石垣部会「名古屋城石垣安全対策は南海トラフ地震を想定して作成すべき」
24/5/31に特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議 石垣・埋蔵文化財部会(第60回)が開催され、名古屋城跡内の石垣保存方針策定、ならびに動線付近の石垣の安全対策が議題となりました。
千田嘉博・名古屋市立大学高等教育院教授は「『石垣面に膨らみ』など石垣の現況を評価して安全対策をするだけでなく、南海トラフなど大きな地震の際に観覧者の安全をどう確保するかを想定して対策すべき」と述べました。
24/5/31 特別史跡名古屋城跡全体整備検討会議 石垣・埋蔵文化財部会 配付資料
http://nagoya.ombudsman.jp/castle/240531.pdf
名古屋市民オンブズマンによるメモ
http://nagoya.ombudsman.jp/castle/240531-1.pdf
名古屋城木造天守整備基本計画(案)を文化庁に提出するためには、「3大課題」である、①『石垣保存方針』、②『バリアフリーの方針』③『基礎構造の方針』をとりまとめる必要があります。
『石垣保存方針』のうち、「天守台石垣及び天守台周辺石垣の調査」はまとまりましたが、「天守台以外の石垣の調査」については今回議論となりました。
名古屋城総合事務所は、今回石垣保存方針の趣旨、石垣に対する評価案、石垣の現況評価に対する対応策案を示しました。
さらに、動線付近の石垣の現況と安全対策を示し、「名古屋城跡内にある石垣全365面にあてはめたい」としました。
千田教授は「石垣そのものに現在は大きな変状はなくても、大きな地震の際は落石の可能性がある。
特に本丸御殿の脇の東側は逃げ場がない。土日に大勢お客様が来ているので、被害が避けられない。安全対策の原案を再度作って議論しないと十分ではないと思う」と述べました。
宮武正登・佐賀大学教授は「せっかく名古屋城総合事務所が作った『石垣カルテ』を我々石垣部会は見ていない。
危険か危険じゃないかは、今回は名古屋城総合事務所が判断したようだが、本来は石垣部会の仕事だ。
できれば客観的な指標で判断したいが、現実的には千差万別。
全国各地の城の石垣修理を見ていると、明治大正時代に作った石垣の悪さが目立つ。
石工と石垣部会が現地で見て危険度を評価しないといけない。」と述べました。
西形達明・関西大学名誉教授は「文化庁は石垣耐震診断指針を去年出した。
・令和5年7月5日 文化庁文化資源活用課
石垣の耐震診断に関する指針・要領(案)の公開について
https://x.gd/ZZeh7
・文化財石垣耐震診断指針(案):石垣耐震診断全体の流れ
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hogofukyu/pdf/93911801_01.pdf
・文化財石垣予備診断実施要領(案):城郭の管理者が行う簡易診断
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hogofukyu/pdf/93911801_02.pdf
・文化財石垣対処方針策定要領(案):診断後の安全確保の方針策定
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/hogofukyu/pdf/93911801_03.pdf
今回は「予備診断」に当たるようだが、文化庁の指針に乗っかるのかどうか。」と述べました。
宮武教授は「名古屋市は石垣の『応急的措置』を行うと書いてあるが、具体的には『まだ考えていない』。
現状の劣化を止めるには具体的にどうするのか、名古屋城総合事務所の方針を持たないと、誤解を生じる」と述べました。
西形名誉教授は「『応急処置として、見学路を離す』ことも考えるべき。文化庁の上記指針では、安全な通路を確保できれば石垣は触らなくていいとなっている」と述べました。
千田教授は「中日新聞と愛知県図書館の間にある石垣は、崩れると愛知県警などに車両の乗り入れができなくなる。
熊本地震では、地震前は石垣に特に変状はなかったが、枡形の石垣は4方向全部崩れた。計画を立ててもなんの役にも立たないのでは困る。
また、西南、東南隅櫓など城内の重要文化財となっている建物には杭などは打っていない。下の石垣が崩れれば建物も崩れる。
来場者安全と建物の安全を考える必要がある。現状でも建物に人が入ることがある。櫓が地震時に堀に崩れ落ちる可能性を考慮してほしい。
また、鵜の首周辺石垣の発掘調査をしたら、根石がなかったことがわかった。発掘調査が今回の安全対策に反映されていない」としました。
座長の北垣聰一郎・金沢城調査研究所名誉所長は「名古屋城総合事務所は、来場者の安全確保をどう確保するか、石垣をどう対策するか、再度整理して出し直してほしい」と述べました。名古屋城総合事務所は「本年度は毎回石垣保存方針を議題としたい」としました。
終了後、発言のなかった赤羽一郎・元愛知淑徳大学非常勤講師が、新しく担当となった調査研究センター副所長に「石垣部会で何回同じことをするのか。やり方をもう一度考え直した方がよい」と述べていたのが印象的でした。
また、名古屋城総合事務所の「時間がないからあわてて書類だけ整える」悪い癖がでました。
赤羽委員も述べていたように、何回も同様のことを行い、石垣部会委員から指摘されて出し直す。これの繰り返しです。
実際、名古屋城の主要動線付近の石垣はどの程度危険なのか。
天守西側、鵜の首石垣(S10、U66)は根石がなくとても危険とのこと。本丸御殿東側(022H)はどうなのか。地震時に東南隅櫓ごと崩落する危険性はどの程度あるのか。
名古屋城総合事務所は「文化庁の指針は承知しているが、今回は名古屋市独自の対策を行う方針にした」と述べました。
『仮に文化庁の指針に基づくと、木造復元のための工事車両が入れないため』という理由であるなら本末転倒です。
大地震時に死傷者が出れば、まさに人災となります。
「きちんと大地震対策を踏まえた石垣安全対策をとると、名古屋城木造復元事業に支障が出る」のかどうか、具体的な各石垣のリスク評価を石垣部会と石工が行った上で、まずは来場者の安全対策を行うべきです。
「人命の危険性を顧みない木造名古屋城」は不要です。
・名古屋市民オンブズマン 名古屋城問題ページ
http://www.ombnagoya.gr.jp/tokusyuu/goten/index.htm
・名古屋市民オンブズマンブログ 名古屋城問題
https://ombuds.exblog.jp/i33/
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