ゆめめのおめめ4
私は密かに、キミは初めてこの世に来た一年生だと思っていた。
だって、言葉が通じなかったし。
キミのやることなすことが信じられないくらいハチャメチャだった。だから、尚更、愛おしい存在になったのかもね。
人間の言うことはきかないのよ!と言わんばかりのマイペースさ。
飼い主が怒っていても知らん顔。
怒られても同じ悪さを繰り返す。
甘噛みも半端なかった。
手、腕、足は噛まれて血が出ることもあった。
夏、半袖を着れなかった子犬時代…暑いのに。
とにかく悪事は徹底無視することで、何となくヤバい空気感を学んでくれた。
時に動物病院で行うパピークラスへ行ったり、パピーちゃん用のホテルお試しとか、預ける訓練もした。
どうにかこうにか、お座り、お手、おかわり、待ては覚えてくれた。
お座りは空気イスの筋トレみたいなときもあった。
ずいぶん時間がかかったなぁ。
当時、世間の柴犬に対する評価は厳しかった。
「柴犬お断り」
を堂々と打ち出すペットホテルもあった。
・・・・そんな時代を知っているから、今の柴犬ブームは羨ましい。
ここ5年くらいかな、柴犬が好きという人が増えた。
それは嬉しいことだけれど、和犬は野生的な面を持っているので、注意しないと安易に近寄るとキケン。
彼ら、忖度なし。嫌なものは嫌なんだ。
3歳、5歳、7歳と犬の性格は変わる。
これは先住犬もそうだったし、ゆめめもそう。
おじいちゃんの代から柴犬が好きと言う6代目柴犬の飼い主さんも同じことを言うから多分、和犬あるあるかも。
7歳を超えたシニア期からは落ち着いて、意志の疎通ができる。
というか、あうんの呼吸というか、相棒感が半端なくなる。
多分、洋犬ちゃんもそうじゃないかな。
そして、その先の介護の状態は突然やってくる。
ゆめめは1ヶ月。
たった1ヶ月。
でも、濃厚な1ヶ月。
発作が起こり、歩けなくなり、食欲がなくなった。
発作の回数が増える。
夜は眠れなかった。
発作が始まると、人間は見ていることしかできない。この時が一番辛かった。代わってあげたかった。
癌が進行していくと低血糖発作が起きる。
動物病院で肝臓の薬とブドウ糖を処方してもらった。
肝臓は解毒の臓器。薬を飲ませて良いのか、結構な負担になるのではないかと悩んだ。
そして、ブドウ糖も。
悲しいかな、ブドウ糖は癌のエサになるということも獣医さんから聞いた。人間もそうだけれど、低血糖にはブドウ糖が最も効果的に効くのは自分の身体でも実証済みだ。発作に備えてブドウ糖も準備した。結局、嫌がって飲んでくれなかったけど。
元気の元になっていたグルタチオンは肝臓がある場所に塗った。
エコー検査で肌が出ていた部分に。
発作前の不穏な状態に塗ると少し落ち着いてくれた。
そして、柴友さんの勧めもあって東洋医学の鍼灸、オゾン療法、漢方も取り入れた。
タンポポ茶が解毒にいいと教えてもらってからは濃い目にお茶を煮出してから身体を拭いた。
あんなに身体を拭かれるのを嫌がっていたのが信じられないくらい、ウェルカムな態度だったのは気持ちが良かったのかな。
柴友さん達や散歩仲間のアドバイスは本当に嬉しかった。
ひとりじゃないと思えた。
できることはやったと思う。
8月に入って、発作が頻繁になると自分の中に悪魔が宿るようになった。
・・・・いつまで発作が続くのか。
慢性的な寝不足の中、どんどん自分も追い詰められていく。
生きていてほしいと言う思いと
もう、何もかも放り出したい破滅的な思い。
天使と悪魔が交互に現れる。
これは人間の介護の世界とも通じる…悲しいけれど。
彼女が口にできるものは何でもあげた。
でも、朝、少し食べたからと言って、夜も食べてくれるとは限らない。おやつ、ゼリーなど、良さげなものはそろえてみたけれど、食欲は落ちる一方。
次第に水も飲まず、シリンジで少量、口に含ますことがやっとの状態になった。
ほぼ、動かなくなっていた。
家族ともども、覚悟せざるを得ない状態になった。
でも、ここに至るまでに3回ほど、息を吹き返したこともあり、もしかして…という期待もあったけれど、もう、その体力は残されてはいなかった。