今日も今日とて、運貯金。〜拾い物に福ありがち〜
こちらに向けるまんまるで黒い目が潤んでいた。そこには貼り紙が。
「よかったら誰か拾ってください」
困った。
うちにはもう、先住のこがいる。
スペースも少ないし…、引き受けるわけにはいかないんだけれど…
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「新品ですが、脚の高さを低くしようとカットしたところ一本だけ短くなりました。ガタガタします。それでもよかったら」
気がつけば、ふたりで両脇を持ち、えっちらおっちらかついでいた。
見上げた東の空が白んでいた…とかだったらかっこいいのに
わたしたちはわたしたちらしく、何ヶ所も蚊に刺されていた。
若かったあの頃、わたしたちは捨てられたカリモク風のソファーを新しい家族に迎えた。
脚の長さを気にしなければ、貧乏暮らしにちょっと映えるおしゃれなソファーだった。
うちにソファーがなかったわけではない。
拾わなくてもよかったのに、何かを訴えるようなその目がズルくて。
お風呂の変わりに、綺麗なタオルで水拭きをする。
「うちにおいで。あったかいところでご飯を食べよう」そんな気持ちで、ぐらつく足にちょっと厚めの雑誌を食べさせる。
わたしたちは天才だった。雑誌のおかげで全然ぐらぐらしない!!!
「使えねぇ…」そう言われた経験のあるわたしは、一本だけ脚の長さの違うソファーをどうしてもスルー出来なかった。
このソファーが来てから少しずつ仕事も順調に行き、のちに幸運のソファーと呼ばれることとなる。
使い方次第で、もうソファーが家族になってから10年?いや、多分それ以上になったと思う。
シートには少し破れた部分もあるけれど、現役で今もわたしのおちりを支えてくれている。あの頃より少しでっかくなった、おちりを。
なぜ突然、古い拾いもののソファーの話をしたかというと
つい先日、頭がツーンとしているこがこちらを見ていた。
そんなばかな…ここはファミレスの駐車場。
白いタジン鍋が落ちていた。
朝の占いでわたしの星座のラッキーアイテムがタジン鍋だって言ってたような気もする。いや違うな、ぼたん鍋だった。
いのししの肉が入った鍋って。
すぐに手の届かないものをラッキーアイテムにするなよ、ってテレビに突っ込んだのだった。
誰が捨てたの。
これはタジンの神様に試されているのか、はたまたテレビにモニタリングされているのか。
そう思って誰かが何かを蒸していただろうタジン鍋のふたをパカっと開けてみるとそこには宝くじが入っていた。
タジンの精が出てくる前に、1枚の宝くじ…
もしかしてわたし、億万長者フラグがたったのか。どうしよう、とりあえず周りをキョロキョロ。冬なのに脇汗びっちょり。
心臓の音が飛び出してくる。
周りに人がいないことを確認し、とりあえず宝くじのサイトに繋いだ。
最初の一文字から合ってなかった!!
ギリギリセーフ。
当たったらどうしようだったよ。
危なかった。
誰だかわからないけど、ハズレ宝くじ入りのタジン鍋を駐車場に捨てないでよね。
ちゃんと燃えないゴミの日に出して。
なんでも拾えばいいってものではないなぁ。
運貯金がついに今日おりるのかと、ちょっとだけ期待してしまったじゃないか。
でも、宝くじには当たらないけど家に帰れば古い付き合いの慰めてくれる幸運のソファーがいるわたしはなんてラッキーガール。
今日も今日とて、運貯金。
運を貯めて貯めて貯めまくって、いつかでっかい何かの時に貯金をおろすわたしの物語。
まだまだおろさない、わたしの運貯金。