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なぜ新入社員は他責思考に?主体性を伸ばすコミュニケーションと組織づくり

転職が当たり前になり、人材の流動性が高まっている現代。企業の人事担当者や事業部から、

  • 「新入社員が自責的に考えない」

  • 「フィードバックを受け入れず環境のせいにする」

といった悩みを耳にすることが増えました。

成長意欲のある社員は学びを得ようとしますが、新入社員が主体的に行動するとは限らず、むしろ「他責思考」に陥り、早期離職するケースも少なくありません。

他責思考は「思考の癖」であり、新しい環境での自己防衛反応でもあります。本記事では、新入社員が他責思考に陥る理由を整理し、主体的に成長できる受け入れ方と脱却方法を解説します。

他責思考とは?

他責思考とは、問題やトラブルが発生した際に、その原因を自分ではなく、他人や環境に求める思考のことを指します。仕事や人間関係でネガティブな影響を及ぼすことが多いです。

新入社員として入社したばかりのとき、環境や業務に慣れず、思い通りに仕事が進まないことも多いかもしれません。その際「自分の能力不足ではなく、環境や周囲のせいでは?」と感じる場面があるかもしれません。こうした思考が積み重なると、次第に 「他責思考」 に陥りやすくなります。

他責思考には、以下のような特徴があります。

  • 原因の外部化:失敗や問題の原因を自分ではなく、上司・同僚・顧客・会社の制度など外部に押し付ける。

  • 当事者意識の欠如:自分が問題解決に直接関与する意識が低く、「誰かがなんとかしてくれる」と考えがち。

  • 責任回避:自分のミスを認めず、「指示がなかったから」などと言い訳をする。

  • 学びの機会喪失:失敗を振り返ることなく環境のせいにしてしまい、同じミスを繰り返しやすい。

特に新入社員のうちは、周囲の既存社員が「お手並み拝見」の意識を持っていることが多く、手厚いサポートを期待しすぎると、「思っていたよりも助けてもらえない」と感じることがあるかもしれません。一方で、新入社員自身も「中途意識」を持ちやすく、まだ職場に馴染めていない不安から、戸惑う場面が増えるでしょう。

こうしたギャップがあるからこそ、環境等のせいにはせず、「どのようにすれば自分が主体的に動けるか?」 を考えることが大切です。自ら情報を取りに行き、周囲との関係を築いていくことで、スムーズに仕事を進める力が身につきます。

新入社員が他責思考になりやすい要因とは?

新入社員が他責思考に陥る要因を心理的要因と環境的要因から考察します。

心理的要因・環境的要因

他責思考に陥る心理的要因

新入社員が他責思考に陥る背景には、さまざまな心理的メカニズムが働いています。特に以下のような要因が関係すると考えられます。

  • 自己防衛反応:人は本能的に「自分を守ろう」とするものです。失敗を自分のせいにすると自尊心が傷つくため、「自分のミスではない」と無意識に思い込もうとします。

  • 傷つきたくない心理:「自分が悪かった」と認めることは、批判や指摘を受けることにつながります。それを避けるため、責任を外部に転嫁する傾向があります。

  • 怒られたくない感情:過去に厳しい叱責を受けた経験があると、失敗を指摘されることに過剰に恐れを抱き、逃げるようになります。

  • ダニング=クルーガー効果:自信過剰な人ほど自分の非を認めにくく、逆に、本当にスキルのある人ほど成長の余地を認識し、素直にフィードバックを受け入れる傾向があります。

環境が他責思考を助長する要因

心理的な要因だけでなく、環境によっても他責思考が生まれやすくなります。特に、以下のような環境で育ったり働いたりすると、その傾向が強まるでしょう。

  • 指示待ち体質:「自分で考える」のではなく、与えられた仕事をこなすことに慣れていると、問題が起こった際に「言われた通りにやったのに」と考えてしまう。

  • 外発的動機への依存:昇給や評価といった外的な要因で動機づけられていると、自分の内発的な成長意欲が生まれにくく、環境の影響を受けやすい。

  • 甘やかされた育成環境:失敗をすべてフォローしてもらう環境で育つと、社会に出たときに「自分が悪かった」と認めることが難しくなる。

このように要因を考察すると、上記に当てはまる人をこれまで見てきた方もいるかもしれません。本人の性格傾向や思考に起因する部分があると思います。

ですが、採用段階で判断し切るのも非常に難しいのも事実です。一方で、「他責思考の人を採用した人事が悪い」、「他責思考は本人の問題」と考えてしまうのも、これまた他責思考的な考え方です。

他責思考は治るのか?

そうした事実があるため、「そもそも他責思考は治るのか?」と考えるかもしれません。しかし、『他責思考は治るのか?』という問いは、「他責思考=悪いもの・矯正すべきもの」という前提を置いている可能性があるため、必ずしも適切とは言えません。

他責思考は単なる「思考のクセ」であり、”状況に応じて適切にコントロールするもの”です。

他責思考=思考の癖として捉える

そのため、新入社員が他責思考の場合、どのように「改善を促す」かを考えていくことがポイントです。他責思考を「コントロールできる」と仮定した場合、本人が主体的に考え、行動できるようになる機会を設計し、適切な関わりを持つことが重要です。

新入社員の主体性を引き出すステップ

他責思考から脱却し、主体性を引き出すために、次のステップで新入社員に対して向き合ってみることを提案します。

  1. 他責思考が生まれる背景を理解する

  2. 「振り返りの場」を設ける

  3. 「小さな成功体験」を積ませる

  4. 主体性を促すフィードバック文化をつくる

①他責思考が生まれる背景を理解する

他責思考に陥る理由は、単なる性格ではなく、「環境への適応過程での戸惑い」「自己効力感の低さ」「仕事の目的や期待の不明確さ」 などが影響していることが多いです。頭ごなしに他責思考を指摘するのではなく、背景を理解することが改善への近道となります。

②「振り返りの場」を設ける

定期的な1on1などで、例えば、新入社員が「上司の指示が曖昧で、どう動けばいいか分からなかった」と不満を漏らした場合、以下のような問いかけをしてみましょう。

【問いかけ例】

  • 「上司が意図していたことは何だと思いますか?」(上司の立場を考えさせる)

  • 「仮に同じ状況がもう一度あったとしたら、どう対応できますか?」(自分で解決策を考えさせる)

  • 「そのとき、〇〇さんは何ができましたか?」(自分にできることに意識を向ける)

→自己認識(メタ認知)を強化し、他責ではなく「自分にできること」への視点をもたせるようにトレーニングしていきます。

③「小さな成功体験」を積ませる

結果にこだわりすぎて、プロセスで得た小さな成長を見落としてしまうこともよくあります。業務の中で「成功体験」を細かく設計し、小さな進歩を感じられるようにフィードバックします。

【成功体験に紐づくフィードバック例】

  • 「商談獲得数が目標未達」ではなく、「前回よりもアポ獲得率が向上した」

  • 「お客さまから厳しい指摘を受けた」ではなく、「対応後に次のアクションが明確になった」

→自己効力感が低いことも、原因を周りに求めてしまう方の傾向です。"自分でもやれば変えられる"という感覚を育んでいけるようにしましょう。

④主体性を促すフィードバック文化をつくる

フィードバック時には、「次に何をするか」について質問していきます。
例えば、新入社員が「案件が取れないのはリードの質が悪いせいだ」と言ってしまうことは、THE MODEL型の営業組織などでよく見られる事象かもしれません。

【質問例】

  • 「この状況を変えるために、自分にできることは何だと思いますか?」

  • 「同じことを経験した人に相談するとしたら、誰がいいですかね?」

  • 「次回、同じ状況になったときにできるアクションは何ですかね?」

→自分で解決策を考えさせる習慣をつけさせます。

以上が、大きな4ステップです。

4ステップを意識し、他責思考から脱却する

コントロール可能なこととコントロールできないことを整理させ、自分で改善できるところを考え行動を促すステップです。仮に「先週よりも他責的な発言が減った」となれば、皆さんの関わり合いが上手く行っている証拠です。ぜひ、自分自身のマネジメント能力を褒め、また新入社員に対してもポジティブな声がけをしてあげてください。

新入社員の受け入れ方で他責思考を防止する

続いて、他責思考を生まないための「組織づくり」も重要なアプローチです。

例えば、学習性無力感という現象があります。学習性無力感とは、「自分の行動が結果を伴わないことを何度も経験していくうちに、やがて何をしても無意味だと思うようになっていき、たとえ結果を変えられるような場面でも自分から行動を起こさない状態」のことです。

「この人に何を言っても無駄だ…」「この組織は変わらない…」「この国の政治は…」といった具合です。実はこのような問題は組織でも起きていたりします。

以下では、よくある他責思考を生んでしまう組織要因とその脱し方をまとめてみました。

シチュエーション① フィードバックの欠如が「学習性無力感」を招く

◆典型的なシチュエーション
新入社員がどれだけ努力しても、評価が曖昧で具体的なフィードバックがないと、「何をしても意味がない」と感じるようになります。上司が忙しく、適切なフィードバックがないと、社員は成長意欲を失っていきます。

◆心理的メカニズム
「学習性無力感」を感じてしまい、結果として、社員は「評価が不公平だ」「会社が悪い」と考え、自らの成長よりも外部要因に不満を持つようになります。

◆克服法

  • 定期的なフィードバックの場を設け、成果のポイントを伝える

  • 小さな成功体験を積ませ、「努力が結果につながる」という感覚を醸成する

  • 1on1を活用し、「何が期待されているのか」を明確に共有する

シチュエーション② 「確証バイアス」が責任転嫁を助長する

◆典型的なシチュエーション
新しい業務に挑戦してうまくいかない場合、「やはり自分には向いていない」と決めつけてしまうケースがあります。また、上司が部下の能力を過小評価し、「やはりこのメンバーでは無理だ」と思い込むことで、適切な指導を怠ることもあります。

◆心理的メカニズム
確証バイアスにより、先入観に合う情報ばかりを集め、都合の悪い事実を無視してしまう傾向があります。「この組織では努力しても報われない」と思い込むと、不満や諦めの気持ちが強まります。

◆克服法

  • 振り返りの場を設け、思い込みを検証する

  • 事実や客観的なデータに基づく評価を行い、主観や感情を排除する

  • 「うまくいったこと」と「改善できること」をセットでフィードバックする

シチュエーション③ 「帰属のエラー」によって問題の本質を見誤る

◆典型的なシチュエーション
営業成績に伸び悩む社員が、「マーケットのせい」「上司のサポートが足りない」と考え、自身のスキルに目を向けないケースです。あるいは、経営陣が組織の低パフォーマンスを「社員の意識の問題」と認識しているが、実際には業務プロセスが非効率であることに気づいていないような状態です。

◆心理的メカニズム
失敗を外部環境や他者のせいにする「帰属のエラー」により、問題の本質が見えなくなる。これが組織に蔓延すると改善が進まないまま停滞してしまいます。

◆克服法

  • 課題を分析し、「環境要因」と「個人の努力」の両面を考慮する

  • 事実と解釈を分け、データに基づいた判断をする

  • チームとして「なぜ?」を繰り返し問い、問題の根本原因を探る習慣をつくる

他責思考は、個人の性格ではなく、組織の仕組みや環境によって強化されてしまいます。フィードバック不足、バイアスによる思い込み、問題の本質を見誤る帰属のエラーなど、こうした要因が組み合わさることで、社員は「自分ではどうしようもない」と感じ、責任を外部に求めるようになってしまいます。

しかし、適切なフィードバックと意思決定プロセスの透明化、そして振り返りの習慣を組織に根付かせることで、社員は主体的に行動し、責任を持つ文化が醸成されます。組織が変われば、思考も変わる、まずは環境から見直し、他責思考を生まない仕組みを作ることが重要です。

まとめ

新入社員が他責思考に陥る背景には、心理的・環境的な要因が複雑に絡み合っています。しかし、適切な育成環境を整えることで、「思考をコントロール」できるように導くことは十分可能です。
企業としては、「個人」「組織環境」の両面からアプローチし、まずは新入社員が他責的にならない環境からつくっていきましょう。
今回の記事が皆さまの組織におけるよりよい新入社員の受け入れにつながることを祈っています。

※記事における参考文献:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/personality/14/2/14_2_161/_pdf


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