見出し画像

ロシアとウクライナの戦争終結の隠し球〜ウスマノフのフェンシング会長復帰の見方〜

アリシェル・ウスマノフがスポーツ界に復帰した。このたった一文がインテリジェンスに溢れる情報であることに気づくメディアはおそらくないだろう。彼は億万長者のオリガルヒであり、2008年から国際フェンシング連盟(FIE)の会長であったが、2022年のロシアが五輪休戦を破ってウクライナに侵攻した制裁を受けて、会長職から追放された。プーチンの親友であることから欧州政治の制裁を受けた形であった。

しかし、11月30日に開催された FIEの総会はウスマノフを会長に選んだのだ。彼は会場に現れ、勝利を収めた。まるでそれが当然であるかのように。そして、仕事を終え、勝利を手中に収めて彼は去った。復帰の舞台としてこの選挙は、ウスマノフの故郷であるウズベキスタンのタシュケントで行われた。

2008年に初当選し、無投票で再選を繰り返してきたが、ウクライナ紛争の勃発後、欧州連合の制裁を受けて一時的に退任を余儀なくされたウスマノフは、FIE年次総会が開かれる数週間前には選挙戦を制していた。

アイルランド、インド、中国、イスラエル、パレスチナ、フィリピン、ルーマニア、南アフリカ、ギリシャ、アイスランド、ジャマイカ、コスタリカなど、世界各地の103の国・地域の国内競技連盟から書面による支持を取り付けていた。FIE加盟国のおよそ3分の2に当たる数だ。

ただ1人の対立候補はオリンピアンで58歳のスウェーデンフェンシング連盟元会長、オットー・ドラケンベルクだった。彼はスウェーデンとラトビアのわずか2つの連盟に推薦され立候補を決め果敢に戦を挑んだが、71歳のアリシェル・ウスマノフは120票を獲得。ドラケンベルクは26票にとどまった。

その後、スウェーデン人候補は声明で「ウスマノフ氏への支持が必ずしも全会一致ではないことを示せたことに満足している。北欧およびバルト諸国では意見が一致しており、これは重要だ」と説明した。

一方ウスマノフは、同日中にメディア宛ての声明を発表。
「国際フェンシングファミリーの信頼と支持に感謝している。それは、FIE会長選に立候補した私の決断が正しかったことを確信させてくれた。私の立候補を支持してくれた103の国・地域連盟の意見を無視するわけにはいかなかった。各連盟に感謝している。私はフェンシングの明るい未来と、すべての人にとっての力強い発展を確保したいと考えている。我々の愛するスポーツは、繁栄と大きな勝利の新しい段階に入ったと確信している。フェンシングがオリンピックの最も人気のあるスポーツの座を獲得するのは、今後数年で可能だと信じている」と。

しかしこの大勝利に私は疑問があった。14.4億ドル(約2100億円)の資産を持つロシアの大富豪が、スイスを含む複数の欧州諸国で入国禁止となっているのに、FIE会長職をどのように遂行するのだろうか。

だが、ロシア人会長はすでにその解決策の一端を示し、2年以上にわたり課されている制裁をできるだけ早く解除する意向を明らかにしている。

「ご存じの通り、私は依然として不当な制限を受けており、現在それに対して法的手続きを進めている。私は常にFIEの最善の利益を考えて行動してきた。また、FIEおよびその活動に対する法的根拠のない制限が延長されないよう、必要な措置を講じ続ける」と。

ところが4日のロイター伝、「会長としての職務を自ら停止した」と来た。

FIE事務総長でもあるギリシャ人のエマニュエル・カツィアダキスが2年以上の間、暫定的会長を務めてきたが、またその形に戻るのか。ウクライナのビドニー青年スポーツ相が「彼の復帰は人道とスポーツマンシップの価値、ロシアによって殺されているウクライナ人に対する侮辱だ」と批判したことにウスマノフは敏感に反応したのだ。

こうなると私から見るとスポーツ思考しているのはウスマノフでウクラナイは全て国家と政治、あるいは民族で思考しているように見えてくる。そうなるとウクライナの戦争の終わりが見えなくなる。

会長候補者申請書にウスマノフはフィランソロピスト(philanthropist)と書いた。彼はオリガルヒという呼称を拒んでいるのだ。フィランソロピスト即ち博愛主義者。まさに五輪運動推進者にはぴったりの名称ではないか?プーチンの友人である彼をスポーツ界はロシアの復帰の隠し球として使うべきだ。彼はロシア以上にスポーツを愛し、スポーツの仲間を愛しているからだ。

ウクライナのビドニー青年スポーツ相は果たしてウクライナ以上にスポーツを愛しているだろうか?

(敬称略)
 
2024年12月10日
 
明日香 羊
────────<・・
△▼△▼△
編集好奇
▲▽▲▽▲
FIE、そしてフェンシング界にとって、この億万長者の帰還は朗報である。2008年の北京大会後にローザンヌに入って以来、アリシャー・ウスマノフは、国際フェンシング連盟の財政と競技の発展に個人的に貢献してきた。

彼の大盤振る舞いはフェンシングだけに恩恵をもたらしたわけではない。2020年2月、ウスマノフはローザンヌのオリンピック博物館に素晴らしい寄贈をした。
1892年にピエール・ド・クーベルタンが書いた近代オリンピックの最初の計画を記した歴史的な原稿である。この億万長者は3ヶ月前にニューヨークのオークションでこの原稿を入手していた。価格は800万ユーロだった。本当に五輪とスポーツが大好きな男である。

「2024パリ大会 徹底、実践五輪批判」日刊ゲンダイ連載、全18話公開中です。
https://www.nikkan-gendai.com/articles/columns/4728/495

Forbes Japanで開会式について五輪アナリスト春日良一が分析。詩的スポーツ思考。
https://forbesjapan.com/articles/detail/72709

YouTube Channel「春日良一の哲学するスポーツ」は下記から
https://www.youtube.com/@user-jx6qo6zm9f
オリンピックやスポーツを考えるヒントにどうぞ!

『NOTE』でスポーツ思考
https://note.com/olympism
 
━━━━━━━
考?ご期待
━━━━━━━
次号はvol.520です。
 
スポーツ思考
https://genkina-atelier.com/sp/
 
┃------------------------------------------------------------
┃ 購読登録は
┃ https://genkina-atelier.com/sp/ から。
┃△△▲-------------------------------------------------------
┏━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ copyright(C)1998-2024,Genki na Atelier
┃ ┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
┃ ★本誌記事の無断転載転用等はできません。★


┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛

いいなと思ったら応援しよう!

春日良一
サポートいただければ幸いです。いただいたサポートはクリエーターとしての活動費にさせていただきます。