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欲望する脳・欲望する科学

脳科学とは何だろうか?
最新鋭の機材を使い、ヒトの脳の働きのデータを集め、あらゆる角度から検証を行い、一定の法則性を導き出す。

”科学”と銘打たれている以上、そこに道徳やモラルが入り込む余地はない。科学の前ではヒトも一匹の猿同然だ。

事実、fMRI登場以前は猿を使った動物実験がさかんだった。

「fMRIにより脳を物理的に傷つけることなく、その状態をありのままに調査することが可能になった」というのは、建前に過ぎない。
とどのつまり、最先端の技術が生み出した現代の「人体実験」なのである。

そしてはたせるかな、諸々の実験により、ヒトの隠された欲望や本性は暴かれることとなった...

そのスリルと興奮は読むものに生きる活力をもたらすだろう。

脳科学は人格を改造するか?

成功している人たちは一般に「あの人は頭のデキが違う」だとかナンとか吹聴されるものだが、

昔から、彼らがどんな脳ミソのつくりをしているのか知りたかった。

そしてあわよくば俺も、脳ミソをどうにか鍛えなおして、成功者への人格改造を敢行できればいいなあ...と。

これ、ぜんぜん冗談ではなく、脳科学の世界では現実味を帯びてきているので驚く。

話の大枠をつかんでもらうために、まずは「マシュマロテスト」について解説したい。

小さな子供の目の間にマシュマロを置いて「マシュマロをすぐ1個もらう?それとも我慢して、あとで2個もらう?」と聞くのである。

そして「もし我慢して食べなかったら、2個あげるよ!」といって、子供を残したまま部屋を出る。

子供が我慢できるか?「我慢力」を試すわけだ。

結果、「我慢できた子」と「我慢できなかった子」の生涯を追跡調査すると、年収や学歴、社会的地位などの差に、相関性が認められた。

中野信子先生がこの能力について、もっと脳科学的な概念で説明を与えている。

脳には、論理的・多角的にじっくりゆっくり考える「Cシステム」と、直観的に物事を判断する「Xシステム」がある。

Cシステムはひとことでいうと、決断を先延ばしにする能力である。重要な決断をあえて下さずにグっと我慢する…時に働く機能である。

他方Xシステムは即断即決するときに働く。一目ぼれとか衝動買いとか、イラついて人を攻撃するとか。

マシュマロテストで我慢できる子は、Cシステムが優れているのだ。


マシュマロを食べてしまった人へ

じゃあ、Cシステムの働きがいまいちなパンピーは一生、パンピーのままでいるしかないのか?というとそんなことはない。

英会話や数学のような、長期間の学習が必要な課題に取り組むと、Cシステムを担っている前頭葉の皮質は増えることがわかっている。

この記事でも言及されているが、前頭葉は後天的に改善可能なのである。
脳には可塑性がある。これはよく使っている神経はより強化され、使わない神経は廃れていく現象だ。

子供のうちは脳神経が未発達ゆえに、神経の役割の変化が起こりやすく「可塑性が高い」だなんていわれる。

だが、脳神経回路が出来上がってしまっている成人が新しい神経回路(=能力)を獲得するには、たゆまぬ努力が必要だ。

なお巷で出回っている「脳トレーニング」は、Nバックタスクや計算、音読であったり、英会話であったりと様々だが、どれも左脳=(理論脳)を鍛える点では同じといえる。なぜか?

現代社会が左脳偏重の世界だからだ。
知らず知らずのうちに我々は「左脳偏向人間」として社会によって作り上げられている、とも言いえるのだ。

だからこそ「どうせ鍛えるなら、左脳を鍛えなさい」とすすめられているのだ。理にかなった助言なんだね。


自分の可能性を広げる

でもそういわれると、天邪鬼な俺は「右脳を鍛える」トレーニングの方が、気になってくる。

右脳を鍛えることは可能なのだろうか。

そもそも、それを考えるのならばまずは右脳の機能をはっきりと定義する必要があるだろう。

近年「"右脳と左脳の機能が違う"は俗説」なる俗説が蔓延しているが、

左右の脳の機能が違うことは自明であり、それどころか左脳/右脳には別の人格が住んでいることすら、実験により実証されている。

右脳と左脳をつなぐ脳梁に障害があって、左右分離脳となってしまった人を対象にした、興味深い実験を紹介しよう。

※ joseph Ledoux et. al. a divided mind annals of neurology. 2. 417-421. 1977

この実験対象の人は幸か不幸か、たまたま、左脳だけではなく右脳にも言語中枢があり、右脳単体でも会話ができたのである。(ほんらいは左脳にしか言語中枢はありません)

まずはじめに「あなたは将来どんな職業に就きたい?」と質問する。

彼は「製図工」と答えた。

つぎに右脳だけに同じ質問をしてみたのである(左脳には質問が認識できないように特殊なオペをした)

すると彼は「カーレーサーになりたい!」と答えたそうだ。この結果に答えた本人すら驚いていたという。

≪≪≪≪≪≪

左脳は社会で生きていくために、理性的に己を律する役割をもっている。

ゆえに本来ならできたはずの選択肢も「これは無理」とか「非常識だ」とか、決め付けて除外しがちなのだ。

反対に右脳の役割は、常識や制約にとらわれず、全体像や感覚・直観をつかむことである。

たとえば、誰かに皮肉や当てこすりをいわれたとしよう。左脳は言葉通り、額面通りに受け取るのでその言外の意味に気づけない。

いっぽうで右脳は直感で「こいつ俺をバカにしているな…」と気づく。ただし言葉や理論がないのでその理由をはっきりと説明できない。

と、このような役割の違いがあるのだ。

左脳単体の発想だと、行動や実行のための枠組みを提供するが、いつのまにか自らに制限をかけて可能性を閉ざしていく危険性がある。

だからこそ、右脳の広大な潜在意識から掬い取られた"気づきの声"が必要なのである。

「心の余裕」

…つまり右脳を鍛えるとは、右脳の"声なき声"を聴く能力を高めるということである。それがいかに難しいかはお察しと思うが、ヒントはある。

あらかじめワーキングメモリのテストを受けさせたチェロ演奏者たちに、即興演奏をさせた実験がある。

※テキサス大学の認知科学者、アートマークマン教授による実験

先に結論を述べると、

ワーキングメモリ容量が大きい演奏者ほど即興演奏は優れていたのである。

逆にメモリ容量が小さい演奏者の方は、何度やっても型通りで、創造性が低かった。

ワーキングメモリの容量が大きいと、右脳の"声なき声”に耳を傾けられる心の余裕があることを示唆しているのである。

※ワーキングメモリのトレーニングについて、おまるたろうが体を張ってリサーチしてます↓


メンタル強化法

生きていると、いろんな困難に遭う。

それは自然災害のような目に見えるものだけではなく、突然の病魔や、社会の大きな変動、人間関係がこじれて駄目になる、エトセトラエトセトラ...

いままでの働き方や生き方が通用しなくなって、心がポッキリ折れてしまうこともある。

このような危機を乗り越えるためにはメンタルの強化が必要である。脳科学の道具立てでそれは可能だろうか?

* * *

人には、逆境や不利な状況に耐えて、したたかに立ち直る能力がある。これは心理学の「心のレジリエンス」といわれる概念である。

レジリエンスとは「跳ね返り」や「弾力」という意味だ。

いろいろ書いてきたが、この能力の強化こそが肝になるんじゃないかと思えてきた。

どんなに凹んだ出来事に直面しても、次の日には元気一杯に出社してくる、、、心のレジリエンスが高い人とは、きっとそんな感じだろう。

「あいつはタフな奴だ」と、まわりからの信頼を勝ち取って、あっという間に出世していくに違いない(クスリでもやってるんじゃ?とか陰口をいわれそうだが)


心のレジリエンスを脳科学する

ところで、心理学用語の「心のレジリエンス」だが脳科学でいうと、どのように解釈されるのか。

篠浦伸禎先生の本に、分かりやすく説明があった。

「ストレスで自我を強くする」という独特の言い回しで、心のレジリエンスが表現されている。

「困難」とは、脳の機能が拡散されてバラバラになって、うまく統合できなくなること、である。これを乗り越えるためには再び統合をしなければならない。

※未経験の出来事に遭遇して、まるで嵐の中に投げ込まれたかのようにパニックに陥ることがある。これが「拡散」ということだろう。

この「拡散 ⇔ 統合」のサイクルを動かすための鍵となるのは「自我の強さ」なのだという。

自我は脳の奥深くの中心(帯状回、デフォルト・モード・ネットワーク)ににある。

この部分が壊れると、鬱病などのさまざまな精神疾患となることが、最新の脳科学でも判明してきている。

したがって心のレジリエンスのコアとなる帯状回の血流を増やすことが重要と、篠浦先生は力説している。

瞑想(マインドフルネス)や呼吸法が効果的なのだそうだ。

もう一つ重要な鍵が「ポジティブシンキング」

これは成功している経営者、スポーツ選手、アーティストなどの大半が実践していることだ。

困難に直面したとしても、それをプラスに合理的に解釈するのと、ひたすら後ろ向きにネガティブに解釈するのとでは、

もうまるっきり違う結果となって跳ね返ってくるよね。

いざというときは念仏のように「この試練を乗り越えたら、俺はメチャクチャ成長しているはずだ」と、自分に言い聞かせるのが良い。

きっと困難を乗り越えた後の、甘美さと喜びは、何ものにも変えがたいものであろう。


どうしてもダメなとき

上記では、心のレジリエンスの「ハート」の部分にフォーカスしすぎたきらいがあるので、「クレバー」の部分にも触れたい。

どんなに努力しようがポジティブになろうが、駄目なものは駄目って状況は、ある。

若い頃からいろんなことにチャレンジしてきたので(芸能とかw)、骨身に染みているのだが、ちっぽけな凡人の努力なんぞ、

運のいい人の前では無力である。「自分の力で壁を突破できる」だなんて勘違いも甚だしい。

一方で、安易に方向転換するのも、後に大損をまねくことにつながりかねない。人は精神的にやられている時ほど、自分を見失っておかしな判断をするものなので、気をつけたい。

...なにが言いたいのかというと、「心のレジリエンス」の良し悪しも適度なプレッシャーやストレスありきの話だよ、ということ。

「ヤーキーズ・ドットソンの法則」といわれる概念がある。

適度なストレスがかかり続けている状況なら、ストレスがモチベーションを生み、最大のパフォーマンスを発揮させるって話だ。

ならばコテンパンにやられてしまって、何もかもが上手くいかずモチベーションなんか湧きようがない、

なおかつそれが当分改善する見込みがないような状況...

どうすればいいのかというと

「何もしないで、待つ」

が正解ではないかと思っている。ふりかえってみると、この選択が一番ダメージが少なく、手堅い。

もはや「心のレジリエンス」すら忘却して、省エネモードになりきる。そのうえで「良くなる時期が来る」

と、そう信じて、いざというときに力を発揮できるように自分の実力を淡々と磨くのである。

※【追記】この問題に明確な答えは無い。さっさと次の手を打った方がよいこともありえる(FXの損切りみたいに)。迷った時は「Cシステム」「Xシステム」に照らし合わせて、自分の精神状態を客観視するとよいかもしれない。


あなたの欲望は何ですか?

「自分の欲望は何なのか?」をきちんと理解していないまま、いくら努力しても元の木阿弥になるのは、火を見るより明らかだ。

日本人にありがちな悪い傾向として、イザ努力!となった時に不思議と「苦手を克服」することに目が向きがちである。

よくない癖と思う。

自分のダメな部分の延長の努力をしても、その労力に自分の価値観が伴わず、取り組んでいる物事への理解力も洞察力も高まらない。

自己啓発ではよく、努力が挫折するのは「自己肯定感」やら「認知の歪み」やら、「心のレジリエンスが低いから」やら、いろいろいわれているが、

本質は「欲望への理解力」である。

もっと自分の欲望に素直になるべきだ。

自分の本当に望んでいるものを見定めた上で、「自分には無理だ」とか一切考えずにひたむきに努力し続けるしか、ないのではないか?

誰もが、ひとつくらいは強烈な欲望を秘めているはずだ。その力を使いこなすコツを掴めれば、おのずと能力も洞察力も磨かれていくだろう。

だから努力の「初歩の初歩」とは、自分の生来もっている「欲望」に気づくことなのだ。


ドリームキラー大国"ニッポン"

一方で、社会人の最初のイニシエーションとは、「自分を押し殺す」ことである。

元気一杯だったはずの新卒クンが、研修できびしく詰められ過ぎて、屍のようになって帰って来る...という光景は、毎年恒例の、社会の風物詩である。

社会では自分に正直な人、本音を隠さない人は(基本的には)潰される。運が良くて飼い殺しになる...とかだな。

オッサンたちはみんなそういう、夢見るタイプには敏感なのだ。

たとえ反抗的に上司に本音を熱く語っても、半泣きになるまで説教されるか、あとでエッグい報復をされるか、

「ウンウン、そういう年頃だもんなぁww」みたいな感じで、鼻で笑われるのがオチだ。

抑圧を受けていくうちに、いつのまにか他人や会社が求める目的が自分の目的であるかのように、脳ミソにすり込まれていって、

自分の目的が何だったのかすっかり分からなくなり、流され続けてジワジワと精神が磨耗していく。

「あいつは仕事ができる/できない」だのウンタラの、そういう、仲間内の格付けの世界で生きていくわけだから。

ある時期を境に投げやりに...ってことも、普通にあるだろうよ。

ドリームキラーだらけの日本社会に埋もれないためには(上記のとおりだが)右脳の声を聴く能力がとても大事になる。

かすかな"声"を聞き逃さず、自分の欲望への気づき、向かうべき目的を定めるしかあるまい。


欲望を書いてみる

wordでもいいし、手書きでもいい。

真の欲望への気づきを得たいのなら、毎日ちょっとした文章を書くことも、よい手段だ。

ただしポイントがあって、それは

「自分の未来」

ついて記していく、ということだ。

もうひとつ。「これはありえない」というような制限は一切かけずに、自由な都合の良い妄想を書いていく。例えば、

「今日一日のはじまりは、こうだった...」と、はじめて、

「(職場の同僚の)女の子の視線が俺に集中していた気がする。モテ期到来かもしれない」

とかなんでもアリで。どうせ誰も見ないのだから恥ずかしがらずにドンドン書く。

もし仮に、女の子に振られてしまったとしても、けっして悲観的なことは書かない。

「一週間前に食事の誘いのメッセージを送ったが、まだ返事がこない。俺のことが好きすぎて、気持ちの整理がついていないのだろう」

とかとか( ⇒ヤヴァイ人だね)

木ノ本景子先生の本に書いてあったのだが、

妄想たくましい人ほど出世が早いと、報告があったそうである。(雑誌COSMOPOLITANの調査)

下記はジョブスとイーロンマスクの「思い込み力」についてフォーカスした記事だが、この二人は妄想力がケタ外れに強いことがわかる。

妄想は自分の欲望を解放した状態を作り出す。この状態を作り出せることが、自分の理想に向かうためにはもっとも重要だ。


【とっさについたウソの裏を読む】 

とっさについてしまったウソも重要なヒントになる。どういうウソかというと、

①高校生の頃、HIPHOPとストリートファイトに明け暮れていた
  ⇒実際はただの真面目な高校生だった
②昔、東大受ったんだよ。でも日本の大学なんてウゼーと思って...
  ⇒受かってない
③職場の後輩、ほんと可愛い奴なんだよなあ
  ⇒実際は挑戦的な後輩でウザイ

...こんな感じ。

このウソの裏に、本当の素の欲望が隠されている。注目したいのは、

①ならセルフイメージのウソだし、②なら経歴についてのウソ、③なら人間関係のウソである。

いずれにもいえるのは、「自信がない」からウソをつくのである。その自信がないものを、取り戻したい。

そう無意識に「欲望」していると解釈できる。

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