同じ景色を見た写真
東京のとある水族館でのお話です。
祝日のある日、アミーゴはいつものように記念写真撮影をしていました。
それはお客様が多くいらっしゃる時間帯。
撮影ブースに4名のご家族がお見えになりました。
障害をお持ちの小学生ぐらいの兄弟と、そのご両親でした。
撮影にご参加いただく前に、アミーゴは写り方や写真販売の案内をします。説明を聞き終えたところで、お母さまが2人の兄弟の肩に手をのせながら仰いました。
「この子たちはカメラ目線が出来ないので、気にせずに撮ってください」
アミーゴはお母さまに「わかりました」と返事はしたものの、良い写真にするために出来る限りの努力をしようと心に決めていました。
ご家族がカメラの前に進みます。
撮影用のカメラは三脚で固定されており、お客様との距離も離れています。お客様から目線をもらえるようにするにも工夫が必要です。
まずは横一列に並んでいただきます。お子様2人を内側に、ご両親には2人の兄弟を支えるように、それぞれ真横についていただきました。さらに全員の目線の高さが合うように、ご両親にはしゃがんでもらいました。
いよいよ目線取りです。
理想は、カメラにご家族4人全員の目線をもらい、その瞬間を写真に収めること。
まずは目線が来た瞬間にいつでも撮影が出来るよう、シャッターボタンに指をかけました。そして反対の手に持ったぬいぐるみを大きく動かして、兄弟の目線を誘います。
そして、来たっ!と思った瞬間…
パシャッ!
パシャッ!
しかし1回、2回と撮っても全員の目線が揃ったタイミングで撮影することはできませんでした。
2回の撮影を終えた時点で、結構な時間を要してしまいました。
アミーゴの額にはいつの間にか汗がにじんできています。
その時
「抱っこしてみます」
ご両親が立ち上がりました。
そしてスッと抱きかかえます。お子様はご両親の肌に触れ、安心したのでしょうか。
空気が、一瞬にして変わりました。
それを察したのはアミーゴだけではありませんでした。
バックにいた2名のスタッフが、撮影のサポートに駆け寄ってきました。
サポートに入った女性スタッフは、音がなるペンギンのぬいぐるみを持って…もう1名の男性スタッフは体全体を使ってアミーゴの後ろ側で手を振り、声を出してくれました。
みんなの心遣いに感謝しつつ、アミーゴは撮影に集中します。
パシャッ!
1カット目は、お子様の目線はあっていましたが、お母様が視線を落としてしまいました。
撮影を始めてからかなりの時間が経っています。スタッフもお子様が飽きないように工夫をしてくれています。お客様が多くいらっしゃる時間帯なので、撮影待ちの列もできています。
お母さまからは撮影前に「この子たちはカメラ目線が出来ないので、気にせずに撮ってください」という一言をいただいています。
ですが、お客さまに心から喜んでいただきたいというアミーゴの気持ちが、スタッフ全員の気持ちが、ご家族4人全員の目線が欲しいと願っていました。
とはいえ時間は有限です。もう失敗は許されません。
これがラストチャンス!
アミーゴは全神経を集中しました。
そして…
パシャッ!
全員カメラ目線で、笑顔の写真を撮ることができました。
仕上がった写真をご覧になったお母さまは、とても感激してくださいました。
「家族全員がカメラ目線の写真なんて… 初めてです!」
その後ご家族は施設を見学した後もわざわざ撮影コーナーに立ち寄ってくださり「本当にありがとうございます」と深いお辞儀と共にお礼の言葉をかけてくださいました。
撮影を始めた段階では、お客様のニーズにあったサービスではなかったのかもしれません。
しかし「お客様に喜んでもらいたい」というアミーゴの想いがお客様に伝わったのではないかと思います。
結果、ご両親から信頼を得ることが出来、それがお子様への安心感に繋がり、想い出の写真を提供することができました。
スタッフ全員で想いを共有できたから、良い写真を提供できたこと。
その結果、お客様にとても喜んでいただけたこと。
アミーゴにとって忘れられない日になりました。