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次期参院選で、全員が納得する「野党予備選」は厳しいという話

【はじめに】


本日は吉村代表が提唱する参議院選挙の1人区での野党予備選について。
色々賛否が渦巻いてますが、一度冷静になって考えたいところです。というのもマスコミの見出しだけで囚われている人が多く、真意や狙いについて十分伝わっていない印象があります。しかし次期参院選における予備選について色々考えてみましたが、個人的には野党予備選そのものがあまり賛同出来ないです。ただそれで終わりにするのは、ツイッタランドでよく見る感情論だけで喚くチンパンジーと同じです。そのため、
「①そもそもやることのメリット・デメリットはどこにあるか」
「②実施に向けての阻害要因は何か」
「③実施することで自公過半数割れは可能か」
の3点から「全員が納得する『野党予備選』」は厳しいという現実に向き合ってみたいと考えます。

【メリット・デメリットはどこにあるか】


まずメリットから考えます。ネット上で色々な議論がありますが、私が考えるメリットはこの4つだと考えています。
①自民党公明党と1対1の対決に持ち込める
②有権者から見て、与党対野党のシンプルな構図
③予備選を通じて各野党の政策を国民に広げられる
④野党それぞれの違いが分かる

①②は全野党が参加することが前提となりますが、野党候補が一本化されるので、「現政権を支持するかしないか」「与党の政策と野党の政策で良い方を選べる」といった点は野党サイドからするとメリットとなるでしょう。現状衆議院では与党が過半数割れしている中、参議院でも自民党と野党が拮抗することを望む国民は多いと考えられます。衆院選前の世論調査でも、与党より野党の議席が伸びることを望む国民が多いことはNHKの世論調査でも示されています。

この傾向は今後の国会論議にもよりますが、自民党への反感の強さから当面は継続すると考えられます。そういったことから「与党対野党」の1対1での構図の方が「分かりやすい」というのは事実だと思います(それが良いか悪いかどうかは別問題)。
また、吉村知事の狙いとしては③の「予備選を通じて各野党の政策を国民に広げられる」という点だと考えられます。各野党の政策というのは浸透させるのに時間がかかります。特に少数野党にとっては限られた選挙期間で全ての主張を伝えるのは難しい部分もあります。大阪市長選において当時新人だった横山さんが維新支持層に広く浸透したのも、大阪維新の会が行った予備選によって、人物や政策面での浸透が進んだことによる影響が大きかったと考えられます。


予備選での議論を通じて、国民に様々な野党の存在をアピールでき、より自党の政策の浸透にも繋がるでしょう。ただ事前運動にならないようなルール決めが難しいですが。
また国民目線で見ると、④の野党の違いがより分かりやすくなるのはメリットかと思います。正直政治垢の人でも各野党の主張全ては知らないと思います(私もそう)。そのため普段政治に触れない人でも予備選での論戦によって各政党の違いがわかるようになるのでは無いかという期待もあります。

一方でデメリットは以下のことが挙げられます。
①一本化することで有権者の選択肢が狭まる
②一本化しても勝てるとは限らない
③仮に過半数割れにしても政策が一致する訳では無いので政策実現になるかは不透明
④比例代表票の減少
⑤「野合」となればコアな支持者の不信感に繋がる
⑥制度設計を誤ると少数野党にとっては参加メリットがない

まだまだありますがまずはこの6つ。特に①②⑤の批判は仮に「完璧な野党予備選」が出来たとしてもついてまわると考えられます。N国・幸福実現党以外の野党が統一候補となった前々回2019参院選においても、1人区においては自公側の22勝10敗という結果となっています。調整しても12の負け越しとなり、これでは過半数割れは厳しいです。
2019年参院選前の同時期(2018年12月)の世論調査と現在(2024年12月)の世論調査を比較すると自民党の支持率は約6%程下がってはいますが、この下がった分全てが野党に投じられるかというと必ずしもそうはならないでしょう。
色んな方がご指摘されている通り、コアな立憲の支持者が維新の予備選勝利候補に入れるとは思えませんし、逆もまた然りです。特に共産党なんかは絶対反発するでしょう。吉村代表は予備選に勝利した他党候補を応援しないとは発言しています。

そうなると尚更一本化するメリットが活かしきれないと考えられます。高いコストをかけて予備選をするメリットが無くなってしまいますね。③についても同様です。
また、読売新聞の記事で立民幹部が指摘していた、比例代表の票の減少も想定されます。

支持率の状況や野党の状況が違うので一概に比較は出来ませんが、野党統一候補を出した2019年参院選と、統一候補にしなかった2022参院選(1人区与党28勝4敗)では僅かですが後者の方が比例代表における野党の得票数・得票率は高くなっています。こうしたケースからも全ての野党の統一候補にすることで選挙戦における政党の露出が減ってしまうことを危惧することは理解できます。
さらに、⑥の制度設計も至難の業と考えられます。特に「事前運動とならないようにする」「誰が投票権を持つのかを明確にする」「結果への向き合い方」の3つについては各野党が納得しないと参加しないでしょう。また保守党や参政党といった保守寄りの政党かられいわ、社民党や共産党といった革新寄りの政党、N国のような政党・政治団体にまで目を配るとキリがありません。それこそ一部政治団体を無視して既存政党だけでやったら「既得権」と見なされ、国民の支持も得られないでしょう。

【予備選に向けた「阻害要因」】

ここまでの予備選のメリット・デメリットを考えましたが、仮に本気で実施を目指す上での阻害要因を考えます。
①事前運動と見なされないやり方を作れるか
②投票権を誰に設定するのか
③投票結果をどのように受け止めるか
④「(予備選で負けた場合)候補を立てないが、勝利した候補を応援しない」を支持者が納得するか
⑤以上の課題を全てクリアした上で全ての野党が納得して参加できるのか


まず、事前運動と見なされないかという点です。「事前運動」とは選挙公示・告示前に選挙活動をすることで、「選挙活動」とは判例より「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」とされています(総務省ホームページより)

予備選の実施がこの規則に抵触しないかどうか、正直グレーゾーンだと思います。予備選をしようとすると野党の出馬予定者が一堂に会してアピールするわけですから、政治活動というよりも選挙活動と捉えられる可能性があります。ここを完全に白に出来るようなシステムがあるのであれば大丈夫なのですが。
次に②投票権を誰にするのか。重要なテーマです。選挙区住民にすると事前運動となる恐れもありますし、各政党の党員だけで行うと無党派層は誰も見向きはしません。誰が投票することでその選挙区において「より優れた候補」を選出するのでしょうか?そしてその手法は参加する全ての野党が納得出来るものなのでしょうか?
同時に③の結果の受け止め方も重要です。極論ですがA候補50.1%対B候補49.9%でもA候補を一本化の候補とするわけです。こうなった時にB候補の支持者は納得するでしょうか?一部の方が接戦になった時は両方を擁立するという案も書かれていましたが、そうなると予備選をやる意味が無くなってしまうとも言えます。選挙は水物です。先日の衆院選でも、立民と国民民主双方が擁立して公明候補と対峙する中で、当初3番手の評価だった国民民主党候補が逆転勝利するという事例も愛知で起こっています。

なので形式的に一本化することで、本来勝てる可能性のあった候補が選挙にすら出られなくなることも有り得ます。
また吉村代表が明言している通り、④「(予備選で負けた場合)候補を立てないが、勝利した候補を応援しない」を認めた場合、支持者がその結果に納得しないことも想定されます。そうするとより予備選の結果、一人区で候補を出せなかった政党で支持が鈍り、政党から人が離れていくことも考えられます。
こうしたリスクや課題を全て乗り越えたうえで⑤全ての野党が納得して参加できるのか?という最難関の課題があります。当然「予備選に参加しない方がメリットが大きい」とした党は参加しないことでしょう。そうなったら候補の一本化もできず、無駄足になる可能性が高いです。ただでさえ①〜④で示した課題が山積している状況で、来年の参院選までに予備選が完了できるのでしょうか?甚だ疑問です。

【次期参院選での自公過半数割れはハードルは高い】


目的となる「与党過半数割れ」ですが、これもなかなか難しいのが現実です。次回参院選において、与党の過半数ラインは改選124議席の内49議席となります(改選65議席、非改選75議席)。これは与党としてはかなりハードルが低く、野党は2019年参院選を上回る結果が必要になります。仮に複数人の選挙区で五分に持ち込めたとしてもその時点で既に自公で21議席、比例代表の当選数を自民党の支持離れを考慮して自公で20議席と見積もった場合、野党は1人区で25勝以上する必要が出てきます。これは2007年の参院選以上の野党の大勝利が必要で、野党が多極化し、各支持率が旧民主党を大きく下回っている現状でこの結果を出すのはなかなか至難の業となります。しかも野党統一候補とは違い予備選に勝った上での挑戦となります。
こうしたハードルの高さからしても、全野党が間近に迫る次期参院選に向けて積極的に予備選に参加するのか?という疑問も出てきます。

【終わりに:やはり野党予備選は厳しい】 


以上の理由から、現状の情勢では次回参院選において野党予備選を行おうにもまず他の野党が納得出来るシステム構築が難しいことから積極的に参加するとは考えられず、予備選そのものが成立しない可能性が高いです。そして予備選を行ったとしても次期参院選で与党を過半数割れに持ち込むのは厳しいのが現実です。
ここの制度に拘るよりも、各野党がどのように与党を上回る政策発信ができるかに注力するべきで、むしろ予備選よりも野党だけでの討論会を積極的に開催し、自民党では無い選択肢を国民に選んでいただけるようにするべきと考えます。今ではネットの世界で討論会などいくらでも開けるのです。大事なことはいかに自民党から票を奪えるか。そして国民に選択肢を示せるかでは無いでしょうか?
少し長くなりましたが今日はここまで。

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