『運命の境界』 第二章：解放者の影

第二章：解放者の影

数日後、エイデンは自らの疑念を払拭できず、ついに行動に出ることを決意した。未来の流れに異変が生じているという事実を無視することができなかったからだ。その異変を解き明かすためには、「解放者」と呼ばれる反政府集団の存在が鍵になると考えていた。

エイデンが街の裏路地に足を踏み入れると、古びたビルが目に入った。その建物は、政府の監視を逃れるために使われている「解放者」のアジトとして知られていた。かつて同僚であり恋人でもあったミア・カルドが、解放者の一員であると噂されていたが、エイデンは彼女に再会するため、何の予知もなくここに来たのだ。

暗い廊下を歩きながら、彼はかつての記憶に浸った。ミアは、自分のように視導者としての役割を担っていたが、ある日突然、視導者を辞めて姿を消した。それ以来、彼女の行方を知る者はいないとされていた。

「エイデン……」

不意に声がかけられた。暗闇の中から現れたのは、ミア・カルドだった。彼女は変わらない落ち着いた表情をしていたが、その瞳にはかつて見たことのない強い意志が宿っていた。

「ミア……お前が解放者のリーダーだったのか？」

エイデンは驚きと共に問いかけた。彼女が政府の支配に反対する「解放者」のリーダーとなっているとは思わなかった。

「そうよ、エイデン。あなたは今まで、政府が見せる未来を信じてきたけど、それがすべてじゃない」

彼女の言葉は、エイデンに衝撃を与えた。彼は視導者として、未来を予知し、安定をもたらす役割を果たしてきたが、その「安定」が実は「操作」されたものである可能性を彼女が示唆していたからだ。

「操作されている？ 未来が……そんなことが？」

「ええ。ラザール博士たちが、あなたに見せている未来は、彼らの望む形で作り出されたもの。自由な未来なんてない。私たちは、彼らの手のひらで踊らされているだけ」

エイデンは混乱と不安で胸が締め付けられる思いだった。もしミアの言うことが本当ならば、彼が今まで信じてきたものは何だったのか。自分の未来さえも、操られているというのか？

「それでも……どうすればいい？ 自分が見てきた未来が偽りだと言われても、どうすれば本当の未来にたどり着ける？」

ミアは微笑みながら、静かに彼の肩に手を置いた。

「エイデン、私たち解放者は、未来を選ぶ力を取り戻そうとしているの。あなたも、その選択肢を持つことができる」

彼女の言葉は、エイデンに新たな決意を抱かせた。未来は固定されたものではなく、自らの選択で形作ることができるかもしれない。そのためには、自分の力を再定義し、「運命の境界」を越えなければならない。