猫とくらせば / 生活音を楽しめる
猫の鳴き声なんてどれも同じように聞こえていた。似たようなもんだと。だけど実際には、人がそうであるように(というか、動物がそうなのだろう)、一匹一匹の声は違っている。
その違いをまざまざと感じ、リスニング力が高まったのは、やはり5匹の猫たちと暮らすようになってからだ。声の高さ、細さ、強さ、そしてリズムは五匹五色。うちは、家の中や外を行き来できるようにしてあげてるので、家に入りたい猫は、たいてい入口のほうでミャアと合図がある。6年の同棲とは凄まじく、一声聞いただけで「ああタラか」と特定できるようになっていた。
まあ声だけの区別なんてのは、そりゃ細かく聞けば微妙に違うのだから、一卵性双子を見分けるための観察くらいなもんで、「慣れててしまえば」わりとどうにでもなる。人間は、それなりに適応できちゃうから。しかし、最近はたと気づいたのが、生活音で5匹を断定できるようになっていったことだ。
たとえば、引き戸の玄関や部屋と部屋をつなぐ襖でガリッガッリと音が聞こえたらならヨネ。5匹のうちで唯一ドアを前足で開けられる猫なのだが、その音がするときは、鍵がかかっていたり、襖が重くて開けらないときのチャレンジだったりする。
また、寝るとき布団に入ってから、目を瞑っているとソロリソロリと聞こえてくる足音はトビ。つねに、ぼくがいるところをつねに探し当て、そばで寝ようとするのは5匹のうち、この子だけ(他の猫は、こたつでぬくぬくと寝てるけど)。甘えてくるくせに、慎重な性格なので勢いよくドカドカと踏み込んでこない。ぶっきらぼうな足音がするときはモズと相場が決まっている。あいつは人に気の遣えない猫らしい猫である。
そういった一匹一匹の個性が、生活音で現れる。その音そのものが、猫を語ってくれる。人間もきっとそうなんだろう。にも関わらず、なんとなくすべての音が同じように聞こえてしまって自分が恥ずかしく思えるのは、5匹のおかげ。もうちょっと耳にも頼った生活、コミュニケーションってしてもいいのかも。人を読み解くにも、ことばだけがすべてじゃない。
だれかが鳴らす音は、不思議と楽しい。"音楽"とは、そういった生活音の延長線上にあったのではないかと妄想してみたり。積極的に聞き分け、だれのにゃにの音なのか、早押しクイズの回答者として全問正解を狙っていきたい。そういや、自分が気づかないうちに立ててる特有の音ってなにがあるんだろ。