう、日々成長していきたいと思います。
※写真は全てイメージ