【年間ベスト】2023年の個人的な41枚
2023年も年間ベスト的な日記をまとめます。
前年はこちら。
旧ブログから数えるとちょうど10年分年間ベスト書ききったみたいです。だいぶ時が積み重なってきた。次は20年くらい書けたらいいな。
毎年の口上から始めます。
何かのシーンを追ったりこの1年を解釈するものではなく、単に自分の好みや見方をまとめた感想日記です。ふだん「良かった」で終わらせているものに少しはちゃんと向き合おうという試み。読んでみて「聴いてみようか」「聴き直してみるか」ってなれば幸いです。今年は紹介より感想が多め。
今回も「お気に入り」と「AOTY(ランキング)」の二つに分けて並べます。作品に対して、同じカテゴリとして横に並べる面白さもあれば、ランキングとして縦に並べる面白さもあるだろうという意図です。
良ければおつきあいください。
※「Songwhip」リンクから各種配信サービスに飛べます
お気に入り
「お気に入り」は順不同、ジャンルでなく個人のフィーリングで分類しています。「この人はこの音楽についてこんな枠組みで聴く・並べるんだ」って捉えてもらえれば。プレイリスト片手にどうぞ。
■POPS
誰に聴かせても良い反応が来るだろうやつ。
Ana Frango Elétrico 「Me Chama de Gato que Eu Sou Sua』
リオデジャイネイロ出身SSW 3rd。ブラジルのMPBからフレンチ・ディスコポップまで、なぜか「痛快」の印象すら与える最高のポップアルバム。「Electric Fish」、これ嫌いな人おる?今が何年か分からなくなるブラジリアン・ニューウェーヴ。
⇒国内盤
⇒Songwhip
Unknown Mortal Orchestra 『V』
5年ぶり5th。「Hunnybee」が4500万再生とバイラルヒットした流れを汲んだであろう、AOR路線を強めてリゾート地に出かけたような好盤。60分は明らかに間延びしていますが、そんな弛みすら避暑地にはちょうどいい。ビンテージと宅録趣味全開なファニーな音作りによる相変わらずのソフトサイケとローファイの衣も絶品です。突如ファズギターが切り込んでくるあのアンバランスさは恋しいものの、そのぶん日常聴きに合っている。「That Life」は新たな代表曲ですね。
⇒国内盤
⇒Songwhip
スピッツ 『ひみつスタジオ』
3年半ぶり17th。前作で「人間になんないで繰り返す物語 ついに場外へ」と歌ったマサムネ。本作はこのアートワークにして初手から『修理のうた』そして『オバケのロックバンド』と来ました。もはや人ですらなくなってきた各主人公たちですが、それでも歌われることは何ひとつ変わらない。「大好きな君がいて、その気持ちだけでもう大丈夫だ」。これが『醒めない』以降のマサムネが信じる全てです。そしてバンドメンバー全員が音楽に対して感じている全てでもある。永遠に君(音楽)へ初恋を捧げ続けられるバンドは、30年を経てついに不定形のオバケとして永遠となった。あぁ、なんてファンシーでハッピーな帰結だろう。
「子供のリアリティ 大人のファンタジー」それがスピッツの辿り着いた「ロック」への答え。甲本ヒロトがTHE HIGH-LOWS『14歳』で歌った「リアルよりリアリティ」を思い出さずにはいられません。子供のままの気持ちを大切にするヒロト、大人としてそれをファンタジーと認めつつ愛し続けるマサムネ……。
あと「大好物」の「君の大好きな物なら僕も多分明日には好き」のフレーズが良すぎる。しっかりそこに”多分”と添える距離感が自分の愛するマサムネなのです。近年のスピッツの軽やかなグルーヴには、こういうちょっと浮ついた素敵なフレーズがよく似合います。俺も恋したいしバンドしたいよ。
⇒Songwhip
Kurt Vile 『Back to Moon Beach』
本ブログの年間ベスト登場は4回目、もはや老舗感すらあるUSインディ安定の味。喧噪やシーンと異なる時間軸に自然体で在るこの人の音楽・佇まい・時間感覚は、SNSに情報が氾濫する今こそ輝いています。再評価されてほしいのでINDIEでなくPOPS枠で。
今まではハイウェイやカントリー(都市郊外)を感じましたが、本作は「昼下がりの散歩」みたいな空気が納められています。缶コーヒーとか自販機で買いながら、何となく足取りは小気味よく、ちょびっと楽し気に歩いている、そんな時間のBGM。この人ならではの佳作です。
⇒Songwhip
Noname 『Sundial』
アルバムは5年ぶり、本ブログとしては2016年のデビュー作以来7年ぶり。スムースながら甘すぎないメロウさを持った耳心地良いラップ作です。歌ともラップともつかない喋りに近いフロウ、Arrested Developmentを思い出すのは古すぎますが。「hold me down」「namesake」あたりのトラックも最高。込められたメッセージについてはこの記事が参考になりました。※1
※1. 「わたしが書いてもいないヴァースについて謝るつもりはない。それを自分のアルバムに入れたことについて謝るつもりはない。」に関して、この言葉だけみると自分は「謝る必要はないが受け止める必要(責任)は一定以上あるのでは」と思いますが、実際はどういうニュアンスなんでしょう。
⇒Songwhip
Cleo Sol 『Gold』
Saultのボーカルとしても活躍するUKのSSWの4th。まずInfoワークによる録音が心地良すぎる。その場所で鳴らされた音がそのまま収められている生々しさ、アルビニとは違う人肌の温度感。その息遣いでもって響くミニマル・ソウルとささやかなゴスペルの佇まいは、絢爛なアレンジよりずっと真に迫って響いてきます。『Gold』のほうがSSWとしての語りの力が楽曲に宿っている気がします。「Lost Angel」「Life Will Be」名曲です。
ともあれオーセンティックすぎる節はある。全部がコレだと面白くないだろうとオルタナの仮想敵にもなりそうな、しかし間違いなく素晴らしい一作です。
⇒Songwhip
■GROOVE
リズムに強く惹かれたやつ。
Jessie Ware 『THAT FEELS GOOD!』
ロンドンのSSW 5th。プロデューサーはArctic Monkeys、Blur、Depeche Modeのをてがけた大御所James Fordと、Pet Shop Boysや2000年代の Madonnaを手掛けたStuart Priceという鉄壁の布陣です。ディスコ、ファンク、ソウル。古よりある音楽の快楽原則を現代に引き継ぎ歌い直しているプロフェッショナル・ワークス。レトロ?いやいやバッキバキのリアルタイム現役音響に、光沢あふれる質感で仕上げられたモダン・クラシック。
⇒Songwhip
David Walters 『Soul Tropical』
「マルチニークにルーツを持ちフランスはマルセイユで生まれ育った」らしいミュージシャン6th。カリブ海に浮かぶ島なんですね。調べたらすごく良さそうな所だ……。本作は「ソウル・トロピカル」の名のとおりの快適さ。アフロビーツ、フレンチ・カリビアン。ゲストミュージシャンはガーナ、ブラジル、マリということで、自分もこの辺の音楽の魅力に気づいてきたかもしれない。「No One」のディスコEditに「Jodia」あたりのアフロビートもたまりません。今年最も友人とのドライブで再生したら「良いじゃん」と言われそうな1枚。
⇒Songwhip
Bondo 『Print Selections』
カリフォルニアのインディバンド1st。「INDIE」枠でなく「GROOVE」に並べましょう。本作は生々しい演奏のズレが前2作品のファンクやアフロビートとは全く違うバンドのグルーヴ快楽を生んでいます。その演奏の妙には「スロウコア」がある程度ハマるでしょう(遅くないですが)。ドラムのルーズなポケット(音と音の間)が気持ちいい。
不安定で不穏な和音感覚と、出音の微妙な揺らぎを捉えた録音でもって、独特の気だるさと醒めを感じさせる。馴染みないひとは「煮え切らないし歌い上げもしない地味で虚無で元気ないエモ」と感じるかもしれませんが、ぜひこの味を噛んでみてください。ベストトラックは「New Brain」です。
⇒Songwhip
Jesus Piece 『...So Unknown』
「アメリカで最もタフな街のひとつであるフィラデルフィア出身のブルータル・メタリック・ハードコア」バンドことJesus Pieceの5年ぶり2nd。
視座から書かせてください。ミスチル・スピッツ育ちの自分は、人生に色々あってポスト・ハードコアにハマり(突然の飛躍)、次にAC/DCやBlack Sabbath当たりのハードロック─が好きになり、次第にToolも好きになり、仕事で色々あってMeshuggahにハマり(突然の飛躍)、そこまで至って尚メタルは本当に聴けなかった。しかし今年、Metallica『The Black Album』とPanteraまで来たところで、少なくともメタルで括られるグルーヴのひとつは体で理解ってきた。それは端的に下の動画です。
この動画に、自分がメタルになじめなかった理由「J-POPやギターポップス的和声感覚(M7, add9あたり)のグッドメロディ感がない」と、今めっちゃ聴いてる理由「音程を変えられるパーカッションのような役割のギターリフのタテとドラムのヨコの交錯によるグルーヴ」が詰まっています。
話は戻ってJesus Piece。これはメタルコアというらしい。確かにポスト・ハードコアの非和音感で、かつ前述のメタルで括られるグルーヴがある。空間を抉りとるリフの刻み。鼓膜を直接踏み抜くキック音。カッコイイ。もしかしてこれならメタル聴く前の自分でも「強烈だ」と惹かれたのではないか。あなたはどうでしょう?
⇒国内盤
⇒Songwhip
■INDIE
グラミー賞「オルタナ」部門くらいフワッとしてますが「刺さる人には刺さる」か「メジャー志向ではない」やつ。今年はぜんぜん掘れなかったですね、、いつもならローファイやギターロックがもっと並ぶんですが、ここ数年の自分は趣向が変わってきてます。来年はどうなるかな。Boygeniusは各人のアルバムの方が好きでした……。
feeble little horse 『Girl with Fish』
ニュージーランドはオークランドのインディ・ロックバンド。ギターの喧しい、キュートなノイズポップ。みんな好きでしょう。と言いつつ「Paces」はインディポップ、「Pocket」はアレンジを変えればNewJeansに提供できそうな塩梅で、懐の広さも伺えるのが妙です。でも一番好きなのは喧しいとき。
⇒Songwhip
この辺だとMarnie Stern『The Connet Kid』も痛快でした。
Wednesday 『Rat Saw God』
名門Dead Oceansに移籍しての5th。キッチュなグランジだった前作『Twin Plagues』('21)同様、ギタリストが歪みのエフェクトを踏む気持ちよさが詰まってます。最近このへんの音から耳が離れてるんですが、コレは流石に素晴らしかった。Big ThiefにはBuck Meekが、WednesdayにはMJ Lendermanがいる訳で、この2人のプレイは見逃せないですね。でも本作はやっぱり慟哭を収めた8分もの大曲「Bull Believer」でしょう。去年のフィービーでも思ったけど、やっぱり人間もうすこし叫んだほうがいい。
⇒国内盤
⇒Songwhip
SPOILMAN 『COMBER』『UNDERTOW』
これはブログに書き残せました。東京なんてアリガチな固有名詞じゃない、でも日本のどっかの路地から湧いてきた異質のポスト・ハードコア、そしてシュール。これを「INDIE」においたのは、正しくメジャーから出てこないだろう感覚が詰まっているという賞賛です。あとは記事を読んでくれ。
追伸:このあと12/24にフリーライブ(伝説だった)に行ったらまさかの今年3作目のアルバムがリリースされていました。凄すぎる。聴きこむ時間がなかったから来年枠で!
⇒Songwhip
Yo La Tengo 『This Stupid World』
USインディの精神的支柱たる大ベテラン16th。セルフカバーのベスト盤か?ってくらい「みんなの好きなヨラテンゴ」でビビりました。自身のスタジオでセッションを繰り返し、外部プロデューサー無しに制作したが故の原液ヨラテンゴ。これは個人的に残念さもあって、例えば「Moby Octopad」の逸脱はないし、ノイズプレイも『Painful』『Electr-O-Pura』に比べると一発録りのラフさでキレは劣る。ただ"静"の表現がやはり素晴らしい。
水彩画のように美しい「Aselestine」のアコギとベースの中音域のハーモニー。原始的な律動にVelvet Undergroundとシューゲを織り重ねて混沌を表現した「This Stupid World」。ベストトラックは静謐なサウンドスケープを携えた「Miles Away」です。だいたい同期たるMy Bloody Valentineが『m b v』でみせた音の並行世界を眺めている印象。
⇒国内盤
⇒Songwhip
■CLUB / ELECTORONIC
電子音楽的なやつ。
Surgeon 『Crash Recoil』
信頼のTresorレーベルmUKの大ベテランによる最高の硬質テクノ。bandcamp購入特典のノンストップリミックスも要チェック。生活の中の、通勤途中に頭の中で立ち寄れるクラブのようなパッケージングです。
⇒Songwhip
Andrea 『Due in Color』
信頼のIlian Tapeレーベル、イタリアの精鋭による3年ぶり2nd。前作も年間ベストに選んでましたが、本作はよりディープに打ち込みの深淵に向かってダブ・アンビエントにも突っこんだ1枚。でも一番好きなのは「Remote Working」「Silent Now」あたりのノスタルジック・ドラムンベースなんだ……。ベストトラックは「Lush In End」でこの深さはすごい。生活の中の、通勤途中に頭の中で壮大なVJが立ち現れて深く潜っていけるようなパッケージングです。
⇒Songwhip
Speaker Music 『Techodus』
前作は記事に書き残しました。「ハードコアと言ってもいい電子のプロテスト・ミュージック」とか言ってますね。
なまじ80s前後ポストパンクでいう「ファーストで極めた人」だったのでどう出るんだと思っていたら、この手の音楽家の正統派たる"宇宙"を目掛けてきました。あまりに由緒ある系譜に連なってきたことにベタすら感じた──・・・という戯言はブッ飛ぶくらい、今回も凄まじい音場を展開しています。「Dr. Rock's PowerNomics Vision」のノイズミュージック化するシンセ、ドラムが加わる一瞬の解放。「Feenin'」の狂ったウワモノ。「Astro-Black Consciousness」に木霊する音の亡霊たち。
宇宙を目指す時、ふつう可能性とか希望を連想すると思うんですが、ここにあるのは焼け野原です。酸素がないこととか断絶が叩きつけられている。あるいはこれは超新星爆発。全てが払われたあと、何かを始めるための。「カタストロフィのための律動」とか言っていいか?ブラック・マシン・ミュージック最新形です。
⇒Songwhip
■その他
POPS(誰に聴かせても良い反応がくる)か個人的に諸説あったり、そういう一般的尺度じゃないなと思ったやつ。
blur 『The Ballad of Darren』
説明不要UKのレジェンド8年ぶり9th。不定期で再結成を繰り返すバンドからこんな良い作品がリリースされることある?『blur』('97)まで遡れるレベルで全曲が立っている。いろいろ語りたい曲はあり(「The Narcissist」「The Heights」名曲)、デーモンソロでもグレアムソロでもこうならない素晴らしいバンドアルバムです。でも自分が感じた一番の思いは「このバンドが円満に続いてくれて本当に良かった」これに尽きます。今年は失ったものが多すぎたので、改めて本当に今、感じ入ってます。
サマソニのライブ本当に良かったです。そのバンドがそのバンドとして在るって、当たり前だけど奇跡だよ。その奇跡のちょっとした結晶としてリリースされた傑作。
⇒国内盤
⇒Songwhip
The National 『First Two Pages of Frankenstein』
4年ぶり9th。まぁ隙が無いというか、散漫な印象があった前作をしっかり磨きなおして焼き増しした感じ。王道の「Eucalyptus」「Grease in your hair」は名曲ですし、感動的な「Send For Me」で終わるのもソツがない。"安定しすぎで面白みがない"以外に難癖がつけられません(?)。ただ、やはりナショナルは『Boxer』『High Violet』『Sleep Well Beast』を既に献上している偉大なバンドであって、路線が同じ・かつそこには並ばないと言わざるを得ない。しかし素晴らしい一枚なのも間違いない。そして「今ナショナルなのか?」と問われれば、彼らの時代ではないでしょう。
Young Fathers 『Heavy Heavy』
スコットランドはエディランドのトリオ、AnticonにNinja Tuneと渡っての4th。ジャンルは不定ですが「祝祭感」は恐らく人類全員が共感できる異形のPOPS。
異形……周りは「良いよね〜」とすんなり受け入れてましたが、自分にはかなり「???」な異物でした。これUKチャート#7なの凄いな……。まず中音域に寄せ集められた音が全然馴染めなかった。自分がノれる帯域にリズムがない。だけど、だからむしろこの祝祭感に繋がっているのかも、と全てがプラスに捉えられてきた。「膨張」そんな音像です。生命力が溢れんばかりに膨れ上がっている。ファンクよりもっと原始的で混沌とした歓喜の歌。その創造、そこに向かわんとする意思、共鳴。ベストトラックは「Drum」と「Holy Moly」です。ライブの魅力が凄いのでフジのホワイトステージ来てほしい!
⇒国内盤
⇒Songwhip
Gia Margaret 『Romantio Piano』
今年の「SLEEP」枠。前作はツアー中「声」を一時的に失ったことに端を発する抽象的でノスタルジックなアンビエント・エレクトロニカでした。3年経ち、名門jagjaguwarからリリースされた本作もその路線は変わっていません。
ピアノを中心に据えた楽曲たりは前作より更に個人的な響きを携えており、やはり一種のセラピーに聴こえる。演奏自体は素朴なんですが、再生すると世界から1枚隔てた場所にいる錯覚に陥る感覚がとても心地よかった。フォークトロニカの文脈にもおけるかと思います。途中1曲だけ浮かび上がる彼女の声、そしてローファイ・フォークトロニカ至高の名曲「La langue d'lamitié」。これ是非とも聴いてください……!今年1番感謝を告げたいアルバム。
⇒Songwhip
折り返し。
AOTY
ジャンルやフィーリング抜きに伝わるんじゃないか?(別にジャンルに特化したものより優れているという意味ではなく)、ともかくコレ凄く良かったと広く勧めたい・語りたいやつ。
■TOP 20
20位. audiot909 『JAPANESE AMAPIANO THE ALBUM』
去年の年間ベストトラック記事から2度目の登場。南アフリカ発祥の最新ジャンルたるAmapianoに魅せられて4年。ここ日本での認知と普及に努め、なにより自身の再解釈によってカルチャーの更なる発展を目指してきたaudiot909氏。その活動は、Sound & Recording Magazineのアマピアノ制作特集、そして満を持しての本アルバムのリリース、着々と結実していっています。いま追うならこの人です。まぁまずは聴いてください。
後記:あまりに長かったので単独記事にしました。
ともかく必聴!
⇒Songwhip
19位. Adrian Sherwood (Panda Bear, Sonic Boom) 『Reset in Dub』
Animal CollectiveのPanda Bear、SPACEMEN 3のSonic Boomによるコラボ作を、UKダブの総帥Adrian Sherwoodが全編ダブワイズした1作。名義の胆力が強すぎますが本当にちゃんとヤバイ、素晴らしいリコンパイル(再構築)です。
原盤はリズム面に掴みどころがなさすぎてスルーでしたが、本作を通して開眼。Panda BearとSonic Boomが作り上げた煙のように立ちこめる歓喜の空気感に、Adrian Sherwoodが実像を与えた。ある空気がその空気のまま手足を持って動き出したかのような奇跡。「Edge of the edge」感動的なエディットです。でもやっぱ原盤の低域感覚は異常ですよね?お互いの個性が改めて伝わってくる意味でも最高の兄弟作。ぜひ聴き比べてほしい。昨年のSpoonといい、シャーウッド御大、絶好調であります。
⇒国内盤
⇒Songwhip
18位. Jorja Smith 『falling or flying』
デビュー作でMercury Prizeに輝いてから久々5年ぶり2nd。デビューのころサマソニで観た印象とは全く違う、ものすごいフィジカルを感じるグルーヴ作。強力すぎる開幕3曲を聴けば分かりますが、「化けた」。
批評誌にポップ・パンクと呼ばれた「GO GO GO」も、このリズム感覚の強靭さ、音の切り方、逞しすぎるキックは全く別物ですし、歪んだエレキでなくアコギでキレを出したのが本当に素晴らしい。ジャマイカのレゲエシンガーとコラボした「Greatest Gift」のグルーヴの換骨奪胎も惚れ惚れする。イマイチ平凡な評価に落ち着いてますが、いや非常に逞しくしなやかな肉体を携えた一作だと訴えたい。これ超良いですよ。
⇒国内盤
⇒Songwhip
17位. Beach Fossils 『Bunny』
初期ビーチ・フォッシルズが纏っていたギターポップの魅力は、一過性の奇跡だと思っていました。曖昧で不安定なのに確固たる美である。何故か成り立っている繊細すぎるガラス細工のような。そこから15年、本作ではすっかり成熟を見せています。こなれた振る舞いで楽曲が正しく飾られている。あの魅惑的な不安定さはもうここにはない。
にも関わらずその表現のコア、言うなれば「美意識」は依然として確かに今もここに在ります。あの「美意識」は時間によって風化するものではなかった。15年、もっと先まで続けていけるものだと、本作で彼らは示してくれています。彼らがこれだけのあいだ輝きを失わずにいられるこの世界とは、実は美しいものなのかもしれない。「Tough Love」からの流れ、泣けるほど素晴らしいです。
僕らは外に出る時、いつも音楽をかける。僕らはいつも、歩く風景を彩ってくれる音楽を求めている。それは例えば、こんな風な一枚で。
⇒国内盤
⇒Songwhip
16位. Overmono 『Good Lies』
UKはウェールズのデュオ、真打たるファーストアルバム。あまりに鮮やかなアンセムたち、箱を越えて響き渡るだろう祝祭のボーカル・カット。あざといくらいなんだけど気持ちよくて屈してしまう。言うまでもなく「Good Lies」と「So U Kno」がBIG LOVEです。これはCLUB枠をこえて広く届きうる強力作と思います。今年最も"気になる人に聴かせて「良いね」って言われたい"アルバム(?)。
⇒国内盤
⇒Songwhip
15位. Nara Pinheiro 『TEMPO DE VENDAVAL』
ブラジルはミナスから音楽の恵み。CeroやBruno Pernadasあたりのポップ感が好きな人にも届くだろうマジカル・ポップで、Antonio Loureiro参加曲もあります。「Despertar」はきっと多くの人の心を掴むはず。
どこを切り取ってもなんて豊かなリズムと和音感覚なんだと唸らされます。例えば「Tenmpo de vendaval」は5拍子の楽曲です。メインフレーズ(1:20~)の打楽器を注視すると「タンタントトンタタン」、5回し目で困惑すると思いますが、ここだけ小節跨ぎでリズムを形成してるんですね。また「Amago」はボサノバマナーの曲ですが、1:55から、ふつう経過音として用いるテンションコードを直接ぶつけてものすごい緊張感を与えています。この辺はJonny GreenwoodやCharles Mingusを思い出す方もいるのでは。息をのむほど危うく美しい進行です。音楽ってすごい。みんな聴いて!
⇒Songwhip
14位. Radian 『Distorted Rooms』
オーストリアはウィーン音響派(と謎に呼ばれていた)7年ぶり6th。前項のNara Pinheiroが完成した「楽曲」の凄さなら、こちらは音が楽曲になる「プロセスとメソッド」を映したカメラアングルの凄さです。音と響きを楽曲化する手つきがクールすぎる。こういうのが音響派、ポストロックと自分は教わりました。この辺はデンシノオトさんが前作に寄せたレビューを是非。
「C at the Gates」の無音に亀裂がはいる瞬間。「Skyskyryp12」で聴けるポストロックの極致・音響的クライマックス。ぜひヘッドフォンで耳を澄ましながら聴いてください。音響の彫刻物がここにある。あるいは、人間が"ある響き"を彫り刻むことが音楽であるということ。
⇒国内盤
⇒Songwhip
13位. Blake Mills 『Jelly Road』
ふつうにFRUEなどに来ていますが、ユニバーサル・ミュージックの紹介読むと改めて恐ろしいキャリアです。3年ぶり3rdたる本作も明らかに「音楽性豊か」ですがその魅力と凄みを書き出すのは至難。まぁまず、豊かな音楽には豊かな文章を添えておきましょう。
自分はライブを見れたことですこし輪郭を掴めました。すごくルーツ・ミュージックを感じるのに、和音感覚も音色も空気感も懐古の感触はぜんぜん無い、不思議な時空にある音楽。「The Light is Long」の音の重なりと広がり。「Breakthrough Moon」でブルーズにのる異質なトーンのソロプレイ。テクスチャーを変質させてルーツを鳴り替える所作はSam Gendelにも通じる最近の感触だなと。その中でも「Skeleton is Walking」は最高ギターソロです。Prince & The Revolutionのウェンディが参加しており、「Purple Rain」へのリスペクトで弾き倒しているとのこと。やはりこれは「ルーツ」と「今」、その関係性の一作かな。
⇒Songwhip
12位. 5kai 『行』
京都にて結成の現スリーピースバンド4年ぶり2nd。その昔、ある名盤に「隙間が痛い。空気がおかしい。」という名文句がつけられました。本盤はそれを継承できる音をしている。サッドコア・フォークトロニカとでもいうのか、toeの歌もの志向に54-71を振りかけてポストロックとグリッチの音感覚でバラしたような、つまりは形容しがたい音楽。日本でサッドコアが生まれるならこんな音なんじゃないか?そんな表現です。
なんとなく、「散らばったままで完成しているジグソーパズル」みたいな感触が浮かんできます。これは録音物として完全に解体されたドラムキットのPAN振りが強く影響している気がする。2018年の『ST』は空間現代なども感じさせましたが、こんな唄が届くとは……。
⇒Songwhip
11位. London Brew 『ST』
ロンドン・ジャズ・シーンの精鋭12人がMiles Davis『Bitches Brew』に挑んだ挑戦作。カバーではなくその精神性を現代に継承・体現せんとしており、その意図はこちらに詳しいです。
まるで12人がステージにいるようですがリモートワークの素材を集めた編集です。こうした制作自体はCAN、60年代前後ジャズの頃からあるものですが、本作はそこに「50年前のMiles Davis」「現代パンデミックによる演奏者の分断」が絡んでいる。より複雑で多時元的、異なる時間軸を交錯させたハイコンテキストな1作です。でも自分の率直な所感は「表題曲ツインドラムどかどか叩いててクソカッコいい」。カマシ・ワシントンと同じノリで聴いていた。あとはファラさんの記事が名文だったので皆読んでください。
⇒Songwhip
今年のジャズは、シカゴ音響派にも強い関わりを持つRob Mazurek『Lightning Dreamers』、奇妙な和音・音像が浮かぶSteve Leahman『Ex Machina』をよく聞きました。
■TOP 10
10位. Puma Blue 『Holy Waters』
サウス・ロンドン勢の雄2年ぶり2nd。本ブログでは5年ぶりの登場。各曲のさわりだけ聴くと一世代前のベッドルームポップに聞こえるかもしれません、しかしツアーメンバーと練り上げた本作はかなり覚醒したバンドミュージックです。
「O, The Blood!」後半の展開にはPortishead『DUMMY』をライブ演奏しなおす所作を幻視する。「Holy Waters」「Mirage」には2000年前半にいた、Radioheadに影響を受けたエモ・ポストロックバンドの手つきも思い出す。だけどPuma Blueはダラダラと激情に身を喘ぐことはせず、あくまで醒めたまま、落ちていこうとする。その結果、高みに登っている。
ベストトラックは「Hound」。抑制されたリズムトラックの上ワンコードで艶やかに楽曲が進む。2回目のコーラスで滞留し続けていたベースラインが弧を描きだして一気に曲が加速し、サックスソロが吹き荒れたあとにベースラインがワンコードに戻る!このクールネス。そのまま「How to Disappear Completely」的セクションが始まるもリズムは抑制されたまま終わる。これ名曲です。この手の音楽性で「バンド」を感じたのだと、今年はDarksideのライブ盤も合わせて聴いてみてください。
⇒国内盤
⇒Songwhip
9位. KNOWER 『Knower Forever』
Brainfeeder看板のひとりLouis Cole、そしてGenevieve Artadiによるどこまでもキッチュでユーモラスなジャズ・ファンク。この辺のBrainfeeder超テク・フュージョン・ポップアルバムたち、個人的にどれも「まぁ良いよね」止まりでしたが、本作はLOVE。大好き。何よりの魅力は「なんだか胡散臭い」ところです。ソロひとつとっても、そんな弾き倒してどうすんのではなく、むしろ一種の戯画的ユーモアに感じられて痛快。
Louis Coleのドラムの魅力がすごい。「The Abyss」のドラムとソロ回しの快楽指数ヤバい。「It's all~」で突然ピアノソロが乗っかってくるのも、最終的にオーケストラが我が物顔で入ってくるのもヤバい(全て生音なのでクレジットのStrings以下の奏者数がヤバい。いやこれはエラい)。語彙を失っていくファンキーさ。音楽ってなんて楽しいんだ。
⇒国内盤
⇒Songwhip
8位. King Krule 『Space Heavy』
サウスロンドン勢の起源であるキング・クルール3年ぶり4th。本ブログ登場は3度目、あまりにコロナ禍にフィットした前作は年間4位に選んでます。
KNOWERは「大好き」で、King Kruleは「なぜ好きか分からないが聴いてしまう」やつです。超好きな展開が時々くるのにその全ては寸止めかチラ見せで終わる。それに「あぁ~~!!」「なんで!?」と深入りしてしまう。その何とも言えない後味は本作も同様ですが、陶酔したサックスや「People Get Ready」を想起する甘いギターも立ち現れるので妙なスイートさも携えてだした。その佇まいがあまりに異質で得難い。濁色ソウル、不穏チル。毒を携えた甘美な蜜。『The Ozz』以降の混沌その果ての結実。やはりこの人には世界が違って観えている。
何曲かメモを。「Pink Shell」はある種のポストパンクに聴こえる。この盛り上がりとブツ切りはまさに"『EJC』あたりのSonic Youth"でSY信者として歪んだ歓喜を覚えます。「Hamburgerphobia」の無調コーラスかっこよすぎ。「Space Heavy」後半たった4小節のギターソロ、10秒にも満たないけど圧巻。
⇒国内盤
⇒Songwhip
7位. GRAPEVINE 『Almost there』
不倫騒動あけ1年ぶり18th。かなり"攻"と"良"が凸凹な構成をしており、その振り幅は現代版『イデアの水槽』という感じ。
『愚かなる者たち』からは本当に謎のバンド化しています。一見するとルーツに根差してるけどイヤ何かがおかしい。リードトラックだった田中作曲「雀の子」も異常な構成です。2番はシレッと1番Aメロのアレンジをそのままサビまで適用し続け、サビ歌い終わりに1番サビアレンジを間奏として再適用し、3回目のサビは半回しで終了する。セッションの曲作り、宅録DTMerのセンスどちらから見ても謎。そこから間髪入れずに亀井さん作曲「それは永遠」が燦燦と蒼く軽やかなアコギで鳴り始める。何?どの曲も極めすぎて変なことになっている。熟練、いや、発酵の領域。個人的には田中が稀に作る『Juxtaposed』あたりの突き放した曲大好きで、『アマテラス』はもう歌いだしからゾクゾクしました。
にしても、このタイミングで最終曲「SEX」と来たもんだ。田中和将、本当に罪な男。なんなんコイツ?クソ、ズルすぎる……。本来なら最悪のタイミングで自己ベスの田中和将が表出した一作。
⇒Songwhip
6位. People In The Box 『Camera Obscura』
本ブログでの登場は3度目。相変わらず、本当に聴いたことがないものを演っている。GRAPEVINEはまだルーツが見える(だから余計混乱するんだけど)。PITBは……。光源が何なのか分からないくらい乱反射を繰り返した果ての写像。なんでこのバンドが平和に10年、15年と続いているのか分からない。奇跡すぎるだろ。インタビューを読むと印象がまた変わります。
彼らの作品は、個人的に「美学」より「悪意」(ユーモアとシニカル)が顕になってる作品の方が好きです。前者が『Tabula Rasa』、後者が『Kodomo Rengou』、そして本作も後者であります。あまりにも自然体の怪作。
⇒Songwhip
5位. BUCK-TICK 『異空 -IZORA-』
本作に関してどう書いたものか。まずはフラットに作品について。本当に音が良いです。そして櫻井敦司のボーカル表現がいつにも増してすごい。『Six / Nine』が剥き出しの自己のリアルな吐露なら、『異空』は戯曲化した演技の距離感があり(シンセがその印象を強める)、それがむしろ描かれている世界の悪意や無常を強調しています。『アトム未来派No.9』からはクオリティに寄せて逸脱が少なくなっていので、次作は『或いはアナーキー』的変化球が来るかな、とか想像していました。まさかなぁ……。
だけど、どうやらBUCK-TICKは終わらない。恒例の年末武道館、参加はかないませんでしたが、2時間半の演奏、ニューシングル・アルバムリリース発表、来年末の武道館公演の決定が知らされたようです。今井さんはMCで「覚悟しといて。次は三人になるから。その次は二人。最後は1人。それでもBUCK-TICK続けるから。ま、最後残るのは俺かな」と言った。あまりにも力強い。あまりにも。
「狂い咲く命共、乱れ。」「進め、未来だ。」
⇒Songwhip
4位. cero 『e o 』
5年(!)ぶり5th。これは何だろうな……。前作『POLY LIFE MULTI SOUL』(本ブログ年間4位)に「MPBとフュージョン経由の異常マスロック」と書きました。それは謎の洞窟にもぐって様々な壁画を眺めていくような作品だった。本作は、その洞窟を抜けた先には誰も住んでいない超技術の古代都市があって、その街ではこんな音楽が鳴っていた……そんな感じ(?)。何を言ってるか分からないですが、とにかく物凄くイマジネーティブな作品です。日常の延長と架空、その境目に現れるだろう風景を音で立体的に描いているような(??)。つまりこのアートワークのような音楽。
超凄いけども、生活の中で再生するタイミングはかなり難しい。正直にいえば「このバンドは一体どこを目指してるんだ?」って思います。浮世離れを極めすぎでは……。自分には本作が何を伝えようとしているのか全く分からない。でも音楽で「スケッチ」しているような謎の超技術と超練度表現を確かに感じる。畏怖の念だけでここに位置しています。誰も追従しようとしない次元に突入してしまった恐ろしい作品。
⇒Songwhip
3位. Skrillex 『Quest For Fire』(Four Tet x Fred again.. x Skrillex - Coachella 2023)
Skrillexは学生時代の仮想敵でした(挨拶)。率直に、自分はEDMをバカにしながらインディロックバンドを愛好する、そんなリスナーだった。いつの間にかそういうの馬鹿らしいなと気づけた訳ですが。
本作は化物です。時代は移ってダブステップやガラージになっていますが、そういう問題じゃない。生物の本能的にヤバい見た目の料理が何故か死ぬほど美味い、そんな異常感覚。過剰なエディットとエフェクトが脳神経に直接アドレナリンを注入する合法ドラッグ。「言葉なんていらねぇ、気持ちよくキマればいいんだよ」そんな快楽の暴力です。それが限界まで突き詰められているのが滅茶苦茶カッコいい。並みのポストパンク・フォロワーよりよっぽど凶悪な瞬間をもつ劇物であります。
⇒Songwhip
んで、このライブ映像を合わせておきたい。これ年間ベストライブ映像です。 Frank Oceanのキャンセルによって展開された奇跡の舞台。Four tetがうん万人に「Country Riddim」をブチかまし、フィナーレで「teenage birdsong」のドラムンベースに至る瞬間(1:24:30~)──コーチェラが華々しくお決まりの花火を打ち上げるなか、その音は全く聞こえず、いまこの世で最も巨大な会場を、照明以外の派手なステージングなんて一切ない、何も着飾っていない普段着の3人が音楽だけで完全にジャックしてしまっている光景──に落涙すら禁じ得ない。本当に痛快です。アニメでいえば劇場版3部作完結編クライマックスのそれ。お前らがヒーローだ。これYoutubeに残してくれたのマジでありがとう。
2位. Laurel Halo 『Atlas』
ele-king誌によると「この10年のもっとも重要なエレクトロニック・ミュージシャンのひとり」ローレル・ヘイロー5年ぶり5thは至高のアンビエント。
とはいえ、本作についてまだ自分の中で言葉の整理が出来ていません。「音響」よりも「交響」の楽曲たちだと思います。それぞれの音が浮かび上がっては沈み、時に重なり、時に分離し、時間と空間が形成されていく。むしろクラシックのオーケストラ演奏に近い印象です。スピーカーから流れる音、それを捉える自分の耳。そのあいだにある空間に無限の奥行と広がりを知覚させる傑作。まず、人間はともかく「この世界はなんて美しいんだ」と根源的な神秘に気づかされる。「BellEville」は今年1番琴線にふれた曲です。
⇒国内盤
⇒Songwhip
1位. THE NOVEMBERS 『The Novembers』
いつの間にか15年選手となった日本のオルタナティブ・ロックバンド9th。ここまで何となくいろいろ「言語」だのなんの書きましたが、やはり日本語の歌がいちばん伝わってきます。音楽性だけでいえば前作・前々作のほうがずっと好きです。ただ本作は佇まいと歌詞がめちゃくちゃ響いてくる。
実際、初期ファンの方には耐えられないくらい、コテコテの「J」作法で塗りつぶされた楽曲が多いです。ストリングスだったら2010年前後のJ-POP暗黒期にすら隣接しかねなかったし、ラルクでなくミスチルのバイブスすらある(自分は両方の大ファンです)。「かたちあるもの、ぼくらをたばねて」のサビ入りなんてのけぞるでしょう。でも、そうした諸々を全部納得させる音の確信とスケールがある。前々作から「柔らかい」と比喩してきましたが、もう「美しく澄んだ大気」みたいな領域になってきました。この辺はフジロックでのパフォーマンスが個人的にあまりにも鮮烈だった印象も引きずってますが、あそこで感じたしなやかさがバンドに具現化されていて感動してしまった。
「November」までで大団円を迎えつつ、そこから洋楽志向もみえる「GAME」「James Dean」「Cashmare」で外周を走った後、「Morning Sun」「抱き合うように」でトゥルーエンドを迎える。この一見遠回りな曲順が何故だかとても感動的です。ベストトラックは「抱き合うように」。この曲には10年、20年とか積んできた人にしか出せない抱擁の懐を感じる。大サビに入るところで何時も泣きそうになってしまう。それこそBUCK-TICKが奏でてきた至上のバラードに近い感触すらある名曲ですし、「Pieces」にも並ぶ。2023年の自分にとって「名も無きわたし」と「抱き合うように」がワンセットだった。
言葉遣いも平易なだけに、「November」「抱き合うように」で聞こえてくるその歌詞は眩しすぎて直視しづらくすらあります。でも、その輝きの方向に自分も進んでいきたい。そう思わせてくれる音楽の説得力がある。「この世界で生きるんだ。」「あざやかに。」言葉が響いてくること、そして何かを変えてみようとすること。死ぬより生きたほうがいいし、傷つけあうより抱きあったほうがいい。そう信じられる音楽。これが自分の年間1位です。
⇒Songwhip
来年もよろしくお願いします。