高野和明「踏切の幽霊」感想~ホラーの怖さもあるが、軸となるのは骨太な社会派作品~
1994年。
♬きしむベットの上で優しさを持ちよる、心のまま僕はゆくのさ誰も知ることのない明日へ♬と、尾崎豊とミスチルは歌う。
明日のことは誰にもわからない。
でも金日成が亡くなり、大江健三郎がノーベル文学賞を受賞する。
1994年。
携帯電話よりも、まだまだポケベルが主流で、固定電話が殆どの家庭で置いてあった。
Windows95発売の前年だったので、もちろんネットなんてあるわけがない。
そうそう!固定電話は、いたずら電話も多かった。
とくに怖かったのは深夜の無言電話。
1994年よりも、ずっーと後だけど、深夜の無言電話が怖すぎて固定電話を解約したわ(←スマホの時代になったしね)
深夜の一時三分に、若い女の苦悶の声が聞こえてきたら、あなたらどうしますかギャァ━━(゚Д゚il!)━━ァァ!!!
『ジェノサイド』から11年ぶりの新作&直木賞候補ってことで、楽しみでしかない。
怖いの苦手だけど、ホラーだという情報は得ていたので心して挑んだが、ホラーというよりミステリーで、喪失からの再生の物語だった。
妻の死後、家庭を放り出すほど忙しかった仕事に嫌気が差して新聞社から転職しフリー記者になった松田。
今は心霊ネタの記事を書くよう発注される。
そこで踏切に出る幽霊ネタを取材していると、その踏切近くで身元不明の女性が殺された事件が起きていたようだ。
幽霊と身元不明女性は関係あるのか?
身元不明女性は誰なのかを調べる松田に、深夜の一時三分に、若い女の苦悶の声がーー!: ;((°ө°));:ヒェ…
夜に、この行を読んじゃったYO!
背後に誰かいるような恐怖に怯えつつ、一時三分になる前に寝ようと思えば思うほど目が冴えて眠れなかった( ;ㅿ; )
ホラーの怖さもあるが、軸となるのは骨太な社会派作品だ。
1994年という硬質さが残る時代設定が、松田の喪失さも身元不明女性の真実も活かされいて良き。
安っぽくなりそうなホラー設定を、骨太な硬質な作品になっているのは松田という男の誠実さもある。
ネットもスマホもない、今より水商売(キャバクラ)は下に見られていた時代。
女たちの悔しさ、悲しさにもグッとくるもがあった。
帯に、"読む者に慄くような感動をもたらす幽霊小説"とあるのだが、幽霊小説なのに感動って??と思われるかもしれぬが読めば納得な一冊だった。