売れない著者のおじさんが女性向け書籍の監修を依頼されたきっかけから重版出来までの半年間の記録
本ができるきっかけ
一冊の本ができるには「きっかけ」というか「始まり」が必ずあります。今どきの例なら、noteをコツコツ書いているうちに話題になって、出版社さんから声がかかるとか、そういうことですよね。
ちなみにわたくしの場合、最初に出した「名刺活用の本」は出版社さんが募集していた企画コンテストに応募したら、偶然採用されたのがきっかけ。二冊目の「小さな会社のためのネットの本」は、知り合いの著者さんが懇意にされていた編集者さんに紹介していただいたのがきっかけです。そして三冊目の「SNS時代の人脈術の本」は、日頃からわたくしのSNSでの様子を見ていたという、面識のない編集者さんからのオファーでした。本当にいろいろです。
わたくし自身はかなり普通のおじさんですが、自分の経験していることをネタに出版したいなという意識を常にしていると、チャンスを逃しにくくなり、誰でも何冊かは本を出せるような気はします。(でも「売れる」のは誰でもというわけにはいきません。後で少し書きます。)
さて、今回の本は翔泳社さんの『暮らしの図鑑』という、大人女子向けの趣味指南書シリーズの9冊目となる『暮らしの図鑑 文房具』。
>>『暮らしの図鑑 文房具』文房具 16人の手帳・ノート・文具の楽しみ×女子の新定番100×基礎知識 (正式名称は長い)
実はこの本に関しては、なんとなくご依頼を受けてそのまま進行してしまったので、自分でもどういう経緯で依頼があったのか詳細を知らずにいました。
ということで、本書の担当編集者である古賀さん(自称:お局編集者・二児のママ)に聞いてみました。
「すみません、noteにこの本のできるまでを書いておこうと思うのですが、最初に『暮らしの図鑑』シリーズの次回作は文房具でいこう!という企画が社内にあって、古賀さんが文具業界に詳しそうな生田さんに相談されたという流れですか?」
「いえ、生田さんが『この前、高木さんって人を取材したんだけど、彼を巻き込めば文具関連で一冊できそうだね!』ってお電話をいただきましたw。もともとは生田先生は活版印刷の書籍をやりたいとおっしゃってて、でも活版印刷限定となるとなかなかニッチですなーという経緯がありまして。それで少し広げて紙モノの本ならどうかとは言ってたんですが。」
「あー、そこで古賀さんがもともと手掛けていた『暮らしの図鑑』のシリーズに文房具テーマでハマるんじゃないかと。」
「そうですー。」
生田さん
なるほど、そういうことだったのか。ちなみに生田さんはファーインクという編集プロダクション(出版社に代わって編集実務をする会社)の代表です。
生田さんのお仕事は多岐にわたっており、編プロとしての業務以外にもデザイン学校の先生とか、活版印刷研究所というポータルサイトで記事を書いたりもされています。その取材で2020年の6月にわたくしの仕事場にいらっしゃったのが、そもそもの始まりでした。
活版印刷のサイトなのに、錯視トリックのアートブックの取材という時点で、視点がおもしろいというか、好奇心のベクトルが似ている方なのかなと思ったのを覚えています。
実際に取材がはじまると、見るからに大ベテラン(生田さんの見た目はロマンスグレーの渋いおじさまです)なのに少年のように目をキラキラ輝かせて、脱線しながらいろいろお聞きになる。ふと気がついたら2時間以上お話していました。
その脱線の雑談の中で、いっしょに本を作れそうな何かを感じていただけたのでしょうか、その後、翔泳社の古賀さんへのご提案となったわけですね。それが今回の本作り参加のきっかけです。
そもそも『暮らしの図鑑』シリーズには文房具の案さえ出ていなかったところからの立ち上がりですから、何気ない雑談も大事なんですね。
おじさんが女性向け書籍の監修?
さて、そういう流れで編集の古賀さんから連絡がありまして、企画の内容をお聞きしましたら、「大人女子のための趣味指南書のシリーズ」であると。
まぁ、最近ジェンダーに関していろいろ話題になっていますが、あえて「女性向け」ということで続いているシリーズですから、やはり女性が好みそうな方向性で作ることは確実なようです。
しかしわたくしはバリバリのおじさん(当時48歳)であり、生田さんにいたってはロマンスグレーのおじさま(当時61歳)ですから、このチームが女子向けの本を作っていいのか?という部分で、一瞬悩みました。(そりゃ悩むよね)
「大人女子の好きそうな感じかぁ、、、」
そう思いながらツイッターを眺めていたときに、天の声が聞こえたような気がしました。
「女性の好きなものは女性に聞いたらええやん。」
そう、弊社のツイッターアカウントのフォロワーさんの中には、文具大好きな女子のみなさん(=ほぼ『暮らしの図鑑』シリーズの読者層)もたくさんいらっしゃるわけで、そういうみなさんに手伝ってもらえば、わたくしと生田さんの「おじさん臭」を薄めることができるのではないか?
指南書、手引書ということで、文具の沼にいる立場から、あの頃のまだハマっていない自分に向けてのアドバイスという感じで気軽に参加していただけたらいいなーと思い、このようなツイートを。
本の内容もまったく固まっていない時期でしたので、文具のいろんな得意分野を持った方に集まっていただいて、それぞれのカテゴリーを担当していただくようなことを考えていました。
投稿後、ありがたいことに数日で20名ほどの方から連絡をいただきまして、個別にヒアリングを開始、コンテンツのダブりなどがないか考えながら、企画に落とし込んでいきました。
その後、古賀さん、生田さんとZOOM会議を重ねながら、以下のように章立てが決定していきます。考えてみれば、今回の本は最初からずーっとZOOMのミーティングで進行してました。(古賀さんにお会いしたのって、うちが出展してた展示会に来てくれた時と、文具の撮影の日に立ち合いで翔泳社さんにお邪魔した時だけですもんね。)今はこれで本ができちゃうんですねー。驚きです。
夜更けのZOOM会議
第一章では「16人の手帳・ノート・文具の楽しみ」として文具の達人のみなさんに文具の楽しみ方についてのショートインタビューを。プロの方から一般ユーザーさんまで、幅広くお話を聞きました。これは古賀さんが担当。
今までの常識なら、個別にインタビューに出掛けていたものが、2020年は一気にリモートでいける!ということになりました。だから、以前は遠方だから無理と諦めていた人にもお願いできましたし、忙しい方にも移動せずに対応していただけるということで、時間的に無理という制限もかなり取っ払われた1年になったのは、コロナ禍での収穫のひとつかもしれません。
次にコラム集として、いまさら聞けない「文房具を楽しむための基礎知識」をはさみます。こちらは技術的な知識も豊富な生田さんに仕切っていただきました。コラムというにはあまりにも内容の濃い、良い特集となっていますので、文具初心者の方はぜひご一読いただきたいです。
第二章は「文具女子が選ぶ新定番文房具100」として、他でもない文具大好き女子のみなさんにガチで「わたしの新定番」を選んでもらおうという企画になりました。ツイッターで手を挙げてくださったみなさんに「選定委員」として、文具売り場やイベント、そしてネットで見てきた文具の中から、「これでしょ!」というものを推していただくわけです。(この章はわたくしが担当)
選定委員のみなさんは見事に全国各地に散らばっており、お仕事や家事、子育てなどで忙しい方がほとんど。ですから、夕食後の落ち着いたタイミングでZOOMに集まっていただいて、あーでもないこーでもないと喧々諤々ミーティングをしました。
お仕事でZOOMを使っている方も多いはずですので、「ZOOMあるある」だと思いますが、大人数でのZOOM会議ってなかなかに大変で、話すタイミングや間合いが合わないんですよね。ですから二回目はグループを半分に分けて少人数にしたりと工夫しながら、ヒアリングを進めていきました。
もう、みなさんアツい!どんどん溢れんばかりに意見が出てきますので、書記の古賀さんは大変だったと思います。秋の夜長、みなさんの熱量すごかったなぁ、、、結局いつも時間内には収まらず、ZOOMのチャット欄とかツイッターのグループメッセージにものすごい量の情報が集まりました。
後半のコラムは、文具好きさんが「行きたいけどなかなか行けない場所」の代表格、ズバリ「工場見学」にしました。みんな大好物の「キラキラ箔押し文具」「製本工場の上質ノート」「大人気のガラスペン」「今も鋳造される金属活字」このコーナーはライターの酒井さよりさんに加わっていただき、記事にしていただきました。
わたくしもガラスペン工房と製本工場に同行し、仕事する振りをしてものずくりの現場を堪能。工場は本当に楽しい、、、ご飯何杯でもいけますね。
ガラスペンのHASE硝子工房さんでは、ご厚意で制作風景をつぶさに撮影させていただき、YouTubeにも公開しました。(この動画、お好きな方にはたまらないんじゃないでしょうか?)
おじさんふたり以外、全員女性のチーム
わたくしとしましては、監修という立場でありながら、自分のおっさん臭をなるたけ消すことが最大のミッションと思って進めていたのですが、同時に古賀さんは着々と最高の制作チームを編成していました。
DTP、デザイン、装丁、撮影、すべて女性です。中でも挿絵イラストに関してはファインプレーもありました。
当初、手描き文字で有名なチョークボーイさんに依頼をしたのですが、多忙の彼がどうしても時間を捻出できなくて、断ろうとしたそうです。しかしその時、チョークボーイさんのお弟子さん的な?制作チームであるWHW!さん(女性3人組)が「わたしたちにやらせてください!」と受けてくださったのです!
結果的に、生田さんとわたくし以外はすべて女子!というチームになり、心配していた「おっさん臭」はみるみる薄まっていったのでした。
そして結果的に、こんなにかわいい本が出来てしまいました~!
これ、手に取っていただくとわかるんですが、サイズがまずかわいい。この『暮らしの図鑑』シリーズは、横が148ミリ、縦が180ミリちょいという、押しつぶしたA5でして、これがなんとも言えない「女性が扱いやすいサイズ」なんですよねきっと。
だから、書店さんに置いてあると、つい手を伸ばしてしまう方も多いようで、そもそも人気シリーズであるのがわかる気がします。うん、何でも大きさは大事。そして小さきものはかわいいのです。
重版出来!
そんなこんなでついに3月3日、ひな祭りにめでたく発刊となったのですが、実は発売前から「どうも評判良さそうです!これはすぐに増刷がかかるかもしれません。」という情報が入っていました。
増刷!重版?
わたくし恥ずかしながら、これまでこうした言葉に縁のない著者でして、「自分が関わると重版にはならない」というジンクスを勝手に作っているほどでした。
出版業界の内部では、著者のデータベースを調べるとどれくらい売れているかがすぐにわかるようになっていまして、売れている著者か売れない著者かは悲しいほど可視化されています。
ですから、書店さんも売れない著者の新刊にはそんなに期待しない→発注のテンションも下がるということで、負のイメージ&スパイラルが付きまとってしまうものなのですね。そして結果的に本当に売れない、、、
しかし、それは杞憂に終わることとなりました。
なんと、発売5日で増刷指示が出まして、いわゆる重版出来!ということになりました。すべてのネット書店で在庫がゼロになり、Amazonでは高値で出品する業者も現れるという状態に。
あらかじめ予告めいたものがあったとはいえ、脳からアドレナリンが噴き出すのがわかりました。出しても出しても売れない頃の気持ちが走馬灯のように・・・20秒くらい記憶がありません。
紙がない
と喜んだのも束の間、古賀さんから「でも、紙がないです!」との続報が。
最初は何を言っているのかよくわからなかったのですが、東北の地震と大雪、そして鬼滅のアート本の大量発注のおかげで中身の用紙がまったくなくなってしまい、類似の紙を探しまくっているとのこと。日本は紙は豊富な国だと思い込んでいましたが、そんなことあるんですねー。
結果的にやはり第二刷分の紙は臨時で変更となりました。そのあたりの顛末はこちらのインスタライブ(IGTV)に記録しておきました。紙マニアの方はどうぞご覧ください。(思いのほか重量が違ってびっくりしました。)
さて、奇跡はそれだけで終わりませんでした。4月19日には再増刷が決定し、第三刷ということになりました。もう完全に未知の世界です。お礼を言うしかできません。本当にありがとうございます。
まぁ、監修として表紙に名前を載せていただいていますが、上記のようにわたくしがそれにふさわしい仕事をできているかはよくわかりません。そもそも監修って非常にぼんやりした肩書で、何をすればいいのかも理解していないまま進行していましたしね。(でも要所要所をピシャリと押さえる古賀さんがめちゃくちゃ有能なのはよくわかりました。)
ということで、なぜ売れたのかの分析もできませんし、こうしたから売れた!という成功法則に落とし込むにもほど遠い状況ですが、こうやってこの本はできましたという事実の羅列だけはしておこうと思い、今回の顛末記となりました。
さて、ここまで読んでくださってありがとうございます。あなたが文具好きかどうかわかりませんが、もしこの本に興味を持っていただけたら本当にうれしいです。
あ、最後にお知らせを少し。
2021年4月30日までになりますが、この本をお買い上げいただいた方(リアル書店でもネット書店でも)に全員プレゼント+3名の方に撮影に使った文具を抽選プレゼントというキャンペーンをしております。文中にも登場しましたWHW!さんに描いていただいた挿絵イラスト集をPDFで配布する許可をいただきました。シール用紙などに印刷すると、かわいく使っていただけますよ。
それと、本業(文具雑貨の小さなメーカー)の方では2021年5月25日まで、新製品のクラウドファンディングということで、「着せ替えノートカバー」なるものをMakuakeにて先行発売しております。
これは、A5ソフトカバーの普通のノートが一瞬で立派なハードカバーになってしまうというもので、A5のノートならいろんなメーカーさんの製品に対応できますので、よろしければちょっとご覧いただきたいです。
これ、もともと御朱印帳の着せ替えシステムとして考案されたものですので、御朱印を集めていらっしゃる方もぜひ。
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