タクヤ

都内音大、大学院声楽科卒。 映画、落語、おいしいもの、音楽のこと。

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最近の記事

生誕100年、團伊玖磨のまなざしー歌曲作品をたどって

團伊玖磨(1924-2001)は、オペラ『夕鶴』や合唱曲『筑後川』、童謡『ぞうさん』などで知られる作曲家である。彼は7つのオペラ、6曲の交響曲をはじめ放送や映画、演劇など多彩な分野で作品を残したが、とくに生涯の前半では歌曲の作曲に力を入れていた。團伊玖磨自身が「心の日記、仕事の故郷」とまで述べた歌曲の創作について概観する。 若き日 團伊玖磨は1924年、東京原宿に生まれた。祖父・團琢磨は三井財閥の理事長や日本経済連盟の会長をつとめ、男爵の位を授けられたほどの人物であったが

    • 怪談と豚骨ラーメン

      寄席が好きだ。毎年、末広亭の怪談興行には必ず行くことにしている。今年は昼の部が桂歌丸師匠の七回忌追善興行、というのもあって昼の部の終わりから行ってみることにした。 昼の部では出演者それぞれが歌丸師匠の思い出をそれぞれに話し、師匠にちなんだ噺を演じる。 年下の芸人にタメ口を聞かれたときにさらりとかわしたエピソードだとか、雨漏りのする楽屋でひとり傘をさしていたとか…師匠がいかにユーモアと優しさにあふれた人だったか、聞いているとすこしずつ浮かび上がってくる。 いやそれだって桂歌丸、

      • パパゲーノ、メルヘンの影

        モーツァルトの「魔笛」は日本で最も上演されているオペラ、と言っていいほどの超人気作品だ。かなり抽象的でフリーメイソンの思想を組み込んだ難解な内容にも関わらずいまだに人気なのは二つの有名なナンバーのおかげ、とよく言われる。ひとつは夜の女王のアリア「地獄の復讐は我が心に燃え」。そしてもうひとつは「パパパの二重唱」。パパゲーノはその名前のとおりどこかファニーで愛らしい印象のキャラクターだ。でも、本当に? パパゲーノは架空の国で“夜の女王”に毎朝鳥を納めて、代わりにワインとパンをも

        • “わたし”を覗きこむー「ライトハウス」

          A24製作のスリラー映画「ライトハウス」。2時間にわたって白黒・ニ人の男の会話劇・そして正方形の画面が続く、一言でいえば「やばい映画」でした。(縦横の比は厳密には1.19:1。音入りの映画が作られ始めた頃のスタイルなんだそう) 1890年代、ニューイングランドの孤島に2人の灯台守がやって来る。 彼らにはこれから4週間に渡って、灯台と島の管理を行う仕事が任されていた。 だが、年かさのベテラン、トーマス・ウェイクと未経験の若者イーフレイム・ウィンズローは、そりが合わずに初日から

          戒厳令下の新宿3丁目にて

          5月16日日曜、17時過ぎ。丸の内線の車内は半分ほど空席だった。駅の地下通路にも若いカップルの姿は少なく、日曜の夕方なのにどこか落ち着いた寂しさを感じさせるほどだった。見慣れた「C3」の出口から地上へと上がる。緊急事態宣言下の新宿、感染のリスクが高いことは承知している。それでも、いや今だからこそ行ってみたい場所があった。 “明日からの興行ですが、関係各所とも協議した結果、感染対策を維持しつつ興行を行う事と致しました。昔からの伝統芸能で今も尚 途絶えずに伝わっていると言う事は

          戒厳令下の新宿3丁目にて

          勝手にしやがれ。

          ジャン・リュック・ゴダール監督作。 ゴダールは1930年生まれ、“ヌーベルバーグ”の代表格とされる映画監督です。 ヌーベルバーグとは1950年代から60年頃にかけて作られたフランス映画のジャンルのこと。 映画評誌で「新しい波きたる」と書かれたのがきっかけだとか。 トリュフォーやゴダールなど若い監督たちが活躍し、それまでの名作を打ち壊すような自由奔放な作品を発表しました。 ロケ撮影や即興的な演出が多用されたドキュメンタリーのようなリアリティが特徴的です。 この映画にもでてくる

          勝手にしやがれ。

          もう二度と観たくない。    ー「異端の鳥」

          ・・・ポスターを見ればどんな感じの映画か、誰だってわかりますよね。 予想より遥かに重い、しかもショッキングな映画でした。変な汗が出まくり、風邪をひくまえみたいな悪寒に襲われながら3時間、なんとか見終えました。最後のシーン、そして音楽はほんとうに救われるような神々しさでした。 異端の鳥 とは何か?            原作はイェジーコシンスキの小説「the colored bird」。コシンスキはユダヤ系ポーランド人でWikipediaによると 第二次世界大戦中は両親と

          もう二度と観たくない。    ー「異端の鳥」

          ふたつのTENETのなかで僕らは生きている。ー私的“TENET”論!

          クリストファー・ノーラン監督「TENET」、近くにできたばかりのIMAXシアターで観てきました。とにかく圧倒的な臨場感、スケールのデカさ、音のうるささ(笑)!たしかに複雑な構造で頭を捻るところもありましたが、ジェットコースターにのっているような快感の連続でした。①映画自体がTENET的(回文的)な構造をしていて、カメ止めのような伏線の回収に息を呑むシーンもあり、②「地図にない街」とか「絵画を盗み出す」とか男の子のロマン的要素もあり、③ダークヒーローの魅力や主人公の切ない片思い

          ふたつのTENETのなかで僕らは生きている。ー私的“TENET”論!

          私的“パラサイト”論

          アカデミー賞受賞の次の日、満員の映画館の凄まじい熱気の中で見たパラサイト。(その時はまだ公開館数もそこまで多くはなかったはず。)コンクリート打ちっぱなしの建物で起こる濃密で現代的なドラマ、僕の好きな感じの映画でした。女優さんみんな美人だったけど、いちばん可愛かったのはちょっとだけ出ていた宅配ピザの社長!!そんなことはどうでもいいんですが。あと、主題歌もよかったよね! 苦い焼酎がこのグラスに溢れたら僕の爪の間の垢が湿ってくる。赤いほおに今やっと、雨が降るね。 ポンジュノ監督

          私的“パラサイト”論

          ゲスの極みで生きていけー“グッドフェローズ”

          さてさて、今回はマーティン・スコセッシ監督“グッドフェローズ”。古い映画ではありますが、疾走感あふれる正真正銘のギャング映画です。 あらすじはこんな感じ→実在のギャングたちの生き様を描くドラマ。ヘンリーは幼い頃からマフィアの世界に憧れ、12歳の時からブルックリンの街を牛耳る“ポーリー”のもとで使い走りを始める。やがてヘンリーは本物のマフィアとして、ジミー(ロバート・デ・ニーロ)や、チンピラのトミーたちと共に犯罪に手を染めようになる。何度かの刑務所暮らしを経て、ヘンリーはカレ

          ゲスの極みで生きていけー“グッドフェローズ”

          無関心に希望はある。ー“ハッピーエンド”をみて。

          ミヒャエル・ハネケ監督作。静かだけどかなりガツンとくるこの映画・・・。観た次の日はちょっと考え込んでしまいました。 あらすじはこんな感じ→ フランス北部、移民が多く暮らす町、カレー。建設会社を経営し、大きな邸宅を構えるロラン家に生まれたエヴは、両親の離婚をきっかけに家族と距離を置いていた。だが父親のトマと暮らすことになり、祖父ジョルジュのいるカレーの屋敷に呼び出される。やがて、家族の秘密が少しずつ明らかになっていき……。 身近にいるのに無関心  この映画、まず違和感を感じ

          無関心に希望はある。ー“ハッピーエンド”をみて。

          桐島、部活やめるってよ。をいまさら見た。

          朝井リョウ原作、吉田大八監督。ある日、バレー部のキャプテン桐島が突然部活を辞めたことをきっかけに、校内の人間関係に徐々に歪みが広がりはじめ、それまで存在していた校内のヒエラルキーが崩壊していく。第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀監督賞、最優秀編集賞。 「あるんだよ。あの人たちにもあの人たちの気持ちが」 この映画、なんと題名役の桐島が最後まで出てこない!(一瞬、らしき人が映るところはあるけど、、)バレー部のエースでたぶんクラスのまとめ役で人気者だったはずの桐島の“周

          桐島、部活やめるってよ。をいまさら見た。