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【 読書感想文 】矢作 俊彦著『 ロング・グッバイ 』和製ハードボイルド
「ギムレットにはまだ早すぎる」で、おなじみの『 ロング・グッバイ 』
そのタイトルとおなじ名前の『 ロング・グッバイ 』
こちらは日本の作家さんが書かれたものだ。
さらにロングのつづりが違う。
日本人の英語の発音とカタカナの盲点をついたお茶目なタイトルだ。
どちらの小説も読んだ。
和製『 ロング・グッバイ 』のほうが、本家よりも、読了後の爽快感が心地よい。
すべての謎がとけ、曇り空から日光がさしこむような、すがすがしい気分になった。
人が亡くなっているのに、すがすがしいとは、けしからん、といわれそうではあるが、ひさしぶりに心地よい読了感にひたれた。
ひとつのたわいもない事件から、頼みごとが増え、こんこんと黒い水がふきだすように、死体と謎、銃弾、挙句の果てに産業廃棄物すらもあふれだす。
謎があふれだす段階で、すこし飽きてしまう読者もいらっしゃるかもしれない。
このあたり、本家『 ロング・グッバイ 』とよく似ている。
謎は、日本の神奈川で発生し、台湾、アメリカ、ベトナムと数々の国をまきこみ、過去の出来事といま進行している事件がかさなり、編みこまれながら膨らんでいく。
どうしても、謎解きまでに長い長い助走が必要になってくる。
そして、登場人物もなかなかな数になる。
日本人の名前だけでなく、ベトナムから台湾、アメリカ人の名前まで登場する名前のるつぼともいえる小説である。
記憶力に自信のないかたは、メモを片手に読まれることをおすすめする。
読了さえしてしまえば、登場人物の相関図が頭のなかに組みあがる小説の構成になっている。
頭の奥でカチッと音が聴こえるほどに、すべてのパーツがはまりこむ。
ベトナム戦争の末期の混乱、台湾の政変、沖縄の墓、日本のアメリカ基地の仕組みをたくみに配置した話の流れは、日本人の作家の枠をこえている。
作家の国際感覚は、大変にすぐれていると思わされた。
文体は、レイモンド・チャンドラーよりも、ヘミングウェイにちかいポキポキとした形容詞を削りに削った文体。
しつこいほどの女性の形容や、インド象が一匹まるまるはいるほどの大きさなど、レイモンド・チャンドラーのような形容はすくない。
レイモンド・チャンドラーに似ている部分は、物語のふくらみかた、そして、解決へむけ一気に収束していくストーリーの運び方。
よくよく読みこむと、本家とおなじように、おかしいだろ、と思う箇所がある。
ネタバレになるのでいえないが、人種を見間違うことがあるのかと思った。
そして、いきなり女性にモテすぎだろとも思った。けっして非モテのひがみじゃないんだからね!!
漫画でも小説でもアラをさがして、ねちっこく、そこを指摘するよりもだ
、話の奔流にとびこみ、主人公の視線により切りとられた世界に没頭したほうが、はるかに有益だと思う。
和製『 ロング・グッバイ 』にも象徴的にカクテルが登場する。
ただし、私のとぼしい知識を総動員したところ、本家『 ロング・グッバイ 』ほどに、重要な役目をはたしていないと思われた。
なにか、カクテルに意味があったのかもしれない。ライムでなく、グレープフルーツをつかうことに意味があったのかもしれない。
読まれて、何かお気づきになられたかたは教えてください。
本家の『 ロング・グッバイ 』は、半世紀もまえに書かれた小説であり、和製『 ロング・グッバイ 』も携帯が普及しだした時代が舞台になっている。
飲酒運転をしたり、すこしいまの時代にすぐわない文章もある。
飲酒運転のおかげで、物語がすすむのではあるが。
ふるきよき昭和のかおりが残る小説といえる。
この『 ロング・グッバイ 』は、三部作であり、完結編だった。
それゆえに、まえから登場していた人物も登場するが、そのあたりはあまり気にならない。
たくみに、どのような人物かをしっかりと説明している。
映画化してもおかしくなさそうな小説だと思った。
三部作の最終話であり、話が世界規模になるので日本の映画業界では扱いきれなかったのかなと想像した。
せまい日本の映画界では、あつかいきれない、それほどに話の触手は世界中にひろがっている。