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サンタさんは魔法も使えた。
子供の頃わたしは、お家で楽しくクリスマスディナーをしていた。
その日のメニューは、かにとうなぎと餃子とそしてデザートはお高いアイスクリーム。
ビエネッタという何層にも重なった、ケーキのようなアイスクリームでスプーンを入れると、ばりばりっという音を立てる。
どうしても食べたくて、親にリクエストした。
うなぎもわたしのリクエストで、餃子は弟のリクエスト。
組み合わせが微妙なのはそのせいだった。
こんな豪勢なラインナップ、もしかしてわたしが財閥の娘だったのでは?と思われる前に言うと、そうではなくあくまでもクリスマス特別メニューということで普段はもっと普通の食事だった。
かにはお歳暮で頂いたのもの、とかそんなだった気がする。
目の前のごちそうを前にスイッチが入り、箸が止まらなくなったわたしは質素慣れしている自分の胃袋の限界を超えてしまう。
容量の200パーセントまで食べ、のちに胃の内容物は滞在時間は短く外に排出されることになった。
布団に入っても一睡も出来ないほど、おろろが止まらずに苦しむ中でわたしは今日こそサンタさんに直接会えるチャンスなのではないかという気持ちもあった。
この頃、サンタという存在についてのよからぬ噂を聞いていたので正体を突き止めてクラスの友達から一目置かれたかった。
そんな邪な気持ちも、おろろも朝まで止まらない。
サンタが来れないのを気遣って、少しおさまっている時には寝てるふりをした。
気配を感じればすぐに目を開けられるよう、薄目で体制を整える。
朝になり、結局一睡もできなかった…サンタさんも来なかった…今年はプレゼントももらえないのかと、がっかりしながら布団から出ようとすると枕元にはプレゼントの袋。
あの日のサンタは、いつの間に来たんだろう。絶対に起きていたはずなのに。
豆電球だってつけっぱなしにしてたはずなのに、一体どのタイミングで。
おそらく、サンタには特殊能力があって眠れる魔法をかけた隙にプレゼントを置いていってくれた。
袋の中では、欲しかったゆきだるまのぬいぐるみがにっこり笑っていた。
噂を信じてしまうところだったけど、サンタはやっぱりいた。
苦しかった記憶の中になんとなく、おでこにあたたかい手の感触を覚えている。
あれがサンタの魔法だったのかもしれない。
それからしばらく、その日のディナーのラインナップは食べられなくなっていた。
一生分食べた気分で。
なのに、夫に「クリスマスにはかにが食べたい」と言っているわたしはずいぶん大人になってしまった。
今なら胃袋の容量も、自分で管理できる。
欲しいモノだって自分で買えるんだけど。
でも、あったかい魔法の手だけが足りない。
一緒に夜更かしさせてしまったサンタはあの日、どんなことを思った夜だったのか。
どうやったらあんな魔法が使えるのか、秘密のクリスマスイヴのお話をいつか聞いてみたい。
メリークリスマス🎄
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