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片島麦子「未知生さん」感想~たおやかな未知生さんに会ってと、布教したい一冊~

本人は不在で、周りの語り手によって不在の本人像が明らかになっていく物語で思い出すのは、「桐島部活やめるってよ」「田村はまだか」かな...。
あっ!「横道世之介」も途中からそうだよね。

不在の人物を語ることによって、語り手の人物像も鮮明に浮かびあがり不在物語を面白くする。

考えると不在物語って好きな作品が多いな。
たぶん人間ドラマが濃くっていいんだよね。

今回読んだ本書も、好みの不在物語で面白かったー!!

私の中で、今のところベスト9候補予定でーす。
多くの人に読んでほしい一冊だったYO。

🐈🐈

ホームから落ちそうになった息子を庇って、41歳の若さで亡くなってしまった未知生さんの葬儀にやってきた高校の同級生が最初の語り手になってはじまる七編からなる連作短編集。

生前の未知生さんに関わった者たち。

高校の同級生、元カノ、元同僚、元上司、電車で出会う高校生、奥さん、息子。
七人による語り手たちが、在りし日の想い出を振り返りながら、自分自身の〈今〉を見つめ直す。

未知生さんは、まるで、朝ドラ「あまちゃん」のアキのように、向上心も協調性も存在感も個性も華もないパッとしない人だけど、人気者になったりしません。
いい人だけど、よくわからない人。
人より遅れたテンポで生きてる人。

だから未知生は、ヒーローなんか似合わない。
うっかり死ぬがふさわしいんだ、とつぶやく元同級生。

だってあの日、高校の卒業式の日に未知生はうっかり死にかけたのだから...。

あの日を回想することで、未知生にだけ語った夢を思い出し本当にやりたいことを見つめ直す元同級生。

語り手たちは、未知生さんと自分との関りを回想することで、自分を見つめ直すだけのいい話で終わらない。

それぞれの語り手による未知生さんとのエピソード、あんなことやこんなことが、未知生が抱えていたものとリンクする仕掛け。

たとえば、卒業式日の肝試しビルで死にかけた出来事だったり、元カノに素顔より化粧をしているほうがきれいだね、と言って怒らせたり、上司の似顔絵をこっそり描いたり、電車のなかで毎日同じルーティンをはじめてのように繰り返したり...。

これらの何気ない言動の意味がわかった時、未知生さーーん!と叫びたくなるはず∑(๑ºдº๑)!!

🐈🐈

みんな違う生きかたなんだし、事情が違ってあたり前の話はよくある。

よくある話なのに、本書が新鮮に感じたのは未知生さんという人物をたおやかに描いているからではないかな...。

そう、やさしい物語なんだけど、たおやかなんだなぁ~。
やわらかな心根でいて信念は持ち続けている。
たおやかな生き方をしてきた未知生さん。

・ぼくに手を伸ばしてきた人とだけ、ちゃんと手をつないでいこうと決めたんです。(本文より)

未知生さん、あなたに会えてほんとうによかった♡


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