見出し画像

あくまのゴート「マンハッタン」の『ライナーノーツのようなもの』の補足をしようとした筆折り

先日、VTuberで音楽家のあくまのゴートさんが「マンハッタン」という楽曲をYouTubeに投稿した。

この楽曲は音楽VTuber11組による"武器"をテーマにしたコンピレーションアルバム「#ADVENTUNE3 」に原子爆弾をテーマにした曲として収録されたものだ。

そのため、楽曲中には原子爆弾に関するピースが散りばめられており、そのタイトルも「マンハッタン」。つまり、第二次世界大戦中に米国、英国、カナダが原子爆弾開発・製造のために計画した「マンハッタン計画」に沿ったものである。

日本は広島、長崎の2か所で原爆の被害を受けた国だ。その分、原爆に対する話題を出されるとムッとすることがある。臭い物に蓋をするように、その話題をテーマにしただけで「お前は何を知っているんだ」「経験したことはあるのか」といった目線を向けられる。
しかし、76年という月日、全国の被爆者の平均年齢が83.94歳となった現在*1。先に至っては、直接体験を聞くことは難しくなる。

今回はこの曲を通して、そもそも原子爆弾とはどのようなものなのか、どのように開発されたのか。原子力爆弾の開発というアメリカの視点で書かれたこの曲を機会にして、その経緯や歌詞などに込められた意味が分からない人に向けてと……思っていた。

が、当人がほぼ私が解説したい内容を言ってしまったので、今回は多く触れていないマンハッタン計画の以前の経緯について少し触れるだけに留まる。つまるところ、この記事は未完成記事だ。

この記事は出来る限り事実に基づいた内容を軸に歴史的、作品的観点からの解説を行っていることを念頭に置いて一読いただくよう心よりお願い申し上げる所存だ。
ただし、私が物理学や量子力学を志していたのは10年も昔であるため、参考文献も古いものが中心になり、内容に誤りがある可能性もある。その点についてはご容赦いただき、具体的に指摘していただきたい。無粋な解説にはなるが、お付き合いいただければ幸いだ。

原子爆弾の仕組み

さて、原子爆弾が生まれたところから解説することが本来はテンポがいいと思うが、この先「なぜ生まれたか?」を解説するにはどうしても仕組みを分かっていただかないといけない。知っている方は次の節まで進んでいただきたい。

さて、みなさんは中学物理を思い出せるだろうか?まずは原子爆弾の「原子」とは何かから解説しよう。
この世の物体はふつう分子か原子で構成されている。ほとんどすべての分子は原子が構成しているのだ*2。あなたの触っているだろうスマホやキーボードも原子。あなた自身も原子。皆原子で構成されている。

さらに原子は原子核と、その周りをぐるぐるまわる電子で構成されている。さらにさらに、原子核は陽子と中性子で構成しているのだ*2,3,4。ややこしいが、図を見ていただければ何となく、イメージだけでも原子とはどういうものかわかるだろう。

画像1


(画像出典: 日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」)

ウランやプルトニウム原子の原子核に中性子があたることで、原子核が壊れ、大量のエネルギーを発生させる現象。これを核分裂という*5・6。
その核分裂を兵器利用したのが、原子爆弾だ。ちなみに、核分裂で緩やかにエネルギーを生み出すように平和利用したのが原子力発電になる*7。

核分裂が発生すると、熱や光エネルギーなどが発生するとともに中性子が生み出される。それは原子が1個分裂するたびに1個以上が生まれるのだ*6・8。さて、次はこの「1個以上」が生み出されることについて解説を交えながら書いていこうと思う。

原爆のレオ・シラードの深刻な杞憂

画像2

1960年頃のレオ・シラード
パブリックドメイン

1933年9月12日のロンドン。レオ・シラードは歩く中で突然と閃いた。きっと彼の中にはこんなことが浮かんだのだろう。

「1つの原子核が生み出した中性子が、別の原子核にあたる。2つの原子核から生み出された中性子はそれまた別の原子核にあたって、4つの中性子を生む……」

つまり、仕組み的には「ドラえもん」の中に出てくるひみつ道具「バイバイン」の恐怖が現実に起こったものと思ってほしい(詳細な仕組みはもっと緩やかなものなのであくまで例えですが。)。

バイバインは液体状のもので、かけた食べ物を5分おきに倍にすることが出来る。
作中では、1つの栗饅頭にかけ、制御が効かなくなるというオチだが、これが核分裂と似たような反応であると私は理解している。

話を戻そう。この核反応の連鎖を思いついたレオ・シラードは、恐ろしくなっただろう。その反応は大量のエネルギーを生むからだ。兵器利用されてはひとたまりもない。人類が見たことないほどのエネルギーが生まれることは容易に想像が出来た。

そして、その現象に気づいた際には第1次世界大戦の惨禍を目にして間もない時期だった。
ナチス・ドイツの怪しい動向や優秀な核物理学者が多くドイツに居たことをふまえ、そのようなエネルギーを使った兵器が開発されるのではないかとレオ・シラードは杞憂した。

これが米国がドイツに先んじて核開発をするように当時の米大統領であるフランクリン・ルーズベルトに伝え、促そうとした。
しかし、彼は自分では相手にしてもらえないと考え、その警告を伝えるために手紙をアインシュタインに署名してもらい、友人に託すことでルーズベルト大統領に手紙が手渡された*8。この話はウィキペディアで「アインシュタイン=シラードの手紙」という題名で書かれている。

これが今回の曲のタイトル「マンハッタン」に繋がるトリガーの1つになった*9。配信中にゴートさんは「原子爆弾は特別な意味を持たされてしまった」と言った発言があったが、私はこれについて否定したい。そもそも原子爆弾は、人類が経験したことないエネルギーを生み出す現象が兵器利用されるのではないかという恐怖から生み出されたものだ。最初から人類が知りえないものだった。これが決め手になって日本が降伏したとされる論理もあるが、間違いなくこれは生み出される前から意味というものを持っていたように感じる。

第二次世界大戦開戦画像3

1939年9月1日、ポーランド軍に砲撃するドイツ戦艦
パブリックドメイン

この手紙が渡された1か月後、ナチス・ドイツがポーランドを侵攻。サンフランシスコ平和条約および2019年9月の欧州議会の採択*10によると、この侵攻が第二次世界大戦の開戦であると扱われている。これが後に世界で初めて人類が核兵器を使用する戦争となった。この戦争さえなければ、"現在の形"で人類の核開発が加速することはなかっただろうというのは言うまでもない。

最後に

そして、開戦の3年後にマンハッタン計画が発足。広島、長崎で世界で公式的には初めて実戦使用に繋がった。ここからの解説はあくまのゴートさんの解説が詳しいだろう。

画像3

長崎大核兵器廃絶研究センター発行の『世界の核弾頭データ』ポスター
中心の針は世界終末時計を示している。

広島県によると2021年1月現在、世界の核兵器保有数は13,080*11。長崎大核兵器廃絶研究センターによる調査では、同年6月時点で13,130*12。それらは90%以上を米露が保有している*11・12。例え、両国の保有数は減っても各国の保有素は増しており、総数は減っても、それぞれが保有をやめることはない。それが核兵器禁止条約発効後だとしても。

今回の記事やゴートさんの楽曲が学習の一助となれば幸いだ。

出典

*1 「原爆投下から76年 高齢化とコロナ禍で活動困難に…岐路に立たされる被爆者5団体【長崎発】」2021年8月9日、FNSプライム。
*2 「こんなにわかってきた素粒子の世界」p16-17、2008年、京極一樹。
*3 ニュートン別冊「イオンと元素 増補改訂版」2011年、ニュートンプレス
*4「原子の構造」2016年3月14日、日本原子力文化財団。
*5「原子爆弾(原爆)はどのような爆弾なのですか」2020年12月3日、広島市。
*6「図解雑学 元素」p278-279、2012年、富永裕久。
*7「原子の構造と核分裂」電子事業連合会。
*8「世界で一番美しい元素図鑑」p227、2010年、セオドア・グレイ。
*9 「原子爆弾の誕生 — 科学と国際政治の世界史」1993年、ローズ、リチャード。
*10 「露、ソ連とナチスの「同一視」禁止」2019年、産経新聞。
*11「世界の核兵器保有数(2021年1月時点)」2021年1月、広島県。
*12「世界の核弾頭1万3130発 核兵器禁止条約発効後も」2021年6月11日、朝日新聞。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?