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【映画】ホールドオーバーズ〜置いてけぼりのホリデイ〜
※ネタバレあります
見てるだけで部屋の温度が5度下がる気がする。
だけどそれに反比例して、見終わる頃には体の芯はポカポカしてくる。
そんな映画だった。
2025年、3本目の映画はこちら。
メインとなる登場人物は3人。
思春期真っ只中、バリバリの反抗期だが憂いを帯びた横顔がイケメン青年
アンガス
一人息子を戦争で亡くし、悲しみの淵から中々立ち直ることができない学食の料理長
メアリー
堅物で融通がまるで効かない、人付き合いがド下手な社会科教師
ハナム先生
この3人を中心に、ボストン郊外にある寄宿舎学校がクリスマス休暇を迎える直前の様子から物語は始まる。
久々の家族と過ごせる時間に、普段寮生活をしている少年たちは浮き足だっている模様。
アンガスも例に漏れず、どことなく浮かれていた。そんな空気をぶち壊す、一本の電話が…
なんと親の勝手な都合で、家族で過ごすはずのクリスマス休暇が寄宿舎への居残りに。
その理由が観ている私もドン引き。
なんと母親は新しい父親と新婚旅行へ行くため、アンガスが邪魔になったのだ。
俺は置いてけぼりかよ!!と不満を爆発させるアンガス君、本当に不憫で可哀想だった。
休暇中に居残るのは少数派のため、さぞ恥ずかしかったことだろう。
パッキングまで済ませたのに急遽残れと言われた彼の心境たるや…
そんな彼を含め居残る生徒の数は5人。
が、アンガス以外の少年は途中で皆離脱。
またも「置いてけぼり」になってしまった。
彼らを管理監督するハナム先生。
今年は居残り当番では無かったけれど同僚に騙され、渋々だが管理者業務を引き受けることとなってしまう。
料理長メアリーは家庭の事情で寄宿舎に住み込みで働いている。
だから、そもそもここが「家」だ。
日本風に言えば「給食のオバチャン」なのだが、料理を提供したところで生徒たちから感謝されることは無く、中々仕事も報われない。
初めはハナム先生の決めた厳格な「休暇中のプログラム」に沿って、しょうがなく、そして何となく共に過ごし始めた3人。
だが不思議なもので、生活を共に送るうちにぽつりぽつりと彼らの悩みだったり、隠していた本当の自分だったりが出てくる。
年相応よりも少し幼い願望だったり
(親に上手く甘えられなかったんだろうな…)
人と関わるのが怖い理由だったり
昇華しきれない故人への想いだったり…
人は誰かと何かを食べたり飲んだりすると、相手に本音が漏れ出やすい生き物なのかもしれない。
同じ釜の飯を食う、なんて言葉もあるように、食事には人と人とを近づける力がある。
と私は信じている。
アンガスがスケートを楽しんだり、博物館を見て回ったり、パーティーに参加して女の子と良い感じになる場面は見ていて可愛らしい。
ボストン行ってみたい!と普段より幼い口調でハナム先生におねだりする彼の目は、キラキラしていた。
お互い同情する訳でもないけれど、きちんと他者を尊重して過ごしていく様子は「ちょうど良い距離感」について考えさせられた。
親子だから近すぎたり
他人だから遠慮して遠すぎたり
近いがゆえのトラブルや遠いがゆえの無関心だってあるだろう。
作中でも他者とのぶつかり合いはたくさんあったし、よく考えて発言すれば相手を傷つけずに済んだこともあった。
しかし、物語の終わりには3人は間違いなく共同体だった。
個人的な思いを言えば、
よくある感動物語のように最後は擬似家族!
血は繋がってないけど、俺たちファミリー!
みたく馴れ合わないところが本当に良かった。
他者を慮ること
適切な距離を取ること
そしてしっかり前を見ること
物語の終わりは、綺麗に終わったわけじゃない。
それで良かったのか?と問いたい部分もある。
けれど、ハナム先生がアンガスに贈った一言
「しっかり前を見ること、いいな」
は、アラフォーの私にもズッシリと響いた。
きっとまた今年の年末〜来年の年明けくらいに見たくなるのだろう。
ボストン郊外の冬景色は見ているだけでも寒くなるから、ハナム先生の好きなウイスキー(ジムビーム)でもチビチビやりつつ鑑賞したいと考えている所存。