この街で、またあなたと
「俺たち、もう10年だぜ?」
そういって、はじめての彼氏が笑った。
気づいたら一緒にいて、気づいたら側にいなくて、気づいたら大人になっていた。
時は経ち、気づいたら母が私を産んだ歳になっていた。
10年前のあの時と同じ季節に、引き寄せられるように再会した。彼と会うと、青春真っ只中の当時に感じていたむず痒くて苦しい、純粋な乙女心が鮮明に蘇ってしまう。
側にいたのはほんの一瞬だったのに、離れていたこの10年間、彼は私の頭の片隅にずっと居座っていた。
*****
私は高校卒業とともに、この街を離れた。
辛いことがあると、彼に電話をしたくなった。一度だけ掛けてみたことはあるが、既にその番号は使われていなかった。
いま再び、この街に私がいて、そして隣に彼がいる。
自転車を二人乗りして走った川沿いの道も、放課後よくきた公園も、何も変わらないあの時のまま。
綺麗なままの思い出だから、綺麗なままで蘇る。その美しい思い出は、美しいままで。
だから私たちは、これ以上は踏み込まない。
あの頃の特別な思い出が、変わってしまわぬように。