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『貨幣の「新」世界史』要約と感想

『貨幣の「新」世界史』(カビール・セガール、早川書房)についての要約と感想。

要約

第一部  精神 アイデアのルーツ

1. ジャングルは危険がいっぱい
 お金の根源は生物同士のエネルギーの交換である。共生や協力は進化に必要な要素であり、進化的アルゴリズムのひとつに組み込まれている。道具を作る能力と表象的思考能力(→集団的知性)によって貨幣という概念が生まれた。

2. 私の心のかけら
 われわれのお金の使い方は感情や遺伝子に左右される。これは神経経済学、行動経済学、生物学的に証明されている。つまり人間はそこまで合理的に判断できないということ。

3. 借金にはまる理由
 お金の起源は物々交換に由来し、普遍的な交換を可能にするために貨幣が生まれたと考えられてきたが、実はそうではなく、貨幣が生まれるずっと前から債務のやり取りが行われていた。つまり、お金の本質は債務の交換にあるということ。債務には金銭的義務(市場経済)と社会的義務(贈与経済)が伴う。

第二部  身体 お金の物質的形態

 お金に関する言論として、金属主義と表券主義の2つがある。前者はお金の価値は貨幣そのものにあるという考え方で、後者はお金の価値は信用にあるという考え方である。

4. ハードな手ごたえ
 ハードマネーの歴史。どの文明でも、価値の交換媒体として扱われるのは硬貨だった。古代ローマでは長年にわたって硬貨の貴金属含有率を減らして供給量を増やす貨幣政策を行ってきた。それらは成功したものも多い。ハードマネーの貨幣政策は限界供給量がある程度決まっているためソフトマネーよりは硬貨の供給過剰にはなりにくい。

5. ソフトなのがお好き?
 ソフトマネーの歴史。「ハードマネーでの取引」→「ハードマネーを裏付けに持つ証書の発行」→「ハードマネーとの裏付けのないソフトマネーの誕生」という流れ。ソフトマネーは現代における錬金術のようなものなので権力を持つものに好まれる。完全なソフトマネーが出てきたのはニクソンショックによって金本位制が廃止されてから。ソフトマネーはレバレッジが高いので金融政策に失敗したときのリスクが高い。

6. バック・トゥ・ザ・フューチャー
 将来の貨幣の在り方について、弱気の展開、強気の展開、夢の展開と3つの場合に分けて予測している。
- 弱気の展開:ソフトマネー(法定通貨)への信頼が減り、金の退蔵や物々交換への回帰が起こる。また、地域通貨やビットコインなどのように通貨の管理を分散的に行う形態が増える。
- 強気の展開:既存の貨幣制度はそのままに、クレジット決済やモバイル決済の競争が激化する。中央集権的に貨幣の流通量を管理したり、カード会社が多くの個人情報を握る点は変わらず続く。
- 夢の展開:貨幣だけではなく、評判、思考、経験、夢などのすべての精神的な要素が価値指標になる。人間と機械が融合し、神経同士で価値の交換ができるようになり、貨幣の仲介者としての役割は無くなる。

第三部  魂 価値の象徴

7. 宗教とお金
 宗教では「お金を稼ぐことはよくない」と認識されているが、よく研究してみると、どこの宗教でも「生活にお金が必要」ということは認めている。大事なのは「足るを知る」ということ。

8. 貨幣は語る
 お金が概念化し、貨幣の存在意義がなくなりつつあるが、貨幣には交換媒体としての役割の他に芸術的要素と歴史的要素も併せ持っている。それぞれの貨幣にはその国の文化や歴史が刻まれており、これらを研究するとその国独自のストーリーが見えてくる。

感想

 貨幣の歴史について、歴史的なまとめになっているのはもちろんのこと、生物学、神経科学、経済学、宗教学など様々な分野から「お金ってなんなんだ?」ということを探っている。もちろんその答えが本書に書いてあるわけではないが、お金というものを理解する上でのヒントはふんだんに盛り込まれている。分野が様々なのでどこかしらに自分が興味のある部分が必ずあると思う。ちなみに僕としては今までに見たことがないアプローチでお金を分析していたので、1・2・3・6章が特に面白かった。純粋に歴史を知りたいなら、4・5章がおすすめ。第3部に関しては、同じことをずっと言っている感じがして個人的にはあまり面白くなかった。


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