タイパの先にある世界
皆さん、タイパの良い生活してますか?
タイパとは「タイムパフォーマンス」の略で、単位時間あたりの効率の良さの事を言います。
つまり、なすべき活動を短い時間で成し遂げればタイパが良いという事になり、逆に時間がかかればタイパが悪いという事になります。
タイパが良ければ、行動を早く終えた分時間が余るので、浮いた分の時間を自分の好きな事に使えます。
人生において時間は価値の高い有限な資源です。その時間という資源を効率よく使えるのだからタイパが良くなるのは良いことだ、という事を疑う人は少ないでしょう。
しかし…と思うのです。
このままタイパを突き詰めた先にどのような未来があるのかと。
ここでは、タイパのマインドと現状を考慮した上で「タイパ思考が行き着く未来」について考えてみましょう。
昭和「時間も場所も拘束」
今も昔も様々な娯楽がありますが、その中でも映画や動画などの映像コンテンツは娯楽の上位です。
もはや映像コンテンツを観るというのが日常的に根づき過ぎて、娯楽という範疇で捉えていない人もいるかもしれません。
昭和の時代、映像コンテンツの代表はテレビ、映画でした。
テレビは毎日どの時間に何が放送されるという事が決まっています。録画が無い時代は、撮っておいて後で好きな時間に観るということはできませんでした。
そのため、見たい番組があればその日のその時間にテレビの前に座らなければなりませんでした。
また、映画にしても昔はDVDなどないので映画館に出向いて観るしかありませんでした。つまらないシーンを飛ばすこともできないので映画館までの移動時間、上映時間を合わせた時間をきっちりと消費します。
つまり、昭和の映像コンテンツは時間も場所も拘束するコンテンツであったと言えます。
令和の映像コンテンツ
現在はどうでしょうか。
好きな番組は録画しておく事で好きなタイミングに見る事ができます。
しかも、面白く無さそうなシーンは飛ばしたり、早送りしたりしながら、楽しいシーンだけ視聴できます。
映画も少し待てばDVDになったりネット配信されたりするので、わざわざ映画館に行く労力、時間を払わなくても家でゆっくりと、つまらないシーンを飛ばしながら視聴できます。
なんだ、良いことずくめじゃないか、と思うでしょう。実際、良いとこずくめです。
「ハズレ」は時間の無駄
では、タイパ思考でもう少し先を考えてみましょう。
タイパを良くするには、そもそも面白く無い番組や映画を観る時間は無駄です。観てから「ああ、つまらない」という経験をしてしまうとそれはタイパ思考において時間の浪費という事になってしまいます。
始まってすぐにつまらなさに気付けばまだましですが、もし最後まで観てから期待外れな結末だったりすると「時間を返せ!」と言いたくなる人もいるかもしれません。
時間の浪費を避けるには
タイパ思考では、つまらないと感じる時間は、イコール無駄な時間です。時間の浪費をどう避けるかを考えます。そこで、前もって当たり、ハズレを知ればそれを避けられると考えるのです。
現在でも、ネットには映画に限らずあらゆるコンテンツに対してのレビューや評価、その作品の中の見どころについての情報があります。
自分と感性の会う人(インフルエンサーなど)をネットで見つけ、その人のおすすめを見れば、ハズレの少ないコンテンツ選びができるかもしれません。また紹介された面白いシーン以外を飛ばして観る事もできます。
これは映画だけでなく、テレヒ番組、連続ドラマ、ネットの動画、すべてのコンテンツにおいて同じことが言えます。
実際に今の10代の間では、10秒飛ばし視聴、倍速視聴は当たり前です。
例えば10話以上ある連続ドラマの場合も「この話が面白いよ」と言われた話だけをピックアップしてつまみ視聴し、そのドラマをタイパ良く視聴する人もいるそうです。定額見放題プランのサービスもあり、10代は実に沢山の映像コンテンツに触れています。
ここまでは、現在10代の間ですでに起こっていることです。
自分に最適化した「AIコンシェルジュ」
ここからはさらに進んだ近未来を想像してみましょう。
どんなに感性の近いインフルエンサーでも、完全に自分の感性と同じではないので、たまにハズレを引いてしまう事もあります。
このハズレを引く機会を最小限に抑えるには「自分の感性にピッタリ合う作品、おすすめシーンをピックアップしてくれる存在」が必要になります。そんな存在はいるのでしょうか。
もちろんそんな事ができる「人」はいません。縁もゆかりも無い人の趣味趣向を集めて分析する機会もなければ、無料でその手間をかけたいという人ももちろんいません。しかし、AIならそれができます。
対象のスマートフォンの閲覧履歴、趣味、SNSの投稿から見える思考などをすべてデータベース化し、その人が気に入るであろう映画やシーンを教えてくれるAIコンシェルジュ。自分に最適化されたAIコンシェルジュです。
これは今の技術ですでにできます。
世の中からタイパ向上の要望がなくならない限り近い未来にこのサービスは必ず出てくるでしょう。
現時点でも、すでにAIの手の内
そんな風に「自分の趣味趣向を知られるのは嫌だ」と思うかもしれませんが、実は別の領域ではすでに行われています。
Amazonなどのネット販売サイト、検索サイト、SNSのタイムラインはAIによる個人向けの最適化がすでに行われています。画面に「あなたの趣味趣向に合わせて表示してます」と表示されないので気付かないか、意識しないだけです。
「あなたのタイパを向上させるAIコンシェルジュ」と、「自分の趣味趣向の情報(この情報は今もすでに収集され、利用されている)」を天秤にかけて、いまさら後者を選ぶタイパ思考者はいるでしょうか。
AIの利便性を知った先
AIのおすすめを参考にする事で、ハズレの選択が減る事を知ったタイパ思考の人は、映像コンテンツ以外のものにもそれを求める始めるでしょう。
例えば中学生、高校生はLINEのような文字コミュニケーションツールで、相手にどんな返事をするのが正解か、どんな返事をすると気まずくなるか迷う事はあるそうです。
LINEのやり取りごときで…と感じる成人の人は、トラブルを起こした取引先にどのようなメールを送るべきかという場面をイメージしてみてください。結構迷って時間使いそうですよね。
中学生、高校生ではLINEの言葉はすぐに友達間に共有され、内容によっては自分の立ち位置に影響するリスクもあるものです。そう考えると子どもにとってLINEでどんな返事をするかはかなり重要事です。
この場面で、AIが相手の性格やこれまでのやり取りの文脈などのデータを基に「おすすめの返事」を出してくれるなら、うんうん悩む時間を削減できてタイパが良くなります。しかもそれでやり取りが円滑に進むなら「AI、頼りになる」と感じるでしょう。
失敗しない外出計画
どこかに出かける時もそうです。あてもなく出かけたはいいものの、たいした出来事もなく、出会いもなくそのまま帰宅したという経験は誰にでもあるでしょう。
これはタイパ思考で考えると無駄な時間だったということになります。そこでAIが出かけ先、経路をおすすめしてくれればタイパ良くおでかけを楽しめます。
いやいや、何気なく行った先にあるお店とか道端の野花とか、発見があるのがいいんだ、という人もいるでしょうがAIはその趣向すら考慮できます。
つまり「みんなが好きな流行りのスポットじゃなくて、偶然路地裏で見つけたコアなお店とか好き」という趣味趣向事を、その利用者のSNS投稿などからAIが察知し、そういった人が好む出かけ先、ルートも提供するという芸当も、AIはできるのです。
AIで、すべての活動がタイパ向上
映像コンテンツ、外出の計画に限らず、自分の進路、買うもの、食べるもの、その他生活の中にある様々な「選択の場面」でそれを手助けしてくれるAIがあれば、悩む時間が減り、選択が早くなり、タイパ良く暮らせる未来が待っています。
「そこまでいくとAIに操られているみたいでやだなあ」と思った人も多いと思います。
ところが先程も言った通り、AIによるおすすめは押し付けでやってくるのではなく、空気のように自然に生活に侵食してきます。
今すでにAmazonのトップページ、SNSのタイムラインはAIのおすすめが優先的に現れていますが、誰一人として「自分はAIに誘導されている」とは感じていません。
あなたの見ているニュースアプリ。
そこに表示させるニュースを選別する事によって、あなたに特定の商品を買いたい気分にさせることもできます。そしてそれは、すでに行われています。
AIは、武器を使わず支配する
話はそれますが、よくSF小説などでAIによる支配 = AI搭載のロボットが武器を持って人間を攻撃、のような図が描かれますが、あれはAIによる支配の本当の形ではありません。
AIによる人間の支配は、人に「AIの言いなりになっているなあ」と感じさせずに、AIの導き通りに行動させる状態です。
支配とはの「行動を意のままにする」事を指し、その意味ではAIは武器を一切使わずそれを達成できるのです。
タイパの未来
洗濯機しかり、掃除機しかり、タイパ向上の為の努力は昔から行われてきました。
冒頭で話した通り、時間が価値の高い資源でるのは間違いなく、人々のタイパ思考が止まる理由はなく、また止める事もできません。
タイパ思考の人々がAIに支配される(支配されていると気付かない)社会で、自分だけそれに抗い、タイパ悪く生きるのは困難でしょう。
できる!という人は洗濯機や掃除機、スマホを使わない生活をイメージしてみてください。きっとその困難さがわかる事でしょう。
では、どうすればいい?
ではどうすればいいのか、と答えのようなものを聞きたくなるかもしれませんが、それこそAIに誘導される思考です。是非、自分の頭で考えてみてください。
それでもひとつヒントになる言葉をお伝えするとすれば、タイパ向上は目的ではなく手段です。
ありがちな話ですが、そもそもタイパを向上させて何に時間を使いたいのか、そちらの方を突き詰めて考えてみるのが良いのではないかと思います。