『ゲーム理論はアート』概要と感想
『ゲーム理論はアート』(松島斉、日本評論社)の概要と感想です。
概要
東京大学経済学研究科教授によるゲーム理論の入門書。基本的にゲーム理論を全く知らない人でも読めるように書かれている。難しい数式は出てこない。入門書なので基礎的なゲームについての解説と身近な事例が紹介されているのはもちろんだが、一般的なゲーム理論入門書と違い、「経済学とは何か?」「学問とは何か?」というところまで深堀りして書かれている。さらに、いわゆる経済学的な「合理的な経済主体」から一歩踏み込んで心理的ゲームにも触れている。
感想
タイトルだけを見て、「ヌルめの入門書なんだろうな」と勝手に想像していたが、実際読んでみると全くそんなことはなく、読み応えのある本だった。ゲーム理論の入門書は何冊か読んだが、そんな自分でも一気に読んでしまうくらい新鮮な内容だった。というのも、だいたいの入門書はゲームの説明と参考事例を並べるものが多く、それゆえに多くの部分が似通った内容になりがちなのだ。しかし、本書は焦点がゲーム理論の本質に置かれている。つまり、ゲーム理論(メカニズムデザイン)はなぜ必要なのか、それによって解決されるべき本質的な問題はなんなのかという部分が主題として存在しているのである。これによって他の入門書とは少し違ったテイストになっており、そこに松島教授の「アブルー・松島メカニズム」の話もあいまって、非常に興味深い内容だった。
ナチスドイツに代表される「全体主義」のメカニズムの分析は初めて見た。人がなぜ同調するのか、どういった人が全体主義に加担しやすいのか、こういうことに触れている一般書はあまりないので新鮮な内容だった。
ただ、本当にゲーム理論を知りたい人にとっては、内容があっさりしているかもしれない。最後のほうの繰り返しゲームの解説の部分だけ数式が登場するが、そこに至るまでは数式が出てこないし、それぞれのゲームについても浅くしか触れないので、バイアスなしにゲーム理論を知りたいという人はもうちょっと無機質な入門書がいいかもしれない。
経済学的思考の形成には非常に良い教材だと感じた。
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