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【年間ベスト】2024年面白かった文章(Web記事)
今年も面白い文章がたくさんありました。
突然ですがそんな文章たちを紹介もとい押し語ります。
今回の対象は「文章」の中でも一番アクセスしやすい「Web記事」です。
前段(飛ばせもする)
初めての企画なので、書きだした理由を3つほど挙げておきます。
①文章って面白いよね(紹介したい)
音楽や映画、漫画などの「作品」は、メディア・個人によって「年間ベスト」なるくくりで年末に振りかえられます。それは世の中に作品がたくさんある(振り返る必要がある)から、面白いから、語りたい人が多いからでしょう。そこで、じゃあ「文章(Web記事)」を対象にした年間ベストがあってもいいと思いました。たくさんあって、面白くて、自分が語りたいから。
まぁ「年間ベスト」というのは単なる看板で、年の瀬にかこつけて誰かにこれ面白かった!と押しつける紹介する、そういう記事です。
②「文章にリアクションすることって中々ないよね」(ちゃんと言葉にしておきたい)
元々こうした「文章を取りあげる」企画のひとつに、ライター伏見瞬•西村紗知氏両名による"歌舞伎町のフランクフルト学派「かぶー1グランプリ」"があります(厳密にはこちらの対象は「批評」)。今年もあります。
2022年に自分の記事を推薦してくれた方がいて、視聴してみたら感銘を受けました。まず「批評(≒文章)って面白いよね」って前提への信頼に強く共感したのですが、印象的だったのは「文章(作品)に対しての文章(反応・感想)が少なすぎる」という問題提起もとい現状でした。ある種の供給過多、反応の枯渇。これは強く実感します。その現状も打破する素晴らしい試みだ、自分も似たことをやりたいと思い、去年見事すっぽかし、今年やります。
実際、自記事を語られるのって超超嬉しくて(当たり前体操)。もちろん自分じゃ権威もないし読解力も足りないんですが、それでも何処かの何かにプラスたりえるだろうと。自分としても頭の中に湧いたものを書き残して外に出したかった。年の瀬は良いタイミングだろうと。
③「最近のGoogle検索やSNSのアルゴリズムが気に入らない」(今のインターネットの感じに反抗したい)。
最後。たとえばXのオススメTLが嫌いです。ヒトが反応したくなるものを集め、それに最適化したバズ目的ポストが量産され、両極端なリアクションを生み……と書きだせば記事ひとつ終わっちゃいますが、ともかくこの、企業(価値)に基づくつまんないゲームから一時的にでも抜け出したい。そのひとつとして個人のレコメンドです。
本題
まぁ前段はいいんです。今年も面白い記事があった。それが一番重要。
紹介する記事はすべて個人的なものです。何か大手メディアをフォローしている訳でもないし、基本が音楽好きなので、本当にかなり偏っています。
なのできっと読んでいて「コレも面白かったよ!」とか、「なんでこれが無いの!」とか沢山浮かんでくると思うんです。それは文章に限らず、Podcastや動画でもなんでも。ぜひその思いで紹介記事を書いたり、よかった記事のリンクをSNSでシェアしてください。ハッシュタグ「#2024オススメ記事」でも何でもいいですし、ここのコメント欄でもどこでもいいです。
読むキッカケはもちろん、「あなたが今年読んだもの」を間接的に思い返すキッカケになれば幸いです。
<注意書き>
・見出しは「記事題 - 作者・話し手(翻訳者)名【メディア名】」
・記事題に作者名が既にある場合は省略
・敬称略
作者名には出来るだけホームページっぽいリンクを探して貼りました(見つけられなかったのもありました。すみません。)
今回は16記事で力尽きました。
順位はないですが、思いを込めた順番で並べています。
いくぞ!!!
■クラフトインターネット - 小倉ヒラク【個人ブログ】
まずは開いてみてください。もう最初にアクセスカウンターが置いてあるサイトデザインだけで満点です。
それはさておき「クラフトインターネット」。これはすごく良い言葉だなと思いました。本文に「意味はわからないが、フィーリングはわかる。つまりミームになる条件バッチリのヤツである」とあるように、自分も雰囲気だけを掴んでますが、ニュアンスやスタンスはすごく理解る、気がする。
そもそもこの文章にすごく「クラフト」を感じます。「あぁ、ある人間が何かを思ってコレを書いたんだな」という感触がある。まずそれがシンプルに好きで、ちょっと大それて付け足すなら、こういう文章を読んでいるとなんとなく他者への想像力が広がるんですよね。見出し15字やX140字で伝わるはずのない、"どこかの誰か"の内面がほんのすこし透けて感じられる。そしてそんな文章はYahoo! JAPANなどのトップページから出会うことが出来ない。
なので発見できる環境を自分の周りに作っておきたいと思ってます。例えば「しずかなインターネット」は正しくそんな感じがするし、Blueskyも今のところまだ良いですね。クラフトインターネット、やっていきたい。
■なぜAmazonはPrime Videoに広告をぶち込めるのか - Cory Doctorow(heatwave_p2p)【個人ブログ】
数年前から見かける、現代のプラットフォームが不可避の「メタクソ化」について。まず作者の造語「enshittification」、”en”(もたらす)、"shit"(クソ)、"ification"(プロセス)への「メタクソ化」って翻訳が好きで。その言葉の意味合いは、昨年度の記事、『メタクソ化するTikTok』が分かりやすいです。
プラットフォームはこのように滅びていく。まず、ユーザにとって良き存在になる。次に、ビジネス顧客にとって良き存在になるために、ユーザを虐げる。最後に、ビジネス顧客を虐げて、すべての価値を自分たちに向ける。そうして死んでいく。
(中略)
私はこれを「メタクソ化(enshittification)」と呼んでいる。
覚えがありすぎる。今年は更にどうしようもない言葉が重ねられました。
企業が以前は役立っていた製品をどんどん劣化させていくのは、品質を落とすのが面白いからではない。製品がゼロサムだからだ。あなたにとって価値があるもの(広告なしで動画を見ること)は、企業にとっては価値が低い(あなたの注目を金に変えられない)のだ。
んでこの文章、「Amazonはクソ!資本主義最低!」と叫ぶんじゃないのが好きです。明らかにクソだとは思っているでしょうが、そこに体温はほぼない。感情をのせるまでもなく、事実と分析を並べるだけで批判たりうる無機質のキレ。硬めの翻訳文体に「プラットフォームはこのように滅びていく。」とか「メタクソ化」とぶっ放される読み味。読んでて気持ちよくなれる文章でした。
■動物の死体に湧いたウジを全部数える。死体を巡る生き物たちの意外な営みについて日本大学の橋詰茜さんに聞いた - 岡本晃大【ほとんど0円大学】
見出しだけだと何じゃそらとなりますが、「自然の中で死んだ動物は具体的にどう還っていくのか」の研究です。ある大学生へのインタビュー。
なんとなく他の動物が食べて、残りを微生物が……とか教科書的なこと考えるじゃないですか。実際はもっと入り組んでいる。漠然とした「なんか良い感じに還るんだろう」という直感に対して、この世界の何たる複雑な調和か。その一端にふれられる研究レポート感想録。
人間社会が面白いかはともかく、この世界は間違いなく面白いですよ。
■終わったメディアに触れる 〜3D Blu-ray体験記〜 - ふぢのやまい【ムービーナーズ】
これ自体は去年の記事ですが、シリーズものであり、今年の更新でひとつ区切りを感じたので。
3D映画って覚えてますか?一時期なんかちょっと流行った気がするアレです。アレに突然魅入られてしまったひとの話。
この記事の何が良いって、令和の時代に3D映画に興味関心を抱いた結果、最初にくる話が「現在どうやったら3D視聴ができるのか」なところです。まずメディアがない。次に「3D Blu-ray自体がもうほとんど売られていない」という、さらに身も蓋も無い問題に直面する。この体験記としての面白さ。そして何とか購入できた『STAND BY ME ドラえもん』『アナと雪の女王2』が並んだあとにズドンと、ジャン=リュック・ゴダール『さらば、愛の言葉よ』が出てくる。この並び。文章として面白すぎる。
この次がまた良くて。
そして今年この記事に至りました。
「いまどき3D映画にここまで熱い記事書くひといるんだ~」とみてたら、「3D映画を自主制作してるひと」まで登場してきた。これはもう、門外漢ながら「邂逅」と言わざるを得ない激熱展開、12000字対談。実際めっちゃタメにもなる。本当に面白い企画と展開で最高でした。
あと、「3D映画」を語ろうとするとその表現上必ず「メディア(再生媒体)」と「その普及」の話が出てくるのも、あまりその辺を意識しづらい音楽リスナーとして面白かったです。
■特別鼎談 三宅唱×濱口竜介×三浦哲哉シリーズ - 【かみのたね】
今年劇場公開された三宅唱『夜明けのすべて』、濱口竜介『悪は存在しない』それぞれの3者対談記事。どちらも素晴らしい作品でしたがこの記事がまたすごい。
これはもう、読んでほしいとしか言えない。シンプルに天才たちの会話の記録です。鼎談全編において感性と言語化がすごすぎる。映画を観た方全員に勧めたい。自分が観たものよりこの世界はずっと大きく、深い。
■映画『ストップ・メイキング・センス』4Kレストアクロス・レヴュー - 鳥居真道、岡村詩野【TURN】
Talking Heads『Stop Making Sense』が4Kリストアで再注目されたのは最高のニュースでした。そこに寄せられた、トリプルファイヤーのGt. 鳥居真道さんによる名文、岡村詩野さんによる視点補完。奇妙な動きを繰り返すバーンは果たして何をしていたのか?なぜ『アメリカン・ユートピア』はどこか寂しいのか?パンフレットで読みたいのってこういう文章ですよ。是非鑑賞後に読んでみてください。
Prime Videoでも観れるようになりました。会員は無料です(宣伝)。
鳥居真道さんはRolling Stoneの連載記事もすごいので音楽好きは要チェック。
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■キング・クリムゾン(King Crimson)『Red』はプログレの何を変えたのか? 50周年迎えた名盤の優れた魅力を再考する - s.h.i 【Mikiki】
自分は以前、「音楽についての文章に何の価値があるのか」という記事を書きました。その末尾でふれたのが「良い音楽記事とは?」という問いです。そしてこの『Red』の記事が、ひとつ理想的なものに感じました。
自分なりにまとめると、まず以下3つが揃っているなと。
①魅力が簡潔・平易に記されている(聴きたくなる)
②音楽的な言及がある(聴く時に意識できそうな言葉がある)
③他作への紐付けがある(聴いた後に広がりがある)
とっつきやすい話から始まって、読み終えると『Red』を聴きたくなるし、聴こえ方が変わりそうだし、紹介されている他作品も聴きたくなる。
これは正しく「良い音楽記事」だなぁと。
そして更に「情報のアップデート」があることが強い。
★1980年代King Crimsonをむしろ評価する、新しい(そこまで浸透していない)視点の提示がある
★「現在」から見た立ち位置をしっかり書いている
参考にしたいと思う職人的記事でした。
余談。さて早速聴き返そうと思ったら、今年「2024 Elemental Mix」なるバージョンが出てるじゃないですか。コレは……自分は許せません笑!初めて聴く方にはオリジナル版を推奨します。こうした憤慨、あるいはイヤこれは良いものだという思いで、またひとつ文章が生まれるわけです。
■278回 ダモ鈴木死去 - ロマン優光【実話BUNKAオンライン】
追悼記事。恐らくは字数制限あるなかで、文章のリズムを崩すことなく、音楽要素を端的にまとめあげています。CANが後続に与えた影響を楽器隊から「音響と反復」。ダモ鈴木から「意図的な破綻の導入、不確定要素を投入することで産まれる異化作用」。めちゃくちゃ分かりやすいし言語能力が高い。
なにより、ここが故人のキャリア全体を射抜きうる名フレーズです。
そう、(彼は)別に音楽をやっていたわけではなく、「現象」を作っていただけなのだ。
自分もひとつ添えておきます。それこそKing Crimsonの記事でふれられていたBlack MIDIと、ダモ鈴木のコラボ盤です。2018年、当時68歳。まさに「現象」たる音楽を聴いてみてください。CANの発掘ライブ音源もね。R.I.P.
■スティーヴ・アルビニとジャズ ~シカゴ中の蔓を辿って~ - よろすず 【TURN】
音楽的あるいは精神的な意味で「ハードコア」な作品を手掛けてきた印象が強いアルビニワークスにおいて、視点を180度変えた追悼記事。
まず「アルビニとジャズ」という視点自体が非常に新しい(自分は今まで考えたこともなかった)。音楽の聴こえ方、アルビニの捉え方を拡張してくれます。
「アコースティックな現象」は名フレーズですし、着想を「ふと思い立った」と始めつつ、その旅がシカゴという土地に収束していく構成、それを「蔓」と表現する文章自体も美しいです。よろすずさんの文章は、自身も音楽家であることから「音」への精緻な描写がありつつ、それを単なる研究レポートではなく、美しい「言葉」として書き映すような、その筆致が好きです。
アルビニやダモ鈴木が亡くなったのは悲しいニュースでした(もちろん他にも沢山、最近は訃報が多すぎて……)。でも作品は残っていくし、こうした文章でも、彼らが生きた軌跡は様々な角度から取り上げられ直し、語られていくでしょう。
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■METALとDUBの蜜月 - 梅ヶ谷雄太【個人note】
ドローン・メタルと、インダストリアル・メタルと、パンクやグラインドコアからのDUBを取りあげ、現在へのひろがりまでまとめた紹介記事。
DUBは自分も昔記事を書いたのですが、その時掘った角度とは全く異なる視点から深めてくれるものでとても参考になりました。一方で、ポストパンクからもインダストリアルからも引っかかるAdrien Sherwood御大の偉大さよ。
ここにも頷きます。
「間を理解して曲にしているアーティストやバンドにはDUBを感じる。54-71やRaimeにはデュレイとリバーブをベタ漬けにした表面的なDUBよりもDUBの本質を自分は感じる。」
DUBは表面的には「手法」ですが、もっと大きくある種の「美学」と捉えられるのが面白いと感じていて。ジャンルともまた違う枠組みというか。ポップス、曲・歌・メロディから音楽にふれたリスナー(自分)にとって、DUBは「音楽」そのものの視界を拡張してくれるヤバいフィルターです。沼、魔界への入口。その辺が近年注目を集めている理由かと勝手に想像しています。楽しいよね。
■グランジムーブメントがメタルに与えた影響:1992-1995 - ヴァジュラ𝔦𝔡【個人note】
波にのってもうひとつ、2021年の記事ですが"ここに並べたい"の精神(横暴)で。
これ大好きです。何が良いって……前段から書くと、「グランジ」やオルタナティヴロックを愛したリスナーは、「メタル」(超雑概念)を仮想敵にしがちなんですね。一方でメタルリスナー側もBurrn!誌が敵対視している。だけど、メタルのミュージシャンからは共感されていた、少なくとも敵でなかったという記事。
「年代順に一定以上売れた(ゴールドディスク獲得)メタル作品を並べて書く」という機械的な抽出だからこそ確かな説得力が浮かびあがる構成の妙。そして名盤つまみ食いでは辿り着けないアルバムたちにしっかりとした評を記せる音楽文章力。このふたつもスゲェ。
やっぱりこういう仮想敵とかオルタナティヴってカウンターは「弾力」の問題だと思うんですよ。大きな何かに反発すれば当然大きな"弾力"が生まれる。だけどいずれその反発力は弱まる。そうなったら今度は、揺りもどす方向に進むのが最大値の弾力だろうと。この記事の弾力はすごいし、恣意的ではない真摯さもちゃんとある。自分がSonic Youth『Goo』の関連作にMötley CrüeとMichael Jacksonを並べたのも似たような思いでした。
■能登半島地震のSNSバトルにうんざりな人に知ってほしい「政治的主張と事実を分ける」考え方 - 倉本圭造【FINDERS】
タイトルで身構えるかもしれませんが、冷静な記事なので読んでみてください。FINDERSの倉本圭造さんの記事はよく見ています。何ひとつ大胆に言い切ることなく、ただ理性でもって「ちゃんとした解決」を探る姿勢から文章が紡がれているところが好きで。
「解像度が低すぎる」議論をしているがゆえに、パズルのピースにすぎないものを皆が必死に「全部」だと言い張って全否定しあっている現象
これはほんとにSNSの悪い、というかツマンナイところを言い当てたものだと思います。そう、別に善人ぶりたいとかじゃなく、まず面白くないんだよな。そのうえ立派でもない(何かを良くもしないし進めない)と感じる。だから嫌い。
去年のですが下も名記事なのでぜひ。
最も共感するのは、党派性じゃなくて目的ベースで動こうとしているところです。赤十字はプーチンとだって協力しないといけない。こうした考え方を自分はRTAから学んで、エンジニアを職業にして確信したんですが、それは別の記事でいつか。
前の記事と絡めて言えば。「グランジ最高党」にいると、単に「メタル」とクソガバに括って全体を否定しようとするでしょう。でも。「音楽聴いてもっと面白くなりたい」なら。メタルって具体的にはと。自分はこっちが好きです。
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■ジュリアン・ラージのジャズギタリスト講座 音楽家が歴史を学ぶべき理由とは? - 柳樂光隆【Rolling Stone】
現代ジャズ界でもひときわ広く人気を集めているJulian Lage、Jazz The New Chapterを監修・制作した 柳樂光隆氏によるインタビュー。
先ほどこんな羅列をしました。
①魅力が簡潔・平易に記されている(聴きたくなる)
②音楽的な言及がある(聴く時に意識できそうな言葉がある)
③他バンドへの紐付けがある(聴いた後に広がりがある)
この記事はほぼ③だけで逆説的に②①をこの上なく雄弁に語っている。中心たるJulian Lageを、その周囲にある歴史(空間)を描ききることで浮かび上がらせている。名人芸。
ギターはアフリカからやってきて、カナダ北部のノバスコシア州(米ニューイングランド州の北にある島を含むカナダの州で・・・(中略)・・・ギターにはそれぞれの地域の文化、アフリカの文化、フォークロアが反映されている。一部の地域だけでなく、島々のすべての背景が複雑に絡み合っているんだ。
僕らそれぞれがどんな地域で生まれていたとしても、人類の文化は互いに繋がり合っているんだよね。ギターは、そういった大事な関係性に気づかせてくれる楽器だ。
歴史への造詣が深い、とはよく言いますが、本当に深すぎて圧倒される。先の文章でいえば「面白いし、立派すぎる」。ここまでくると自分はちょっと仰け反りもしますが苦笑。光の者すぎる……。
■タイラ『TYLA』徹底解説 越境するアマピアノとアフリカンミュージックの新たな地平 - audiot909【Rolling Stone】
文化や歴史という話でいけば、今この音楽と書き手は見逃せないだろうということで、TYLA『ST』のaudiot909氏レビューです。この座組の記事がローリングストーンから投稿されたことに感動。
この記事ではまず南アフリカの「アマピアノ」がどういったルーツに基づく音楽かを丁寧に語り、誤解されやすいナイジェリア発の「アフロビーツ」との違いを解説します。他国の文化に敬意を払うということは、翻訳された言葉ひとつひとつをこうして丁寧に解きほぐすことでしょう。次に実際の楽曲と参加クリエイターを詳細に紹介する。繊細に制作背景を紐解くことによって、本作がいかに様々なカルチャーをクロスオーバーした作品かが伝わってきます。そして最後にTYLA自身の魅力が語られる。門外漢にも伝わりやすい構成です。
何より、文章を読んでいて「いま、ここ」を強く感じる。それが何故かはわかりませんが、恐らくはこの圧倒的な情報量(これでも相当取捨したのだろうと思わせる)と、過剰な煽りがなくとも伝わってくる書き手の熱意、が生んだものじゃないかと感じました。一瞬たるその場の熱放出でなく、もっと脈々とした、いうなれば「地熱」の熱量です。このタイミングでSUMMER SONICに呼んだcreativemanは本当にいい仕事だったのだろうと。氏のアルバムへの拙稿も置いておきます。
■【シカゴ音楽旅行記】フェス、ライブハウス、ホテル…音楽ファンが感激した知られざる魅力 - 小熊俊哉【Rolling Stone】
歴史といえば、音楽ファンとして「シカゴ」は憧れの地です。思い浮かべるものも人それぞれでしょう。ブルーズ、ハウス、音響派……自分も大好きです。だけど実際にどんな街なのかはよく知らない。
この記事は「音楽ファン」としてシカゴを歩いているのがすごく良かったです。自分自身、今年初めて海外を訪れたのもあってグッと身近に感じられた。ライブハウスMetroについての記述は、並ぶ単語があまりに強すぎる。あらためて、文化というものは土地、街、生活から生まれるんだなぁと、そんな風通しを想像させてくれました。いつか行ってみたいな。
■NYEGE NYEGE - マヒトゥ・ザ・ピーポー【幻冬舎plus】
そして前の記事に並べたかった記事。今回の大トリです。Nyege Nyege Tapesといえば東アフリカはウガンダの超強力音楽レーベル。その主催フェスになんと日本のGEZANが出演する。これはその時の旅行記、もとい体験の記録です。
これも、自分が何をいうまでもなく読んでくれという奴です。元々はs.h.i.さんのツイートから読んだのですが、あらためて的確な紹介と評でした。
GEZANマヒトによるNYEGE NYEGE FESTIVAL参加/出演記。日本中の優れたフェス(橋の下やFrueから氣志團万博まで)に出てきた人がこう述べる趣深さ。重要レーベルNyege Nyege Tapesの充実した紹介としてもオリエンタリズムに陥らない旅行記としても稀有の文章。読めて幸いです。https://t.co/vyk9Rx4Ho2 pic.twitter.com/5Zma12sHib
— s.h.i. (@meshupecialshi1) November 22, 2024
自分が付け足すとすれば。
読んでいて一番文章として食らったのは、遠く異国の地で「音楽のマジック」としかいえないような体験をした後、旅行者たる自分(マヒトゥ・ザ・ピーポー)に無垢な子供たちが「Money!!Money!!」と寄ってきたというエピソードです。生々しい、などと自分が暖房きいた部屋から気楽に打つも憚られる温度差。旅行者が異国にちょっと降り立ったくらいで「生活」なんて実感の言葉を吐けるかという話。
そこからの一連の文章が素晴らしい。
国境なんてただの線で何も変わらないという実感と、わたしたちは違うのだという実感、その二つは混じり合わず、それぞれのリアリティを互いに独立させながら同じ球体の上で直立している。わたしたちは複雑な問いと単純な答えとの間を行き来する。ちょうどゆらゆらと川を船で渡るように。
そして。それであっても最後「わたしは飛翔する」と締める。そこに感じ入りました。「考えていきたい」とかじゃないんですよ。飛翔する。なにかは分からないけど飛ぼうとするんです。こう締めることは、言うなればこの世界で生きて、何かブチかまそうとする、そうした意志・表現の全て、その肯定じゃないでしょうか。
全16記事、長かったこの記事も、この文章を末尾とします。
ということで今年も面白い文章がたくさんありました。書きあげるのに予想の5倍苦労しましたが、出来れば継続してやりたいなと思います。
みなさんも今年良かった文章、ぜひ振り返ってシェアしてください。
追記:こういうタグがありました。「#よかったウェブ記事」。乗っかろう!
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