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あるノルウェーの大工の日記 / オーレ・トシュテンセン著

他の人の生活や生き方、考えたこと・感じたことが読み取れるエッセイや日記を読むのが好きだ。
自分の暮らしの中で体験できる範囲は、だんだん決まってきていて、もっと違う何かを覗き見たいという願望だろうか。もしくは、異なる環境の中でも、自分との共通点を見つけて、安心したいのかもしれない。
目的ははっきりしていないけれど、他人の生き方を知るのはやはり楽しく、刺激になる。

この本は、ノルウェーで働く大工オーレ・トシュテンセンが書いた日記だ。大工という職業は想像できるけれど、実際にどんな日々を過ごしているのか、何を考え、どこにこだわりや喜びを感じているのか、意外と何も浮かばない。

私は、請負業者にして起業家、そしてビジネスマンともいえる。しかし私自身は自分のことを大工だと思っている。小さな工務店を経営している大工だ。
建設業界では、私たちのような小規模事業者は、大企業が食指を動かさないような小さな案件を請け負う。

『あるノルウェーの大工の日記』 オーレ・トシュテンセン著 / P.5

今請け負っているキェルソ地域の仕事もそろそろ終盤だ。あと三週間もすれば、私は無職になる。私はいつもこんな風に、現場に出て作業をしながら次の依頼を探している。

同 / P.9

屋根裏の改築にまつわるすべてが好きなのだ。素材や工法などの質の違いはすぐに結果として表れ、長期的な影響を及ぼす。

同 / P.17

誰かと作業をしていて相手のことが一番よく分かるのは、一緒に重荷を運ぶ瞬間だ。

同 / P.126

私は自分を、職人としての腕で他人から評価されたい。この仕事そのものが、私の人格であるかのように。そうすれば将来のいつか、私の職人としての技量に対する評価が、私という人間に対する評価になるかもしれない。

同 / P.34

私は web のエンジニアとデザイナーの中間のような仕事をしているが、最近、大工にシンパシーを感じることが多い。
大工さんのエッセイや日記は、あまり目にする機会がない気がする。その意味でも、オーレ・トシュテンセンの日記は興味深かった。

日本では少し事情が違うかもしれないが、ノルウェーではリフォームが盛んだ。リフォーム中、工事中の家のキッチンを借りて昼ごはんを食べることもあるらしい。
見積や伝票の整理、材料の買い付け、搬入、そして施工作業など異なる種類の仕事をこなしながら、進んでいく大工さんの日々。

現場に顔を出さない設計士に対し、クライアントと直接やり取りしながら、材料費やより良い工法について考える大工の姿に、惹かれるものがあった。

どのようなタイプの施主であれ、施主と私の間に誤解があれば、不満を残してしまう。そうならないように配慮するのは私の責任だ。

同 / P.23

切妻屋根の仕上げは完了したが、それは次の作業の始まりでもある。仕事の成果を見るのは良い気分だが、それと同時に、もっと違うやり方があったのではないかと吟味する。それは自分自身との小さな打ち合わせのようなものだ。

同 / P.147

金曜日は奇妙な曜日だ。ほとんどの人は週末を心待ちにしていて、金曜日は早く終わって欲しいと思うだろう。だが私は金曜日の午後になると、いつもに増して仕事に対する意欲が湧く。やるべき仕事は完成し、一才の義務から解放されて、今やっている仕事はボーナスのように感じるのだ。いくらでも働けるような気分になり、ダンに話しかけて長引かせようとするが、ダンは乗ってこない

同 / P.170

根底には仕事への愛やこだわりがあって、素敵だな、自分もそうありたいなと再確認できる内容だった。


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