朝早くに
日の出から しばらく…
建物の影は まだ長い
冷たい道が なんとなく光沢を放っている 人が沢山歩き過ぎるから また余計磨かれて白くなる道
小さく咳払いをしたら まともに自分の耳に返ってくる 昨夜も人々の悲喜こもごもを聞いたであろう道 ちょっとだけ気を遣って そろりそろりと歩く…
店の看板は あっさりした文字ばかり 犬矢来のほうが目立っているのを見て頬がゆるむ 突然意味なく路地へ入ってみる 初めて踏み入れる路地 まわりに人が居ないのを確認して靴紐を結び直す
夏には雪駄で歩いた 道にしても時にしても 少し戻れば懐かしい顔を思い出す コインパーキングのゲートが上がって車が出てくる ひょっこり あの人が乗っていないかと思ったりする そんな訳ないかと ひとり笑って また歩を進める それでも やはり髪の長い人に目がいく しばらく同じ速さで ついて 話し方…声が違うと がっかりして また もとのスピードで歩く いつもの知っている人が犬を連れてこっちに歩いてくる やわらかい笑顔で…… 軽く会釈してこれで良かったかなと ガラスにうつる自分を見る ポケットに忍ばせていた手紙をポストに入れる ポストに書かれている集配時間を確認する たぶん返事は返って来ない 宛先の人は はっきりとした力強い答えを求めているし 無駄なことに時間を使うほど暇ではない 便りを出したことに少し後悔しながら早足で歩く 太ももと首すじが汗ばんでくる 今日は なんでこんなに疲れるのだろう もとの白い道に戻って その反対側の細い路地に入りかけてやめる 阿弥陀さまに導かれる二河白道を思い出す 初夏には足なれた雪駄で歩いた 心も裸に近かったような気がする ずっと歩き続けたら何かが見えてくるだろうか だんだん自分がイヤな人間に思えてきて仕方がない 日が屋根と屋根の あいだから射してきた
気をとりなおして またゆっくりと歩き始める 1日の始まり… さて今日はどんなものが見えるか 街が静かなぶん 鳥の鳴き声が 良く聞こえた
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#散歩日記
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