「ヴァーチャル・リアリティの深淵」

序章 - ゲームの裏側

シンはスクリーンに視線を向けながら、VRゴーグルを手に取った。「ネオ・エターニティー」、彼が今一番夢中になっているVRゲームだ。リアルと見紛うようなグラフィック、絶妙なバトルシステム、そして緊張感あるマルチプレイ。このゲームは、ただの娯楽の枠を超えて、人々の日常に深く入り込み始めていた。

シンの友人でありライバルのユイは、先にゴーグルを装着しながら笑顔を浮かべる。「またやる気満々だね、シン。今日こそ負けないよ！」彼女は、ゲーム内でも一流のゲーマーとして知られており、二人で「ネオ・エターニティー」に挑むのは日課になっていた。

二人がゲーム内のロビーで再会すると、ユイが小声でささやくように言った。「ねぇ、シン。聞いたことある？ ‘ブラックドア’ のこと…」

「ブラックドア？」シンは不思議そうに眉をひそめる。

「このゲームのどこかに隠されたゲートのこと。そこに入ると、現実世界とリンクする…って噂だよ。入ったらもう戻ってこれないかもって、結構怖い話みたい」

シンは興味を引かれつつも苦笑いを浮かべた。「都市伝説みたいなもんだろ？こんなに精密に作られたゲームで、そんな穴があるわけないさ」

しかし、その時、シンの背後に微かに奇妙な音がした。振り返ると、そこには淡い光に包まれた扉が浮かび上がっていた。それは、今まで見たこともない形状をしていて、まるで誘い込むようにシンを見つめているかのようだった。

「嘘だろ…これが本当に噂の ‘ブラックドア’ なのか？」

ユイもその扉を見つめ、驚愕の表情を浮かべていた。「…やばいね、どうする？これ、入ったら本当に何かが変わっちゃうかも」

心のどこかで躊躇する気持ちがあったが、シンの好奇心はそれを上回った。深呼吸をし、ユイの方を見つめる。「俺が行く。もし何かあったら、助けを呼んでくれ」

そう言うと、シンは勇気を振り絞り、ゆっくりとその扉に手を伸ばした。冷たい感触が指先に伝わり、扉を押し開けると、彼の視界は一瞬で暗闇に包まれた。そして、次の瞬間には、全く違う世界が彼を迎えていた。

それが、彼の運命を変える「深淵」への最初の一歩だった。