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「頭がいい」とはどういうことか ――脳科学から考える|読書メモ(4)

脳が運動によって鍛えられることは、いまやすっかり知れ渡るようになりました。

2010年代で、もっとも知名度を獲得することに成功した脳科学のベストセラーは「脳を鍛えるには運動しかない」(ジョン・レイティ著)ではないでしょうか。内容はタイトルそのまんまなので、詳細省くが、なにかありがたいって誰が読んでも解釈が一致する。一読すれば外に出て運動したくなる。

ジョン・レイティだけではなく、脳科学に携わる者なら誰でも。2019年に「スマホ脳」で一躍有名になったアンデシュ・ハンセンも、やはり運動のメリットを強調する一人です。近年のエアロビクス人気は、彼らの影響によるところが大きいのは間違いない。

では、毛内先生の考えはどうでしょうか?本書「第5章 思い通りに身体を動かす」を読むと、

頭がいいというと「頭」だけに注意が行きがちですが、身体を動かすこと、ゼロから形あるものを創造することにも関係があります。ゼロコンマ何秒の世界で己の肉体の限界と向き合い競い合っているトップアスリートや、自己を表現するアーティストたちは間違いなく頭がいいと言えます。

「頭がいい」とはどういうことか ――脳科学から考える/毛内拡

どうやら、運動が頭を良くする(集中力を上げる、記憶力を上げる、発想力を豊かにする、等)というステロタイプな話ではなく、頭の良さは運動と深く関係している、という話をしているらしい。一見似ているが、全然違う。

1項割いて(”目は口以上にものを言う”)、目の働きについて詳しく言及されています。ここで、いかにプロアスリートの見る力が優れているかが力説されている。考えてみれば、たしかに一般に考えられているほど人は目を真剣には使っていない。もちろん、障害物を避けたり、文章を読んだり、会話中にアイコンタクトをとったりと、日常生活を送るためにある程度は、能力を使っている。しかし、本質的に見るという行為の核心を積極的に訓練し、運用しているわけではない。

チームスポーツのエリート選手はめまぐるしく変化する状況下で、死角に適確にパスを送るような芸当を成功させます。それができるからこそ、年何十億と稼いでいる。さらには視覚芸術の領域では、この能力が不可欠であることは言うまでもないですし、あんがい、音楽家なんかも、この能力に大きく依存しているのではと思います。彼ら・彼女らの演奏における模倣力、譜面などをパッと見たときの把握力は、素晴らしい。

身体性のエキスパートとされる人から見れば、盲人とまではいかなくても、ふつうの人は”半盲”と表現すべき存在に近いんじゃなかろうか?と思うのですよね。そのくらい、個々人によって、この能力には開きがある。

エクストリームなトピックをさんざんっぱら語っておいて「お前ら凡人は手遅れじゃー」と突き放して朗報でもなんでもなかったってオチではありません。ご安心を。普通の人でも身体性を高めることができると本書で述べられています。

自分の身体を思い通りに動かすためには、脳内マップを解像度高く描き、それを実測に合わせて書き換えるという繰り返しにかかっています。あとで考察しますが、この過程に才能やセンスが入る余地はないように思えます。いかに興味を持って、持続的に試行錯誤を繰り返すかに尽きるのではないでしょうか。

「頭がいい」とはどういうことか ――脳科学から考える/毛内拡

3節目『脳の中には「身体の地図」がある』も面白かった。

ヒトのホムンクルスが出てくる。これは身体の敏感な部位に、より多くの脳領域が割り当てられていることを図示したものですが、結果として、手や唇が異様に肥大化した人形となっています。

じつはこの身体の地図は書き換え可能なのです。実際の身体とは違い、脳の中にある身体はビヨヨーンとゴムのように伸び縮みします。リハビリテーションで、病気やケガなどによって失ってしまった・低下してしまった身体機能を回復(代替機能を獲得する)できることは、一般的に知られていますね。

もう一つポイントが4節『自分の「身体認知」を高める』

ようやく情動の話が出てきました。運動の開始と終了を決める脳のメカニズムが紹介されているのですが、中心的な働きをするのが綿条体という部位で、ここが働く過程でドーパミンが用いられます。ドーパミンは様々な情動に関わっているが、運動にも深く関わっています。一例として、綿条体がどのようにして眼球の動きを制御しているのかが述べられているのですが、上記の見る力の話とリンクして興味深かったです。

<続>


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