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戦略コンサルでChatGPT使ったら高学歴の若手新入社員みたいだった話


1.戦略コンサルでChatGPTはどの程度使えるのか

1-1.よく聞くけど実際ChatGPTって使えるの?

「ChatGPT活用術」
「ChatGPTで業務効率化」
「生成AIで奪われる仕事と生存戦略」・・・

最近は、上記のようなキーワードが、ウェブや書店はもちろん、業務の中でも耳に入ってくることが多くなった方もいるのではないだろうか。
(*1:ChatGPTは、アメリカの研究所であるオープンAIが開発した会話型 AIサービス)

このようにChatGPT自体はある程度認知されている一方で、利用経験者の割合は12%程度(2024年3月)と、実際に利用したことがある人はまだ多くはないというのが現状である。

出所:日本リサーチセンター

例にもれず、筆者の職場(戦略コンサルティングの現場)でもたまに耳にするようになってきたものの、活用方法を調べるのが面倒くさく、自分の業務の中では活用したことがなかった。
正直に言うと、検索サービスのUIがより対話型になって使いやすくなったもの、くらいにしか思っておらず、役に立つテクノロジーであれば良いと思いつつも実際は「本当に自分の業務で使えるのか?」と懐疑的に見ていた部分がある。

みなさんの中にも、同じように期待しつつも懐疑的に感じている人もいるのではないだろうか?

1-2.”戦略検討”でもChatGPTが使える可能性が出てきた?

そうは言っても、これだけ賑わっているサービスなので、百聞は一見にしかずということで、重い腰をようやく上げて、自身の業務種である”戦略検討”系の業務の中でどれくらいChatGPTが使えるのかを検証してみることにした。

というのも、日本のAI領域の権威である東京大学の松尾教授によると、ChatGPTは特定のインプットをベースに添削や要約等の改善を行うことのみならず、インターネット上の膨大なデータを学習し、AIなりのオリジナルのアウトプットを出すことが出来るとか。
これによって、まさに”戦略検討”系の主な業務でもあるリサーチ・論点出しやアイデア提案みたいなことも期待出来るということである。

出所:東京大学 松尾研究室(衆議院議員 塩崎彰久氏のNoteからDL可能)

もしリサーチや論点出し、アイデア提案みたいな領域でChatGPTを使いこなすことが出来れば、大きく業務の効率化につなげられるかもしれない。
(逆に言うと、自分の従来の価値創出領域が脅かされるリスクもあるのかもしれない・・・)

このような淡い期待を抱きつつ、検証を行うことにした。

筆者のように戦略コンサルティング業界に携わる人は勿論、経営企画、事業企画、営業企画、開発等、リサーチや論点出し、アイデア提案といったような業務に携わる方々の参考になれば幸いである。

2.戦略コンサルでChatGPT使ったら高学歴の新入社員みたいだと判明

2-1.検証の前提

検証にあたり、架空の設定として、以下の様な状況を仮定した。

(背景)
・清涼飲料業界大手企業X社へのM&A戦略検討プロジェクト提案に向けて、まずはX社の経営課題やM&Aニーズについて議論するための資料を作成したい
・提案書作成の第一ステップとして、X社の経営課題やM&Aニーズに関する初期仮説を構築するために、業界の基礎動向をおさえる基礎リサーチを実施することにした

(検証の考え方)
(a) 自力で対応した場合と、(b) ChatGPTを活用した場合のアウトプットの品質と所要時間を比較した

2-2.検証結果

まず、検証結果の概観からお伝えしたい。
ChatGPTにお願い出来るのは一般論の導出や一般的な要約といったほんの一部の業務だけで、「高学歴だから教養はあるし、一般的な要約能力もあるんだけれど、コンサルスキルは期待出来ない若手新入社員」くらいの印象を受けた。

検証結果の詳細を以下の3つの項目ごとに紹介する。

(検証項目)
2-2-1.適切な情報ソースの検討
2-2-2.正しい情報の取得
2-2-3.示唆につながる情報の取捨選択と魅力的な初期仮説の導出

2-2-1.適切な情報ソースの検討

(作業内容)
・競争環境の概観をとらえるため、国内清涼飲料メーカーのマーケットシェアの推移を確認したい
という作業を行う前提で検証を行った。

(検証結果)
ChatGPTは直近年のざっくりとしたデータは示してくれたが、自力で対応した時に発見した飲料カテゴリ別の主要メーカーのシェアの経年推移が確認出来る情報ソースは提案出来なかった。

↑ChatGPTのアウトプット(国内清涼飲料メーカーのマーケットシェア推移)

一般的な検索を行って出てくるレベルの情報は出せるものの、この業界のマーケットシェアならここら辺の情報ソースが有効そう、といったようなコンサルノウハウはChatGPTにインプットされていない
故に、自力の場合のような精緻なアウトプットにたどり着けなかったと推察する。

本当にざっくりとした情報把握で良いならChatGPTが使えなくもないが、その場合も自分で検索した場合のかける時間とアウトプットは大して変わらないだろう。
以上のことを踏まえ、有効な情報ソースを選定するのは人が行った方が良さそうである。

2-2-2.正しい情報の取得

(作業内容)
・サントリーの直近10年のM&A動向を把握したい
という前提で検証を行った。

(検証結果)
ChatGPTは一瞬でそれらしいアウトプットを出してくれるが、間違った情報も含まれていた。
(ついでに網羅性も担保されていなかった)

以下が実際のChatGPTのアウトプットである。
一瞬でこんなものを出してくれたので、「え!すごいじゃん!」と思っていたのだが、ハイライトしている「5.コカ・コーラウェストとの再編」については、完全に間違った情報であることが判明した。

↑ChatGPTのアウトプット(サントリーの直近10年のM&A実績)

というのも、本当にコカ・コーラウエストと経営統合しているならすごいなと思い、基のソースを調べてみたところ、以下のハイライトしている文章をもとに、実際はコカ・コーライーストとウェストの経営統合に関する記載の部分を、サントリーのものと間違えてつなぎ合わせてしまっただけなのではないか思っている。
(他のソースを探しても、サントリーとコカ・コーラウェストが経営統合したというニュースは見当たらなかった)

ChatGPTが参照している情報ソースの関連文

誤情報が含まれているとなると、ChatGPTの出してきた情報を1つ1つ確認する必要が出てくるが、それなりに時間がかかる。
一方で、自力でリサーチする場合は、以下のようにM&A専門サイトから一瞬でM&A案件を確認することが出来ることを考慮すると、ChatGPTを使う意義を感じられない結果となった。

日本M&Aセンターサイトでの「サントリー」検索結果

2-2-3.示唆につながる情報の取捨選択と魅力的な初期仮説の導出

(作業内容)
・キリンビバレッジを仮想クライアントと想定した時に、キリンビバレッジの戦略方針をベースに、想定されるM&Aニーズを導出したい
という検討を行う前提で検証を行った。

(検証結果)
ChatGPTは一瞬で仮説を導出してくれるものの、内容は一般論的なものでクライアントに刺さるほどの具体性が欠けるとともに、「そこではないでしょ~」というものも含まれていたりとビジネスセンスが乏しい結果に。

↑ChatGPTのアウトプット(キリンビバレッジのM&Aニーズ)

自力で検討していた際の仮説は本稿では省略するも、上記のChatGPTへのつっこみどころとして捉えていたのは、例えば以下のような内容である。

・1.健康志向食品の強化という部分について、キリンビバレッジのIR資料をみると明らかにプラズマ乳酸菌を軸にやっていく方針。広げるとしてもキリンの発酵技術をコアコンピタンスとする姿勢を見ても、発酵系の領域がターゲットとなるため、ここまでターゲット領域を具体化して先に話を進めないとどの会社にも当てはまる内容となりキリンビバレッジにとって価値が薄い

・2.プレミアムブランドの拡充の部分は、高品質な茶葉やコーヒーを提供する企業を買収といったアイデアが出ているが、感覚として茶葉やコーヒーの領域でイノベーティブなことが起きる可能性は高くないと感じており、ここでM&Aで取り込む程の要素を持つ企業はいないのではと感じる(圧倒的なブランドを持つ伊藤園をまるまる買えるとかなら話は別だが、成熟した領域で原料、加工技術とかでM&Aするほどの要素を持つ企業はいないのでは)、等

一方で、ChatGPTの仮説は一般論的ではあるものの、膨大なデータをもとに整理したものなので、視点の網羅性という観点ではある程度信頼がおけるかもしれないと感じている。
従い、自力で考えて仮説の視点の抜け漏れチェックには使えそうな気がしている。
(例えば、環境やデジタルの観点では仮説を考えられていなかったなぁ、みたいな気づきはありそう)

2-3.検証結果から見えてきたChatGPTの使いどころ

検証を通じて、概ねのChatGPTのスキルレベル(高学歴の若手新入社員であること)が分かってきたので、「じゃあ一体どこで使うのが良いのか」ということを考えてみた。

結果、以下の3つのことはお願い出来そうな気がしている。

(1) (自力で取得した)情報の要約
(2) (自力で取得した)数値データの可視化
(3) 視点の抜け漏れの確認

例えば、(1)に関して、リサーチで使えそうな記事(3,000字程度)の要約を依頼した結果、かなりコンパクトに要約してもらうことが出来た。
これにより記事を読み込む時間が少し省けそうである。

ChatGPTのアウトプット(記事の要約)

(2)に関しては、業界主要プレイヤーのA社とB社の売上推移を比較したいような場合には、以下のように対話形式で依頼することで一瞬でグラフを作成してくれることが分かった。

ChatGPTのアウトプット(A社B社の売上データの可視化)

(3)に関しては先述の通り、ざっくりと論点を投げかけて、ChatGPTに一般論を語らせることで、自分の仮説の視点の抜け漏れを確認出来る。

これらのことを踏まえて、実際に戦略検討系のプロジェクトでChatGPTを使うのであれば、このタイミングなのではという考えを以下のようにまとめてみた。

戦略検討系業務でのChatGPTの使いどころ(筆者作成)

3.将来的には入社2年目の若手くらいの仕事は出来るようになるかもしれない

3-1.現状への所感

検証を行った感想として、現状は一般論を一瞬で整理したり、既存の情報を整理・可視化するのは得意なのだが、やはりコンサルのノウハウ・経験やセンスみたいなものは当然ChatGPTのインプットに入っていないと思うので、それらを求めるワークをお願いするのは難しい印象である。

あまり一般論の導出や情報の整理で価値になる仕事はないので、正直現時点のChatGPTを使ったとしてもあまり業務に大きなインパクトはないだろうというのが個人的な感想である。

3-2.将来への期待値

ただし、言語化が比較的容易なコンサルノウハウ(例:情報ソースの選定ノウハウ)は学習が可能なはずなので、将来的にはモデルに学習させて、戦略コンサルに特化したChatGPTみたいなものが出来れば、入社2年目の若手社員くらいの仕事は出来るようになるかもしれないと感じた。
そうなると、プロジェクトの工数・コストにも相応のインパクトが出てくるのではないだろうか。

一方、よりシニアなメンバーが武器とするコンサルタントの過去の経験や戦略知見に基づくビジネスセンスみたいな部分は、言語化することが難しい気がするので、引き続き人によって価値を発揮する領域となるのではないか。

とは言え、技術は進歩するものなので、引き続き技術レベルの観測は続けていきたい。

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