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くいしんぼばあさん その4 風のある蕎麦屋

展覧会を見たくて、半時間のドライブに出た。
街の中心部の駐車場に入れる。30分百円だが、指定のお店で買い物したり、食事をすると、駐車場料金はただになるという。
丁度お腹も空いている。どんな食事処があるんだろうと見に行ったら、手打ち蕎麦屋さんがあるではないか。開店前なのに既に何組かお待ちだ。その上、店員さんが出てきて、暖簾をかけた。グッドタイミング!

3番目に入れて頂く。聞くともなしに前の二組の注文を聞いていると、御二組とも、天ざるを注文なさっている。ということは、それが美味しいということだと、わたしも倣って天ざるを注文する。

お蕎麦を待つ間に、お手拭きで手を綺麗にして、食卓上の菊の小花瓶を撮影したり、出されたお茶で喉を潤していると、店内にBGMとして「Beat it」が流れてきた。でもマイケル・ジャクソンではない。誰かがカヴァーしている。
ちょっと考えてほしい。手打ち蕎麦屋で、店の一隅が手打ちする場所で、たった今打った蕎麦を店主が切っている包丁がまな板を打つ音がしている。客のうちで一番若いのが、高齢者新入りのわたしだ。そこに「Beat it」が鳴るのである。
Beat itはダンスを促すが、まさか蕎麦屋では動けない。食卓上の指を控え目微かにビートに乗せて動かしながら、歌手は誰だろうと考えを凝らした。
ここは自慢なのであるが、わたしは比較的、声だけの情報で誰かを当てるのがうまい。別々のアニメや映画で、声優が全く違う役目を担っておられても、認識し、家族や友人に驚かれたことがある。
で、声質に集中したら、YOUTUBEで偶然流れてきて、気に入って何回か聴いたことがある、”Workin' Hard”を歌っておられる藤井風氏ではないかと思いついた。確かめずにはいられなくて、恥ずかしいが、席を立ち、注文された品を用意しつつある配膳の方の目線を捕らえて、「音楽は藤井風さんですか?」と尋ねた。肯定の答えに「忙しいときにごめんなさい。」とさっと着席した(やったぜ、そうだ)。
更に同じ声で色々な洋曲が流れる。きっと藤井風氏による洋楽のカヴァーアルバムなのだろう。どれも素敵だが、気に入ったのは、「Shape Of You」だ。この原曲をご存知だろうか?(歌詞の意味を機械翻訳させてみて欲しい、俺のシーツはお前の匂いがするとか、とんでもなく好もしい歌である)。

いやあ、内装は普通、上りの座敷もある、手打ち蕎麦屋に流れる藤井風の「Beat it」と「Shape Of You」。いいなあ。

肝心のお蕎麦は、お蕎麦自体、つけ汁、薬味、天婦羅(特に海老が素晴らしい!無理矢理叩きのばして、厚く厚く衣をまとわせた偽大海老ではなく、太くてしっかりした味の海老)、天婦羅用の薬味につけ汁、どれも、とっても良かった。

いつか、別の展覧会に来るときも、同じ駐車場で、同じお蕎麦屋さんで食事をしよう。その時はどんな風が流れるだろうか?人生の小さい楽しみが増えたぞ。


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