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私的“パラサイト”論

アカデミー賞受賞の次の日、満員の映画館の凄まじい熱気の中で見たパラサイト。(その時はまだ公開館数もそこまで多くはなかったはず。)コンクリート打ちっぱなしの建物で起こる濃密で現代的なドラマ、僕の好きな感じの映画でした。女優さんみんな美人だったけど、いちばん可愛かったのはちょっとだけ出ていた宅配ピザの社長!!そんなことはどうでもいいんですが。あと、主題歌もよかったよね!

苦い焼酎がこのグラスに溢れたら僕の爪の間の垢が湿ってくる。赤いほおに今やっと、雨が降るね。

ポンジュノ監督の作詞、歌っているのはギウ役の俳優さんだそうですが、それにしても爪の間の垢って!(笑)わかるけど。

ポンジュノ監督の「グエムル」「スノーピアサー」「殺人の追憶」と続けて見ましたが、「パラサイト」はその中でも突き抜けた傑作!ファンタジーの要素を抑えて完全にリアリティの表現で勝負していること、コミカルさとシリアスさの巧妙なバランスが光る作品です。

あらすじはこんな感じ→→過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族。
受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる。ギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。(公式サイトから)

石はなんだったのか?

何度も登場するモチーフ、友人からもらった石。石を眺めながらギウが何度も「象徴的だ」と呟く場面もありますが、いったい何の“象徴”なのか、って話ですよね。観に行った友人が「家が浸水するシーンで石が浮いている描写があるから、あれは偽物なんじゃ?」と言っていて、僕はそうかな?と疑いつつ2度目を観に行きました。よく見ると、浸水の場面では沈んでいた石が“浮かび上がってくる”描写になっています。ここは、まさにジウに“つきまとう”石の表現になっているんです!さらに終盤ジウが川に石を戻しにいく場面があるように、これはもともと川底にあった本物の石。底にあるべきものが地上に、というのはジウたち家族の姿と重なります。金持ちで大学生の友達からもらった石は、“分不相応な暮らしへの憧れ”の象徴かもしれません。(そう思うと“偽物の石”でも同じことかもしれませんが・・・)「石が僕につきまとって離れない」と話す場面や石を戻しにいく場面、そう思うと意味がグッと深くなってきます。

上下関係は目に見えない。

終盤の事件の後、病院で意識を取り戻したジウはぼんやりと笑っています。この感じ、何かに似てません?そう、地下室で暮らしていた元家政婦の夫オ・グンセ。完全に精神病だろ、みたいな掴みどころのない笑顔が似てるんです。グンセはパク社長を盲目的に敬い、服従しています。「リスペクト!!」と叫んじゃうくらい(笑)。一方で、ジウは父キム・ギテクに全編を通して敬語で話しかけています。家族で大宴会になり妹ギジョンがギテクに軽口を叩くような場面でも、ジウのセリフは敬語で訳されてるんです。(韓国語わからないけど。)韓国だと父親を敬う、という文化が根強いのかもしれませんがそれにしても・・・。父親より息子の方が頭もいいし頼りになるのに(笑)。父親に盲目的に従う息子、という関係性。これって、グンセ→パク社長の“理由のない服従”と似ている気がしません?

この映画で何度も繰り返される「上下の構造」。地上と地下、大きな階段などなど、物理的に結構はっきりと表現されています。でも実際の上下関係は目に見えないところに厳然と存在していて、それは父親から子供へと疑いなく継承されていく。まさに目に見えない「におい」のように…。現代の上下関係がなかなかひっくり返らないのは、根深い“理由なき服従”があるからでは、ということのように感じました。

残された謎。

映画では描かれませんが、最後、頭を殴られたジウをあの地下室から助け出したのはダヘしかあり得ません。二階にいたダヘが地下室に「降りてきて」ジウを救う、ということ。若い世代の“愛”が厳然とした上下関係を乗り越えられる唯一の希望なのだ、という隠されたメッセージなのでしょう。

でも、そこまで辻褄を合わせているにも関わらず、解決されていない謎がひとつあります(もっとあるのかもしれませんが)。ギテク一家にグルグル巻きにされたグンセはムングァンも殺されてしまったあと、どうやって復活したのか。あの状態から自分一人でロープをほどくのは無理のような気がします。ダソンが地下からのモールス信号をテントの中で解読するシーンがありますが、あれはどうなったの?わかっていたけど無視しました、でほんとうに終わりなんでしょうか?

梅酒が置いてある地下室に金持ち家族が降りてくる描写は(おそらく意図的に)排除されているのですが、一箇所だけ奥さん(ヨギョン)が降りてくるところがあります。ギジョンが初めて訪ねてきたときムングァンが梅シロップをとりに行くシーンで、様子を見に階段を降りてくる奥さんが映されているんです。

誕生パーティの買い出しをする場面。奥さんが鼻歌を歌ったり、足を車の後部席に乗っけたり、、といつもの上品さとはどこか違う感じが描写されています。電話の話し方とか。どこか不自然に浮かれているような・・・。

完全に思い込みですが、もしかしたら奥さんとグンセは繋がっていたのでは?じつはパク社長とうまくいっていなかった奥さんがグンセを利用したのではないでしょうか・・?そう考えると、世間知らずで“不思議ちゃん”のように描かれる奥さんが実はすべてを操っていた、というホラー展開に(笑)。(奥さんがテーブルの並べ方を「鶴翼の陣みたいに」と指示する場面がありますが、鶴翼の陣は敵に対して左右に翼を広げたような陣形のこと。敵を迎えいれるかのような形なんですよね。)

寄生して金持ち家族を利用しているつもりでいて、実は(少なくとも奥さんには)全てを知られていて、逆に利用されていたのではないか。支配者の側に立ったようでいて、じつは手のひらで踊らされている貧困層の人たち。“簡単にひっくり返るようでいて実は根深い上下関係”がここにも皮肉的に隠されているのでは・・・とか、ついつい考えてしまいます。

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