吉川トリコ「あわのまにまに」感想~全員が片思い!?~
☆全員が片思いといえばハチクロ
恋愛少女漫画の王道といえば胸キュン♡「片思い」
胸キュン♡片思いを変えたのはーーー!
『全員が片思い』というキャッチフレーズで大流行した羽海野チカ「ハチミツとクローバー」だと思う。
恋愛に不器用な大学生達の報われない恋模様だけではなく、自分の才能や生き方について迷う姿に自分を重ねた人も多かったのではないだろう。
読んだ時はすでに大人で、こっぱずかしい少女漫画を手に取るのに最初は躊躇したが、読むと人間ドラマをテーマとした群像劇が良くて大好きな一冊となった。
「ハチミツとクローバー」は同世代の若者たちで紡ぐ『全員が片思い』だったが、本書はある家族の50年にわたっての、ほぼ『全員が片思い』物語だった!!いや片思いにならざるを得ない物語だろうか。
☆簡単あらすじ
☆家族の秘密、秘密、秘密とは…。
小学三年生の益子木綿は、父と母と23歳離れた韓国からやってきた兄のシオンと暮らしていたが、目下のところシオンは家出中。
そのシオンは18歳の時に父の養子になったのだった。
2029年にごみ屋敷に暮らす祖母が亡くなり、疎遠だった母の妹の操家族たちとごみ屋敷の片づけをすることになる。
亡くなった祖母と母は、どうやら昔から仲が悪かったらしい。
母と叔母の距離感とか、母と父は別室で寝ており、たまに兄のシオンが父の寝室から出てきたり...。
1章は、益子木綿ちゃん目線で語られ、この家族...なにかあるよねー!
家族の秘密、秘密、秘密ーー!散りばめられており先が知りたくなるのだ。
2029年から1979年まで10年刻みでさかのぼりながら明かされる、ある家族たちをとりまく真実を読み手は知っていく。
2章目から、物語の中心にいるのは木綿の母のいのりだとわかる。
だが、いのりは語り部にならない。
いのりに関係する人物が語り部となって物語は動く。
たとえば、いのりの妹、操は姉をこう例える。
いのりの破天荒さに、扱いに困る子だね...苦笑してしまうが、時代を遡ると、いのりの切なさがわかる、わかるよー。
ある者は、どんな形でもいいから、いのりとつながっていたいと強く願う。ある者は、おねえちゃんと一緒にいたいからと子どもを産む。
☆ひとつ真実を知ると読み返し、ひとつ真実を知ると読み返す
読み返す。
好きな人とずっと一緒にいるために登場人物たちの取る行動が、時代を遡って事実を知ると、前の章を、その前の章を...と、読み返すとせつないし残酷だ。
『全員が片思い』
恋愛、結婚、出産、ジェンダー
その時代のまにまに。
※まにまに→思うとおり、その行動に任せるさま
まにまに翻弄されながらも、時に間違い、時に愛を慈しみ、時に憎しみ、時に涙する。
構成が巧みで、ミステリー小説ではないのに、どうなるの?えっ?そういうことーー!びっくりしたり切なくなったり。
因果応報って言葉が頭に浮かんだり。
いろんな感情が溢れてくる一冊だった。