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『Chime (黒沢清監督作)』 鑑賞後10分感想

ちょっとさすがにすごすぎた。ほぼ10秒ごとに現れる"不穏"にどんどんぬめりこまされる。確実に精密に日常が掛け違えていってしまう根源的な恐怖と、そんな破綻の裏に微かに感じる悦び。平凡(と捉えてしまっている)な日常をぺらりと捲られて、裏面をのぞいてしまった感覚を覚えた。しばらくは日常に戻れない。

構成は、シンプル。料理教室の先生が、ひとりの生徒の自死をきっかけに、段々と狂気に蝕まれていく。脳が何かに支配されゆく主人公に呼応するように、一見普通の生活が異常味に染められる。だが、止められない暴力性に、一種の悦びを感じてしまうことも事実であり、その事実が、もっと怖い。押し殺してる理性と狂気、平気なふりして送る日常の中の平穏と不穏。二面性が面白かった。

そして何よりどんどん豹変していく「顔」がすごい。印象的に顔のアップを多用し、しかもそれが別人かと思うくらい、同じ人の表情がどんどんと変わっていくものだから、観客は登場人物の変化をいつも新鮮に驚きを感じつつ、その表情から目を離すことができなくなってしまう。そして、その顔の芝居こそが、突拍子もない世界観のリアリティを担保している。

最後、家を出た後、急に画面にノイズがかかってつんざめく音が響くとき、自分がもうどうしようもないところまできてることを悟る。その衝撃たるや。でも、そうなってしまってはもう遅いのである。この尺でここまで観客の感情をもっていけるかと、監督の力量に驚く。チャイムはもうやまない。


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