「正欲」を読んで

やはり共犯者というのは、いないか、数が少ない方がいい。というのはさておき、読み終えたので少しだけ感想でも。中々面白かった。

息子が不登校になった検事・啓喜。
初めての恋に気づく女子大生・八重子。
ひとつの秘密を抱える契約社員・夏月。
ある人の事故死をきっかけに、それぞれの人生が重なり合う。
だがその繋がりは、”多様性を尊重する時代"にとって、ひどく不都合なものだった。

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作者自身が、作中の登場人物のように、世の中に対して思うところがあるのかと邪推しつつも、やはり創作家というのは内に秘めたエネルギーを作品を通して何らかの形で描く力があるものだなと感じる内容だった。

 ──「明日死なないこと」。
 ──目に入ってくる情報のほとんどは、最終的にはそのゴールに辿り着くための足場。
 ──たとえば商店街なら、今イチオシの商品とか期間限定の割引セールとか。

朝井リョウ. 正欲(新潮文庫) (p.246). 新潮社. Kindle 版.

みんな本当は、気づいているのではないだろうか。自分はまともである、正解であると思える唯一の依り所が〝多数派でいる〟ということの矛盾に。 三分の二を二回続けて選ぶ確率は九分の四であるように、〝多数派にずっと立ち続ける〟ことは立派な少数派であることに。

朝井リョウ. 正欲(新潮文庫) (pp.339-340). 新潮社. Kindle 版.

「自分が想像できる〝多様性〟だけ礼賛して、秩序整えた気になって、そりゃ気持ちいいよな」 過ぎ去っていった自転車が鳴らしたベルの音が、爽やかに響く。 「お前らが大好きな〝多様性〟って、使えばそれっぽくなる魔法の言葉じゃねえんだよ」  誰かを退かすためではない自転車のベルの音なんて、久しぶりだ。 「自分にはわからない、想像もできないようなことがこの世界にはいっぱいある。そう思い知らされる言葉のはずだろ」

朝井リョウ. 正欲(新潮文庫) (pp.352-353). 新潮社. Kindle 版.


主人公格となる人物が数名いるが、いずれも変わろうとする姿勢が見てとれた。対して、多数派の思考に凝り固まった人物の描写もあった。

作中に「繋がり」というキーワードが出てくる。心の拠り所ともいえる存在でもある。登場人物は少数派の繋がりを求めて行動し、その結果、あるペナルティを受けるが、最後まで心の拠り所が何かを多数派には見せない。

その行動は正しいと思う。内面の踏み込ませない領域は開示するべきではないと感じる。

多様性と言っても、繋がりなしに多数派にいることは難しいのかもしれないが、それはそれとして個人の意思の強さはどんな時代でも必要だと思う。

一昔前だと問答無用で排除されていたことが、今の時代は受け入れられている(ような錯覚に陥っている)。やはり、当事者が一番そのことを噛み締めていると思うので、安易に理解を示すような態度がかえって相手の拒絶感を煽ることにつながる気がする。

僕は藻掻きつつも、何かに抗って前に進もうとする意志を感じとれる作品が好きなのだろう。

また、この作品の形式は、連作短編?とは違うと思うが、登場人物ごとの描写が時系列ごとにいくつかわかれていて、話自体は全体でが繋がっているというものだった。

あまり、この形式の小説は読んだことがなかったが、飽きにくく読みやすかった。

「正欲」には、ある特殊な好みをもつ人物が登場する。読んでいて昔読んだ下記の小説を思い出した。

感想文の書き方を変えてみたが、自分勝手に書く文章と違って相変わらず書きづらい。

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