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くいしんぼばあさん その1 250円のしあわせ

今にも雨が降り出しそうな空模様の下、お気に入りのイタリア製の傘を持って、歩いて街の中心部に出た。

金融機関の気の張る用事を無事済ませ、ほっとして、駅前の老夫婦だけで営まれている定食屋(今や絶滅危惧種で、どんどん少なくなっている)でアジフライ定食を頂き、市役所に向かった。
役所に用事はないのだが、隣の公民館の図書室で楽しみにしている本を借りようとする前に、新築の市役所の1階に入っているコンビニで、食後のコーヒーを味わおうというわけだ。
さっきの定食屋でご飯を半分にしてもらったことを言い訳に、コンビニのフルーツパウンドケーキと小さいコーヒー(流石にブラックで)に合計250円払い、市役所の窓際に外に向いて設置された新品のテーブルと椅子で、デザートタイムである。
新しい市役所にはフリーWi-Fiが設置されているので、携帯で読みたいニュースに目を通しながら、このパウンドケーキとコーヒーは馬鹿に美味しい事に気がついた。

ニュースからパウンドケーキとコーヒーに注意を集中した。
フルーツは確かに細切れで、”フルーツ”パウンドケーキと銘打つための言い訳みたいな含有量だが、生地と焼き具合と香料と甘さ加減が、わたし好みの、酸味の少ないブラックコーヒーととても良く合っている。
これだけの質と味と衛生状態の甘味とコーヒーを、衛生的なテーブルと椅子で、静寂の中、Wi-Fi使用可能な条件下で楽しめるのは日本だけだ。
おまけに、どこからか手が伸びてきて、携帯電話やお財布をひったくられる可能性は、限りなく低い。殆どストレスフリーで、自分の想いに耽ることが出来る。
なんて幸せな事だろうか。

もう一度、250円という値段にも思いを馳せた。
素晴らしい喫茶店で好みの豆を挽いて貰い、店の主人にドリップしてもらうコーヒーや、手作りのケーキには、勿論かなわない。
でも、アルバイトを多勢シフトさせ、雰囲気が素晴らしい、Wi-Fi環境も整った、チェーン店のカフェーの値段の四分の一で、このコンビを楽しめるのだ。
勿論市役所というインフラは、税金で出来ているのだから、カフェーと比較はできない。
でも、自分の心の中で、コンビニスイーツとコンビニコーヒーを、その安価な値段ゆえに、下に見ていたことに気がついた。高価なものは、それに質が伴うことが殆どだ。でも、250円だろうが1000円だろうが、美味しい物は美味しいのだ。
値段や入れ物、周りの雰囲気に左右されず、そのもの自体を味わうことは、実は難しいことに、この年齢になって、市役所の中で気がついた。

ちなみに隣の公民館の図書室は月曜日でお休みだった。
また出直そう。

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