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朝比奈 秋「植物少女」感想~新しい「母と娘」物語の誕生~

古今東西、「母と娘」の物語。

先日紹介した「母という呪縛 娘という牢獄」は、共依存関係により最悪な末路になってしまった母と娘の物語だったが、娘を愛せない母目線で描いたものや、娘を別人格と認めることができず毒親になってしまうものや、母に認められたいと渇望する娘...などなどある中で、新しい「母と娘」の物語を読む。

植物状態の母と、生まれたときから植物状態の母しか知らない娘の物語。

<簡単あらすじ>
美桜が生まれた時からずっと母は植物状態でベッドに寝たきりだった。小学生の頃も大人になっても母に会いに病室へ行く。動いている母の姿は想像ができなかった。美桜の成長を通して、親子の関係性も変化していき──現役医師でもある著者が唯一無二の母と娘のあり方を描く。

はじめて読む作家さん。
お名前から女性だと思い込んでましたが男性の作家さんだと知りびっくり。
また経歴にもびっくり...というか昨今では珍しくなくなってきましたがお医者さんです。
30代半ばまで小説とは無縁の勤務医だったそうです。
どうしても書きたい衝動に駆られ小説家へ。

🥀🥀

出産時に脳内出血を起こし植物状態になった母。
だから、わたしにとって、母は会いに行く人物だった。

首は捻じれ、食べ物を与えると咀嚼するも、声を発することなく息をしているだけ。
母の病室にいる人たちも同じ。
ただただ呼吸を繰り返す静謐な空間に暮らす人たち。

乳を吸い、母の膝枕で眠った記憶がある幼少期。
どんな話も遮らずに最後まで聞いてくれた母。

でも成長すると、現実の世界と静謐な呼吸を繰り返すだけの世界が離れていくことに戸惑う。
イラ立ちから、母の耳にピアスを開け髪を染め、マカロンを口に押し込むー。
やりたい放題なんだけど、甘えているんだよね。

反抗期の娘の姿があそこにあり、反抗期の娘を受け止める母の姿がそこに見えた。わたしには...。

何も考えられない、何も思うこともできない母だと思っていたが、自分の呼吸があがってぜぇぜぇと乱れたときに気づく娘。

「もしかしたら、こんな生の連続に生きているのではないか。息だけをして生きる、この確かな実感の連続に居続けているなら。」(本文より)

母はかわいそうじゃない、空っぽじゃない。

目から鱗がぽろぽろーーー!
「生」とはなんぞやの描写に震えた。

だって!生きることは、喜怒哀楽を慈しみながら暮らすことなんじゃないかと漠然と考えていたが、次への呼吸をつなぐことへの一歩なんだと、ハッとさせられた。


傍から見ると歪な母と娘の関係のようだが、母と娘の数だけ歪さはあるんだよな~

新しい「母と娘」物語の誕生に、静かに胸がいっぱいになり、静かな余韻の波がなかなか引かない一冊となりました。


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