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【映画レポ】『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』
9月29日に全国公開した、『ジャンポール・ゴルチエのファッション狂騒劇』。公開翌日、早速観てきました。
あらすじ
全世界35万人の観客を熱狂の渦に巻き込んだミュージカル「ファッション・フリーク・ショー」。企画・脚本・演出を手掛けたのはパリを代表する天才ファッションデザイナー、ジャンポール・ゴルチエだ。ゴージャスなミュージカルの企画からプレミアまでを、ゴルチエとその周りのクリエーターの声を交えて追う。
苦手意識はどこへやら。ゴルチエの信念に惚れ込む危険な映画
2018年で初演を迎え、ロンドン、東京、大阪、上海で公演を行った「ファッション・フリーク・ショー」。
実は私、東京公演を予約しようか悩みに悩んで、行くのをやめてしまいました。というのも、ミュージカルとファッションが好きだったので興味はあったのですが、ゴルチエのファッションテイストには距離を感じていたのです。
ゴルチエが見せる世界観ははとにかく過激で、奇抜で、古典派な私にはそれはもうあまりにギラギラで…。正直苦手意識がありました。
そんなときにこの映画の公開予告が目に入り、「映画ならいいかも」とギリギリ直前に予約を取り、のこのこと劇場へやって来た私。
しかし、映画が始まってものの3分でゴルチエという人間のストーリーに飲み込まれていました。
観終わった今の感想は、「ゴルチエのファンになってしまった…」
1. 「美はひとつじゃない」全ての人から美しさを見出すゴルチエの哲学
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幼い頃から人と違っていたゴルチエは、いつも仲間はずれだった。学校にいても教師に叱られ、恥をかかされる。
みんなに好かれたくて仕方ない。唯一人と繋がれる方法が、「絵」だった。ただひたすらに、注目されたいがために絵を描き続けた。
ゴルチエが早いうちから自覚していた「違い」がもうひとつ。それは、同性愛者であることだ。
「男性に魅力を感じていたけれど、女性には同じ感情がもてないのか?」そう疑問を感じて以降男女関係なく魅力を探すようになっていた。
美しいものが好きだったけれど、美しさはひとつではない。「僕は相手にある美を見出してきた」というゴルチエには、常にそんな信念が垣間見える。
2. 遊ぶように仕事をする、子どものままの大人たち
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ショーの制作に関わった衣装製作、シナリオライター、ダンサー、女優、振付師。
ドキュメンタリーで切り取られた現場では、誰もが子どものようにわちゃわちゃと笑っている。それはもちろん、多忙を極めるゴルチエもそのひとり。というよりは、彼が率先してそんな雰囲気を作っているように見える。ショーの制作と同時に、ファッションショーの準備も並行して進めているにもかかわらず。
ショーに登場するのは、バランスのおかしな顔をしたクマの着ぐるみに腰にバナナを巻いて踊り狂う男女ペア。ゴルチエを教壇で叱る教師は、コミカルでお馬鹿な様子。
ついプッと吹き出してしまう、しかし痛快なキャラクターたち。ショーに限らず、ゴルチエのファッションやものづくりには、常にユーモアとシュールさがある。
まさに、日本のお笑い界でいう芸人さんがコントを見せ合ってるような、笑いで溢れた現場感。個性を見せ合って誰もが笑いを起こせる空気感は、人間として、「自分」のまま仕事をする人の集まりだからだろう。
もちろん本気のプロフェッショナルだからこそ、ピリつくシーンもあるだろう。けれど、彼らから溢れるはじける笑顔は、個性に美しさを見出すゴルチエの人柄が引き出しているように映った。
3. 「劣等生」「同性愛」までも面白おかしく描く
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「ファッション・フリーク・ショー」では、ゴルチエの半生が描かれている。
ゴルチエ本人が「彼がいなければ『ゴルチエ』は生まれなかった」と回顧するのは、今生の別れを遂げた最愛のパートナー、フランシス。
ファッションデザイナーの道を一緒に歩んだビジネスパートナーでもあり、亡くなる最期の瞬間まで隣で愛し合った。
ゲイカップルとして幸せに過ごした豊かな時間は、ゴルチエの人生でかけがえのないもの。ショーの中で、ゴルチエとフランシスがあの頃のように、再び舞う。
このドキュメンタリー映画では、自身のセクシュアリティやフランシスとの関係性を包み隠さず吐露している。セクシュアリティを公表するデザイナーは多いが、ここまで堂々と、誇らしげに過去の恋愛ストーリーを語る人物は、そうそういないだろう。
また、「劣等生」と扱われた子どもの頃の学校での苦い記憶も、ショーでは面白おかしく描かれる。
消し去りたいと願ってもおかしくないはずの原体験を、ユーモアに昇華させるのがゴルチエだ。そのシーンが創られる現場は、演者、何よりゴルチエ本人がそのおかしさに手を叩いて大笑いしている。
4. エンターテイメントとしての完成品。鼓動爆速必至のドキュメンタリー
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この映画は、「見せる」ことに執着してない。それであって、この上なくエキサイティングだから不思議だ。
それは、素材こそが本物のエンターテイメントだからだろう。ショー作りに関わる全ての人物、現場の空気感、会話。作り込まずにカメラで捉えたありのままの風景に、最高のポジティブ、ユニークさ、愛やリスペクトが溢れかえっている。
演出として計算せずとも、エンタメとして完成しているのだ。
世界観に完全に引き込まれた。呼吸が苦しくなるほど鼓動が早まってとまらなかった。観終わったときには、背中にはびっしょりと汗をかいていた。
3Dでも特別な音響でもないのに、映画にこんなに引き込まれるなんて。それも、これはドキュメンタリー映画なのに、だ。
5. 最後に
きっとこのレビューから、冷めやまぬ興奮が伝わったことでしょう。
本当の意味で人の個性を重んじ、とことん仕事をエキサイティングに、周りの人を巻き込んでいくゴルチエ。
スクリーンに映る彼の姿から、沢山の教訓を得ました。
どんなときも愛をもち、人と関わることを楽しむ。そして、自分として、どんな個性も輝かせて仕事をする。
そんな決意をすると同時に、あっという間に、ゴルチエという人間のファンになった私がいました。
意図することなく、自然と男女も人種も容姿もキャラクターも、何もかもが個性に溢れた作品。
「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」
チャップリンの名言のごとく、今抱える悩みも、ゴルチエの人柄を知れば笑い飛ばせるはず。
彼の愛に溢れた哲学と人間性に触れて、あなたらしさを解放する人生を描いてみませんか?