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14歳でドイツ人学校に放り込む その6/最終回

前回の最後の文章は、「合格点数は、本人には不満があったろうが、Abiturをとった。」であった。
前提条件は、何とか満たした。
次は大学進学をどうするかだ。
子供は、ギムナジウム編入直後から、ドイツの大学には絶対に進学しない、日本の大学に進学すると宣言していた。
自己認識より遥かに下にずれた評価ばかり下されているドイツでの学校生活に、とことんうんざりしていたのだろう。
わたしも、下記の「毒を吐く その5」に記した精神状態で、大分参っていた。

一旦はリストラで部署がなくなり馘首された日本法人の会社に戻れるように、何年もかけて働きかけ、特別に、現地採用されていたドイツの親会社法人を退職し、日本法人に戻れることになった。
子供はAbitur試験後に、ドイツでゲーテインスティテュートのドイツ語検定試験C2に挑戦し、合格した。
子供のギムナジウム卒業パーティの翌日に、二人で本帰国の日本行飛行機に乗った。
日本は盛夏であった。

子供は日本の大学入試までの短期間に、日本の大学入試対策を練らなければならない。
自分で調査し、入試科目の少ない、有名私立に絞って入試に挑戦するという作戦を立てた。
最短時間で、日本の大学入試に向けた学習量をフォーカスし、卒業後の就職先の選択の可能性を最大限にしようというわけだ。
戦術としては、首尾一貫かつ論理的で賢いが、戦費が非常に高い作戦だ。
首都圏私立大学で、しかもアパート住まいが予想される。
戦費負担は誰だ?
10年も日本を離れ、浦島女郎のわたしに、現役高校教師の弟たちが、私立文系の4年間の学費プラス首都圏家賃生活費について、正確な費用の見積もりを立ててくれた。
わたしはまたまた頭を抱えた(何回目かね)。
でも今回は、子供は絶対譲らなかった。
都合で振り回されるのは金輪際ご免だと、一歩も引かない。
子供がドイツ人学校に通っていた時に相次いで亡くなった、教育を大事に考えていた両親から譲り受けたものを、孫に使うのは、理に適っているのかもしれない。

子供は、予備校にも行かず、自習だけで、希望の私立大学に一般入試で合格した。
わたしはせっせと日本の法人の開発部門(もう研究部門はなくなっていたからね)で働き、子供の学費生活費も賄い、その後、退職した。
子供は無事卒業し、就職活動して、希望の財閥系企業に入社した。
辞令により、ドイツではない外国で、今は働いている。

「虎穴に入らずんば虎子を得ず」ということわざがある。
虎も、虎のいる穴も、虎子も、全て「わたし」なのだ。
穴は、暗く、長く、先が全く見えない。
中の虎の存在ばかりが、脅威なのではない。
足元はがたがたで、尖った岩だらけ、手をつく壁だって、平坦ではなく、虎に会う前に、転び、すりむき、怪我をする。
手負いなのに、素手で、虎と戦わなくてはならない。
そうして得た虎子、つまり現在のわたしは、虎穴に入った価値に見合うものだろうか。
答えはわたしにしか見つけられない。

もう一度言うが、このnote記事は、あくまで親の立場からのものだ。
子供は、別人格で別個体だ。

子供には(もうとっくに大人だが)、自身の「虎」「虎穴」「虎子」があるのだ。

今は、外国で仕事をしている子供が、健康で、事故や犯罪に巻き込まれないで生きていくことを、何千キロもの彼方から願うことしかできない。

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