海の向こう側
一緒に海を眺めていたら、言葉なんていらないのかもしれない。
平日のひっそりとしたミュージアムカフェ。
義母とふたり、コーヒーを飲みながらそんなことを思った。
「お母さん、その後体調どうですか?」
そうたずねると、物静かな母は、ポツリポツリと自分のことを話し出す。
ガラス張の向こうは、一面の海と橋。
瀬戸内の海は、今日もおだやかだ。
瀬戸大橋の色はライトグレー。
魁夷が「景観を壊さない色を」と提案してこの色が採用されたという。
岡山と香川をつなぐ瀬戸大橋の麓にある美術館。
母と初めて出かけたのもこの美術館だった。
夫と一緒にならなかったら出会わなかった人。
でも、たとえ夫がいなくても会いたいひと。
帰京した日の夜中、母からLINEが届く。
スタンプの猫が泣いていた。
「おかん、寂しかったんじゃない?」と夫は言う。
お母さん、私もだよ。また二人で海を見たいな。
そう思いながら、母にフォローされたSNSに海の写真をそっと残した。
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