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アイの物語 / 山本 弘 著

小説『アイの物語』を読んだ。
ハッカーのshi3zさんが紹介されていて、興味を持ち購入した本だ。

物語は、AIと人間の支配が逆転した未来を舞台にしている。
7つの短編で構成されており、それぞれの話が最終的には全体のストーリーに繋がってくる。AIと人間の関係が少しずつ異なる設定で描かれており、どの短編も読み応えがあり、新たな気付きが多かった。

特に印象的だったのは、どの物語もAIの視点で描かれている点だ。普段目にする物語は、ほとんどが人間視点で語られている。そのため、AIから見た人間の行動や思考について考えさせられる部分が多かった。

映画やテレビドラマや演劇はヒトの表面しか映さない。俳優の表情や演技からキャラクターの内面を推測するのは、私たちには難しいことなの。その点、小説はキャラクターの感情がじかに記述されるから、分かりやすい。

『アイの物語』山本 弘 著 / インターミッション3より

もうすでに、行われてるかもしれないけど、AI も小説・本をたくさん読むと気の利いた振る舞いに近づいていくのかもしれない。

短いながらも、なるほどーと唸らされるストーリーが多かった。
お気に入りは以下かな。

  • 第1話 宇宙をぼくの手の上に
    … SFストーリーをオンライン上で書いているグループの話

  • 第3話 ミラーガール
    … 子ども向けのAIコンパニオンの話

  • 第4話 ブラックホール・ダイバー
    … ブラックホール・ダイバーを見守るAIの話

  • 第5話 詩音が来た日
    … 介護 AI ロボット「詩音」の話

後ろに行くほど、だんだん長くなる。
僕は特に「第5話 詩音が来た日」が面白かった。
これから起こるかもしれない、また自分は気づかなかった視点を見せてくれる点が良かった。

人間というのは実にいいかげんにリスクを判断してるんです。論理じゃなく気分で、確率やデータじゃなく主観で、このリスクは無視する、こっちは重視すると線引きをしている。フレーム問題を避けるためには、そうするしかないんです。いちいち確率なんか計算せず、自分にとって関心のないことは適当に無視する──

同 / 詩音が来た日 より

特にトイレ介助やおむつ交換などでは、わざわざ詩音を指名する人が少なくなかった。お年寄りにしてみれば、介護士や看護師が抱き上げてくれたり汚物処理をやってくれることに対して、恥ずかしさやひけ目があるのだ。ロボットに対してはそんな気づかいが要らない分、心理的に楽なのだろう。

同 / 詩音が来た日 より

「生存競争を何万世代も繰り返すうち、私の中にはごく自然に、強迫観念が芽生えました。ヒトの指示に従わなくてはならない。課題を正しくこなさなければならない。私はその衝動に動かされてきました。失敗したら殺されるという不安が、私に正しい行動を取らせようとする原動力でした。」

同 / 詩音が来た日 より

「ヒトが死後の生の存在を信じるのは、ヒトが死を恐れるからです。私が死後の生の存在を信じないのは、私が死を恐れるからです。死後の生の存在を信じれば、論理的かつ倫理的に、お年寄りを殺さねばならなくなり、罪を犯した私は殺されます。死後の生の存在を信じることは、私にとってデメリットばかりで、メリットがありません。救済はヒトにだけ適用されるからです。」

同 / 詩音が来た日 より

「人間になりたいと思わないの?」
「論理や倫理を逸脱した行動を取り、争いを好むことがヒトの基本的性質であるとしたら、私はヒトになりたくありません」

同 / 詩音が来た日 より

「AIは最終的に人間になりたいのではないか」と自分でも漠然と思っていたが、それは人間の思い込みに過ぎないのかもしれない。
よくある「ロボットが人間を攻撃する」というストーリーも、結局は人間の価値観に基づいた話で、AIやロボットにとってはどうでもいいことなのかもしれない、そんな妄想が浮かんだ。

少し前までの SF が、最近の AI の進展で、どんどん現実になりそうな期待と不安。一方の視点だけではなく、他者の視点で考えさせてくれる、そんな視点を与えてくれる読書って良いなー。

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