西海Freak Story②「大島大橋」
200メートル程度の短いトンネルを抜けると、心地よい南の風(はえのかぜ)が出迎えてくれる。
通勤中の佐々木は、物憂げな気持ちを紛らわす為に車の窓を少しだけ開けた。そして、その風を肌で感じながら車を走らせた。
中途採用として、この島にある造船所で働く。今日がその初日である。
緩やかなカーブを過ぎて直線に差し掛かると、立派な白い橋梁が姿を現した。二体の巨人がつり橋を引っ張り上げているようなこの迫力。『斜張橋』という構造をしており、開通したのは24年前の平成11年11月11日午前11時11分である。
「この橋って、俺とタメなんだぁ」
ハンドルにもたれながら運転する佐々木は、その白塗りの巨人の股下を見上げながら潜り抜けた。
(ようこそ大島へ)
そんな声が聞こえたような気がした。
次の瞬間。車内をかき乱すように、磯の香りが交じった突風が舞い込んだ。突然の出来事に慌てて車の窓を閉めた。
・・・ビックリしたなぁ。
緊張。不安。眠気。全てをさらってくれた南の風。それと同時に、強烈ではあったが清々しい風を採り入れてくれた。
春の嵐
俺にだって新卒の時が、確かにあった。