短編小説ショートショート 『ピンクと青のコントラスト』 #シロクマ文芸部
秋桜おどる文化祭の当日。
早朝からタクヤは購買で買ったジャムパンをコーヒー牛乳で流し込みながら、急ぎ足で教室へと向かった。
クラスの展示物の準備が当日ギリギリまで押し迫っている。昨晩、バスの最終時刻に慌てるように校舎を飛び出したおかげで、スマホも机の上に置いたままだった。
その一晩の寂しさを吸いこみ続けた、ひんやりとしたスマホの冷たさを手に感じ、残りの充電を確認した後「問題ない」と急いで作業に取りかかった。
タクヤは一生懸命に飾りつけをしている最中、ふとした拍子に折り鶴の束を落としてしまった。タクヤは焦りながら駆け寄り、一つの鶴が変わった形になっているのに気付いた。
その後、文化祭が始まり生徒たちは楽しみながら展示物を見て回っていた。タクヤはクラスの出し物で、折り鶴アートの展示を担当していた。
彼は焦りながらも、そのまま変わった形の鶴を見せることに決めた。観客は最初驚き、次第にその独創性に魅了されていった。
展示が終わった後、タクヤは教室で一人座っていた。すると、タクヤの元にひとりの女の子がやってきた。
名前はナオミで、彼女もまた折り鶴のファンだった。彼女はタクヤの鶴が変わっていたことに感動し、その美しさに惹かれたと話した。
その純粋な眼差しにタクヤは思わず目をそらした。不自然な動作で、教室の窓から中庭を覗き込むと、二人きりの教室に不思議な空間が生まれた。
こんなに教室って広かったっけ?
その不思議な空間にナオミも気が付くと、タクヤの隣に移動して窓からちょこんと顔を出した。
お互い何を語る訳でもなく、ただぼんやりと、ひつじ雲を眺めていた。それは、ひとつの変わった形の折り鶴から始まった、特別な文化祭の思い出だった。
ーーー終わり